【祝200万pv】伝奇ゲーム世界の必ず死ぬかませ犬に転生したオタクが生き延びる方法
bigbear
第一章 かませ犬の原作ブレイク
第1話 オタク、かませ犬に転生す
「――バカな、この私が!?」
顔立ちこそ整っているものの、いかにもモブキャラにしか見えないキャラデザの青年がそう叫んだ。格下だと思っていた序盤のボス敵に予想外の手を使われ、無残に敗れ、死んだ。
この青年の名前は
彼のかませ犬っぷりはそれはもう悲惨なもので、いかなるルートを辿っても酷い死に方をする。
「うわああああああ! し、死にたくない! 私は蘆屋道孝だぞ――!」
ちなみに、別のルートでは主人公「
「や、やめてくれ! やつの、
さらに別のルートでは自分の命惜しさに仲間の情報を喋ろうとして、話そうとする前に殺される。情けない。
こんな有様なのでこの蘆屋道孝君、プレイヤーからの人気もない。ある人気投票では驚異のゼロ票という結果を叩き出し、あだ名が『ゼロ票』になったことさえもある。
まあ、そんな感じでひどい目にあいまくるのが蘆屋道孝なのだが、これには原作のBABELのゲームとしての特徴が大きく影響している。
BABELにおいては基本的に異界と呼ばれるダンジョンを探索するのだが、そこには悪霊やら妖怪やら魔物やらが跋扈しているし、そもそも異界そのものが多くの場合、侵入者への殺意に満ちている。
より、シンプルに言えばゲームの難易度が高い。卓越した能力をもつ主人公御一行でさえ適当にプレイしているとしょっちゅう死ぬのだ。蘆屋道孝のような半端なうえに油断してるやつはすぐ死ぬ。
くわえて、アドベンチャーパートの選択肢にも死が満ちている。
BADエンドの数だけでも40を越えていて、結末では主人公一行が全滅、世界が滅んだりする。
ついでに言えば、蘆屋道孝もそのうち38個でさらっと死んでいる。本編で描写されてなくても、設定資料に軽い調子で『この時、蘆屋君は死んでます』と原作者に明言されていた。
彼に原作ファンが付けたもう一つのあだ名は「時報」。ルート分岐とほぼ同時に死ぬことからこの名がついた。あだ名が多いのは人気キャラの証というが、こいつは例外だ。
そして、ここからはオレの話になる。
オレはゴリゴリのオタクでこの「BABEL」、ひいては続編である「異界探索者シリーズ」の大ファンだ。ファン度合いでいえば、日本一、いや、世界一と言っても過言ではないと自負している。
なにせ、プレイ時間は驚異の5000時間超。運営が知らないバグを発見し、メールで報告したこともある。お便りでの質問コーナーで原作者から「またこいつだよ」と半笑いで言われたこともある。
それになにより、オレの前世での死因はBABELだ。
病気になって入院中、『BABEL』の同一世界観の新作『異界探索記ハデス』を看護師に隠れてプレイしていたら、心臓の辺りが苦しくなって意識を失った。
愛に殉じたのだ。ざまあみろ、掲示板でレスバしてたオタクども。悔しかったら同じことしてみろ。
幸福な最期だった。最後にプレイしたゲームがBABELの新作なんてファン冥利に尽きる。だが、喜べたのはここまで。次に目覚めた時には蘆屋道孝になっていた。
転生したら作中で唯一嫌いなキャラの
そのことに気付いたのは6歳の誕生日のことだ。朝、鏡を眺めていて突然、前世の記憶が蘇った。周りの人間もオレを『蘆屋道孝』と呼ぶし、境遇もオレの知る蘆屋道孝のそれと完全に一致しているから疑いようはない。
原作における蘆屋道孝の享年は17歳。17歳になってからの1年間のどこかという幅こそがあるが、その間にほぼ確実にオレは死ぬことになる。人気投票で誰からも投票されない、18歳になる前に死んでしまう悲しいやつなのだ……。
運命の1年までの猶予は約10年。長いようで短い幼年期の全てをオレは生き延びるためだけに費やした。
つまり、修行だ。鍛えて鍛えまくって、原作の蘆屋道孝よりはるかに強くなっておけば死亡確率はだいぶ下がるはずだと信じて修行に明け暮れた。
その結果、ゲーム中盤くらいまでは無双できる程度の強さは手に入れた。単純な魔力量、つまり、MPは原作の蘆屋道孝の2倍はあるし、式神も強力なものを揃えた。さすがに最終版のメインキャラどもには勝てないが、序盤の頃なら負ける要素はない。
そうして、現在。BABELの本編が開始してから1年、原作シナリオは完全に崩壊した。
原作ヒロインたちはオレの周りに集まって誘惑してくるし、そもそも男性だった原作主人公「土御門 輪」は女性になっていた。もはや、残っているのは舞台と設定という土台だけだ。くそ、なんだこの愛のない二次創作は、書いたやつ出て来いよ。
事の発端は、今から1年前の4月1日、オレが原作の舞台である聖塔学園に入学したその日。思えばこの時から、オレの原作ブレイクは始まっていたのかもしれない。
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