17.魔王が幼女で、幼女が魔王
「アイツらに力を貸してやればいいのだ」
「……我が主君はバカなのでしょうか」
それくらいなら、魔法で連れてこいと命じられる方が余程マシだ。強くすれば、この洞窟までの道沿いに住む魔族が危険に晒される。最後に魔王と対峙するが、その際も苦戦するだろう。
懇切丁寧に理解させようと試みるバアルに、幼女は「うぬぅ、良い案だと思ったのだが」と諦めきれない様子。
「勇者を人族の領域で叩きのめせばいいじゃないですか。無理にここへ来させる必要はありません。最強の魔王は自分だと宣言なさっては?」
バアルの言葉に、ゲーデは目を輝かせた。リボンと同じ赤い瞳が爛々と輝く。どこか禍々しいが、この瞳は魔眼と呼ばれる凶悪な能力を秘めていた。己より魔力が低い相手の心を操れるのだ。
バアルはそっと目を逸らした。慣れているから耐性はあるが、うっかり操られたくはない。
「さすがバアルだ! よし、叩きのめしにいくぞ」
……宣言しに行くのでは? 途中でどう解釈されたのか、自分の言葉が間違って翻訳される機能でもついているのでは? 主君をじろじろと眺めた後、バアルは素直に頭を下げた。
「承知いたしました、魔王陛下」
竜族の王が眠る洞窟へ呼びつけて戦うより、よほどマシだろう。先ほど飛んできた火口の上を、今度は逆方向へ向かった。もちろん魔法で飛ぶのだが、背の翼は必須アイテムだ。抱っこした魔王ゲーデが供給する魔力で、先ほどより速く飛べた。
「火口は完全に崩れてしまったのぉ……アザゼル様はご無事だろうか」
「別宅に利用していた火山に引っ越されたようですね。勇者騒動が落ち着いたら、直して差し上げたら喜ばれるでしょう」
「それは良い。アザゼル様には、竜王様の件で迷惑をかけたからな」
主君の首を落とされた対価には、到底届かないが。バアルは肩を竦めて何も言わなかった。竜族にはずっと世話になっている。今後も同じだろう。大人と子ども程に魔力が違い過ぎた。魔族にとって神のような存在だ。
迷惑をかけたらお詫びして、捧げ物をする。それは人族が神に対して行う祈りに似ていた。火口の修復なら、ドワーフが強いか。種族の選定をしながら、バアルは先を急いだ。
「あれは……なんだ?」
「魔族に攫われた子ども?!」
勇者と同行する神官が悲鳴に近い声をあげる。ドレス姿の幼女を抱いた悪魔! そう叫んで攻撃態勢をとる。あの子を取り返さなくては、そんな正義感が滾った。
「返せとは何のことだ?」
こてりとゲーデは首を傾げる。距離が近づいて、ようやく聞き取れたのは、後半部分だけだった。しかし耳のいい蝙蝠の特性を兼ね備えた吸血種バアルは、最初からすべて聞こえている。
「ゲーデ様を誘拐された人族の少女だと思っているようです」
「なんだと?! 無礼な!! この立派なツノを見て気付かぬのか。余は当代最強の魔王だぞ」
むっとした口調で吐き捨てる幼女……バアルは溜め息を吐いた。人族の視力で、この高さではツノは気づいていないでしょう。そう指摘したら、私の立派なツノの何が不満だと怒り出すのは目に見えている。先を読みすぎる側近は、何も言えずに呑み込んだ。
「私が魔王ゲーデだ。無礼な勇者よ、竜王様の首を落とした罪を悔いながら死ぬが良い」
あまり、人様の首が落ちた落ちた言わない方がいいのでは……。暴走する主君を支える、バアルの苦労はまだ続きそうである。
「竜王の首?」
「というか、あれが魔王? いや、操られているのか。卑怯なり、魔王!」
「無理です、幼女相手に攻撃なんて」
口々に漏れた言葉に、ゲーデは顔を引き攣らせた。勇者一行の誰一人、彼女が魔王であると認めていない。腹立たしさに、魔力を叩きつけた。
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