04.どこにおられるのですか
「陛下はまだ見つからないのですか」
何をしているのです、この無能どもが。そんな副音声が重なって聞こえる状況に、小柄なドラゴン達は震え上がった。小竜と呼ばれる彼らは、まだ若い個体だった。
竜族は年齢を重ねるほどに大きく、立派になる。数百年程度しか生きていない小竜は、竜王や側近からみれば、幼児だった。それでも大きな竜の世話をして霊力のおこぼれを貰うのが、彼らの日課である。未熟なりに必死だった。
将来、立派なドラゴンになるため、出来るだけ多くの霊力が欲しいのだ。霊力があれば魂も体も育ち、その分だけ強くなれる。小竜達は再び情報集めに散った。最初に竜王陛下の生まれ変わりを見つければ、大量のご褒美がもらえるはず!
失敗しても失うものはないのだから、全力で挑むだけだった。慌てて飛び去る側仕えの小竜を見送り、アザゼルは額を押さえて座り込む。すぐ見つかると思っていたのに、難航している。
おそらく卵か幼体で発見されるだろう。早く保護しなくては、魔族に食われかねない。竜王が雑魚に襲われるなど、目も当てられない事態だった。すぐに呼ばれると思ったのに、半年近く経った現在でも、主君の声は聞こえなかった。
まさか、女神のせいで生まれ変わりに失敗した? 魂に傷がなければ、すぐに転生する。忌々しい聖剣が首を落とした際、魂を傷つけていたなら。
嫌な予感に鱗が逆立った。ぞわっとする恐怖を抑え込みながら、深呼吸する。人型を捨てて、本来の姿に戻った。こちらの方が精神的にも安定する。黒い鱗が鈍く光る洞窟で、アザゼルは主君へ呼びかけた。
――どこにおられるのですか、我が君。すぐにお迎えに参りますゆえ、居場所をお知らせください。
日課になった呼びかけに、返答はない。イラっとして尻尾を叩きつけた壁が崩れた。がらがらと落ちる岩を踏みつけながら、どかっと腹をつけて寝そべった。
「我が君」
ぽつりと呟く。幼い頃に親が亡くなり、孤児となったアザゼルを育てたのがアクラシエルである。親代わりとして立派に育ててくれた彼の無事を、何としても確認したかった。
当たり散らしてしまった小竜達には、後で詫びておきましょう。アクラシエル様は八つ当たりはお嫌いですからね。言いつけられる前に証拠隠滅が大切です。
見つかる前提で考えなくては、世界を滅ぼしてしまいそうだった。生まれ変わるのは死んだ世界で。それが魂のルールだ。そのため竜王の無事を確認するまで、この世界を滅ぼすことも出来ず、ドラゴン達はヤキモキしていた。周囲のドラゴンも手下の魔物や、協定を結んだ魔族を利用して探している。
見つかれば連絡が入るはずなのだ。嫌な予感を振り払い、煮えたぎった火山のマグマに身を浸した。心地よい熱を浴びながら、のたうち回る。溢れたマグマが火山の横に穴を開け、赤い川となって地表を黒く染めた。
人族は知らない。ここ半年続く天変地異の原因が、それぞれのドラゴンの八つ当たりや苛立ち任せだなど。想像もしていないだろう。頻発する地震、津波、洪水、山崩れに噴火。すべての天災は、ドラゴンが引き起こしたものだ。
それでも被害が控えめなのは、万が一生まれ変わった竜王陛下が卵だったら……という懸念があるから。さすがに卵では、あっさり潰れてしまうかもしれない。それは避けなくてはならなかった。
「早く、返事をください」
アザゼルの切ない声が火口に響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます