人間レンタルサービス
無名乃(活動停止)
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「ねぇ、
太陽が消え、大きな木に絡まったイルミネーションが星のように輝く。光のせいで男女の姿が影となるも恋人のように手を繋ぎ、身を寄せる姿が聖夜にはピッタリだ。
「好きだよ。小春は優しいし子供っぽくて可愛いから」
「えへへッじゃあ、キスしてよ。もう時間 なんでしょ」
「子作りするつもりはないから頬でも良い?」
「あーやめてよ。せっかくの空気がぁ~」
「はいはい、すみませんでした」
男性は女性の頬に口付けすると横目でスマホを確認し「おわり」と優しく彼女から離れる。
「一人クリスマス寂しかったから“彼氏”になってくれてありがとう。また、指名しても良い? しつこいかな」
「あーいいよ。ご指名大歓迎。でも、予約結構あるから余裕もって予約してね。あと、これ――Merry Christmas」
チョークバックから小さな箱を取り出し彼女に差し出す。それは、赤と緑のマフラーをつけたジャーマンクッキー。
「楽しかったからお代は入らない」
「きゃーありがとー!! 烏賀陽って評価5だったからお願いして良かったよ。じゃあ、私からも――Merry Christmas。また、会おうね」
女性と別れ、終電のせいか誰もいない静かな電車。そこで一人寂しそうに烏賀陽が腰を下ろす。
「鈴木小春、ね」
ネクタイを緩ませ、軽くジャケット脱いでは鳴り止まないスマホを見る。
予約10件。
メール15件。
メッセージ20件。
着信5件。
一旦開くも疲れたか。内容を見ず画面を消し、再び付けては動画観覧。誰もいないことを確認し、音量の半分まで上げては女性の悲鳴が反響。痛みに泣き叫ぶ声がとても心地よく疲れを忘れさせる。
「はぁ……いいね。気持ちがいい。さて、可愛い子達に返信しないと。珍しい男性から来てる。でも、その前に」
手帳を取り出し、今日雇ってくれた人の服装や性格・特徴を細かく書き込む。何をしたか何を送ったかと1ページに箇条書き。『レンタル彼氏』『ただ話を聞くだけの人』『レンタル友達』『レンタル教師』『心理カウンセラー』など、知らぬ人に雇われ出会った人々の名簿。写真やプリクラと何かしら記念になるものを挟んでいるか分厚い。
「これでよし」
ブブッとバイブが鳴り、さらに通知。
「あーはいはい。ちょっと待って」
メールやSNSを確認しながら、時より正面の窓に映る自分を見てはクスッと笑った。
※
電車を降りるとネオン煌めく騒がしい街。駅近くのビジネスホテルに向かおうとするも数人の女性に声をかけられる。
「お兄さん、私達と遊ばない?」
「今なら安くするよ。どう?」
太ももがぱっくり空いたドレスと胸の谷間が見える色気あるドレス。蛇のように絡み付き、甘い声に顔を向けるが今日はその気になれず。
「悪いね。今日はやめとくよ」
丁寧に謝り、腕をほどくと手の甲にキス。
「また今度。誘って」
甘い声でそう返し手を振った。
カーテンから日が差し込む。
「ん……」
額に手をやり目を開けると体がやたらとスースーする。上半身を起こすと記憶はないが服を脱ぎ捨て散らかった寝室。一人で体に触れて――なんて考えたくないが。半分ボタンが取れたYシャツにだらしなく垂れたベルト。ベッドでやったんじゃないかと思わせるような乱れた服装に溜め息を漏らす。
「えっと今日は夕方だったよね」
枕元にあったスマホに手を伸ばし、SNSで予約とコメントの確認。しかし、特に予約もコメントもなく起きたことを呟くことに。
【烏賀陽@人間レンタルサービス】
『おはよー、皆。今日の午前空いてるから構ってちゃんがいたら買ってね』
呟き、もう少し寝ようかと布団に潜るが――ブブッと不意を突くように鳴る。
【保城@BL同人作家】
『あの烏賀陽さん。お世話になっています。保城です。明後日、同人を描きたくいつものことですが僕のお店に来てほしいんですが大丈夫ですか? お返事お待ちしております』
【こう@なっちゃん推し】
『早朝からごめんなさい。実は友達と遊ぶ予定がドタキャンされてしまい、イベント整理券があるので良かったら一緒に行きませんか場所は――』
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