33.許されない罪を自覚した

 復活するまでの間、ぼんやりと記憶は残る。痛みや苦しみは死んだ時だけだが、再生する間に見聞きしたことは覚えていた。


 魔王ではなく、竜王。間違って殺してしまった事実を、ここでようやく知った勇者は頭を抱えた。正直、戦いたくて戦ったのでもない。命じられて仕方なく……そんな状況で相手を間違えて、無関係のドラゴンの首を落とした?


 地鳴りや地震、火山の噴火、相次ぐ洪水や災害……すべてはドラゴンの怒りだった。同族を殺された悲しみや怒りは、きっと人も竜も同じだ。


 罪悪感が心を黒く染めていく。神官は発狂して泣き喚いた。心を病んだ彼女を落ち着かせた勇者は、周囲を見回す。持たされた資金は、文字通り溶けてしまった。だらりと固まった金を見つけ、掘って回収する。


 剣は失われ、装備もすべてない。これはもう、死んだってことでいいんじゃないか? 女神の呪いと魔族も言っていた。死なない呪いなら、これからも苦しむのだろう。それでも……。


 国王に協力したいとは思わないし、魔王含めドラゴンと対立したくもなかった。彼らが復讐したいと望むなら、それに応じよう。完全消滅するまで詫び続けよう。覚悟を決めて、神官の手を引く。せめて彼女だけは助けたかった。


 一番近い村で、神官であることを告げて彼女を託す。どこかの小さな修道院へ預けて欲しいと。人の良い田舎の老人は、快く引き受けてくれた。


「ドラゴンの巣はどっちだ?」


 筋を通すなら、まず詫びる。潰されても燃やされても、復活するたびに謝るのだ。勇者はドラゴンが飛び去った南へ向けて歩き出した。








 用意された巣穴に飛び込んだアザゼルは、卵をまず干し草の上に置く。転がらないか確認し、くるりと丸くなった。それから卵を引き寄せる。包んで温めるアザゼルが寝転ぶ大地は、火山の影響で温かい。地熱の影響で、洞窟全体もほんのり熱を帯びていた。


「いい洞窟ですね」


「だろう? 結構探したんだ」


 追いついたベレトが、ちょっとだけ卵を抱かせてくれと強請る。少し迷ったが、食事もしなくてはならない。彼に任せることにした。ドラゴン二匹でも余るほど広い空間で、卵の受け渡しは慎重に行われる。時間をかけて引き渡し、アザゼルはベレトの上に置いた卵の向きをくるりと裏返した。


「これでよし」


「今のはなんだ?」


「均等に温めるため、半日ごとに回すんです」


「へぇ、知らなかった」


 ベレトは素直に「賢くなった」と喜ぶ。機嫌のいい彼に任せ、アザゼルは洞窟を出た。人族の都がない深い森の奥、魔王城と以前の巣穴との位置関係は三角だった。つまり、まったく方角が違う。これなら間違えて襲撃されることもないでしょう。


 胸を撫で下ろした直後、アザゼルは大量の巣穴と同族の気配に気づいた。この巣穴を取り巻く形で、ほぼすべてのドラゴンが集まっている。この世界にいた数十匹が、子竜も含めて巣穴を構えた。


「これなら襲撃の心配はいりませんね」


 魔族を率いた魔王の襲撃でも、手前で尻尾に叩き落とされるでしょう。満足げに頷き、近くの森へ狩りに出かける。そこで見つけた湖で、多くの魚を平らげた。空腹を満たせば、主君の卵が気になる。どしんどしんと地を揺らしながら走り、ふわりと舞い上がった。


 空から見る森は美しく、動物や自然が豊かだ。壊してしまうのは勿体無い気もしますが……気がするだけですね。アクラシエル様の方が大事です。一瞬で感傷を投げ捨て、黒い竜は青い空を舞った。

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