31.巣穴完成のお祝いブレスが山を貫く

 ナベルスは安全な巣穴を探すよう、各ドラゴンに通達を出していた。竜王陛下がまもなく復活する。その住処に相応しい、暖かくて寝心地のいい巣穴を探すのだ。


 竜族はわずか数十匹、他の同族は故郷である別世界にいる。稀に請われてどこかの世界を助けていたりするが、この世界のように出来立ての世界を預けられることはなかった。成熟した世界の刺激や、崩壊への起爆剤としてドラゴンに協力要請する神が多い。


 若い神々の中には勘違いしている者もいる。ドラゴンは神の創作物ではない。原始の世界にドラゴンが生まれ、続いて神が現れた。別の次元から侵入した異物が神なのだが、彼らは共存を許した経緯がある。


 対等どころか、この次元で最高位の生物はドラゴンだった。新しい世界を創造し、そこへ竜を組み込んでいく。その手法が興味深かったので、今まで手を組んできた。しかし今回の女神の失態で、ほとんどのドラゴンは怒りを露わにした。


 自分達の王が、いくら寝起きとはいえ……女神の武器で首を落とされた。最悪の事件であり、数匹のドラゴンは契約を破棄して各世界を崩壊へ導いた。それでも神々は文句の言えない立場だ。


「ナベルス、こちらは」


「いえ、この火山の脇は過ごしやすいかと」


 いくつも候補が上がり、その度に長所と欠点を並べていく。より長所が多い洞窟を残し、多少のデメリットは力技で解決することにした。


 暖かいが暗い洞窟に光を灯し、狭い空間を広げる。これは水竜が水で慎重に削り取った。崩れないよう周囲の岩盤を地竜が固め、火竜達が地熱の活性化を促す。幼い子竜達も干し草を敷き詰めたり、人族から奪った布団を広げた。


 ふわふわで居心地のいい空間を好む主君のため、この世界のドラゴンは総動員である。それが一段落つくと、ドラゴン達は自分の巣穴を用意し始めた。竜王が望むまま、それぞれに散らばって世界に力を流してきた。彼の好意の結果が、今回の事件だ。どの竜も「今度こそ主君を守る!」と気合い十分だった。


 近くに巣穴を構え、近づく者を片付ける。竜王の卵が孵り、移動に耐える成長を見せたら、徹底的に滅ぼす気でいた。これはもう、アクラシエル一人が反対しても止まらないだろう。


「俺はここ」


「アザゼルの巣も用意すべきか?」


「アイツはこだわりが強いから無理だろ」


 他竜が用意した巣穴に満足しないと思う。そう告げる同族に、ナベルスは苦笑いした。事実なので否定もできない。


 場所の候補地だけ用意し、自分の氷穴を完成させた。快適に過ごせる巣穴に寝転がる。アクラシエルを迎える日が楽しみだ。周囲では、別のドラゴンが咆哮を上げる。祝いだと盛り上がり、空にブレスを放つ奴も現れた。誰も止めない。


 やがて空に向けられていたブレスは、どこまで届くかの競争になり……いくつかの山脈を崩した。傷口を塞き止めるカサブタに似た山頂が壊れ、溶岩が噴き出す。その火山活動は、様々な生き物を怯えさせた。


「……魔王よりドラゴン一匹の方が怖い」


 魔王ゲーデは鼻先を掠めたブレスを回避しながら、溜め息を吐いた。世界を慈しんだ分、憎しみも倍増したのだろう。そう呟く幼女の声には、外見から想像できない達観した響きがあった。


「そんなこと、最初からわかっておりますでしょうに」


 側近バアルは魔王を抱えながら、ゆっくり低空飛行を始めた。上空ほどブレスの危険度が高い。いっそドラゴンの巣の近くに住んだほうが、攻撃が当たらないかもしれない。そんなことを考えるも、想像する脳裏で魔王城が吹き飛ばされ、踏み潰された。己の想像に叩きのめされたバアルは「無理ですねぇ」と眉尻を下げる。


「お腹すいた」


「承知しました、どうぞ」


 我が侭な幼女の口にチョコレートを押し込み、ふと気になって首を傾げた。そういえば、献上したお使いのチョコレート……誰が召し上がったのか。

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