宇宙人は、ワレワレハウチュウジンダと言わない。

あめはしつつじ

 羽田空港にUFOが着陸した。

 発信している電波は、


 一対一の対話を望む。




 SFファンの友人からは、

「お前が羨ましいよ」と言われた。

 滑走路をゆっくりと、歩いてゆく。

 遠くにあるUFOを自分の目で確認した。

 ミキサーみたいだ、と思った。

 高さは5mほど、

 2m程の銀色の円錐台に、

 透明な3m程の円柱が乗っている。

 解析調査によると、

 透明な金属らしい。

 技術が違いすぎる。

 望むものが対話で良かった。

 戦争などしたところで、勝ち目はない。

 最も相手からすれば、

 未開墾の田舎の土地など、

 いらないのかもしれないが。

 UFOの目の前までやって来た。

 向こうから私は見えているのだろうか?

 両手を挙げ、武器や敵意のないことを示す。

 UFOから私の足元に向けて、

 何かが伸びて来る。

 階段だ。

 謎の光で連れ去られるのではないかと、

 怯えていたけれど、一安心。

 乗り降りは、意外と原始的なのだな。

 一歩目を登る時、

 ニール・アームストロング船長の、

 あの言葉を思い出した。

 この一歩は、

 人間にとって小さな一歩だが、

 人類にとって偉大なる一歩だ。

 階段を登りきると、

 透明な金属の壁が、

 切れ目なく、音も立てずに、

 開いた。

 私は、中に入る。

 真ん中に立てば良いのだろうか?

 声が聞こえる、

 耳でなく、脳の、頭の中に直接、

 聞こえる。


「我々は」


 扇風機の前で、

 誰もがやった宇宙人の声などでなく、

 ゆっくりと明朗とした声。


「一対一の対話を望む」


「わ、私は、地球人の代表として、

 ひと、一人でやって来ました」

 緊張のせいか、少し早口で、

 うわずった声になってしまう。

 深呼吸をする。


「我々は、一対一の対話を望む」


「私が代表して、対話をしにやって来ました」


「我々は、

 ただの対話を望んでいるのではない。

 一対一の対話を望む」


「で、ですので、私がこうして、一人で、」


「お前は、一人ではない」


「いえ、こうして私一人で、

 対話の内容は、録音もしていませんし、

 盗聴も不可能な状況にしております」


「お前は、一人でない、一、でない。

 人類の、何十億分の一、にしかすぎない。

 我々は、一対一の対話を望む。

 そのために、これを送ったのだ」


「これ、とは。この、」


「これは、君らと我々とを、

 一対一の対話ができる、位置にする装置。

 一にする装置。

 人類ホモサピエンス

 均質化ホモジナイズする装置」


 キーンと、高い嫌な音がする。

 頭上で何かが回っている気がした。

 わ、私は、わた、私は、

 だ、誰だ、誰の考え、誰の思考、

 誰の思い出、誰の記憶、誰の感情、

 誰だ、誰だ、だれだ、だだ、だだ、だだ、

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ




「ワレワレハチキュウジンダ」

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宇宙人は、ワレワレハウチュウジンダと言わない。 あめはしつつじ @amehashi_224

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