第2話 クラスメイトと違和感
ホームルームが終わると、ありがたいことに何人かが俺の席の周りに来てくれた。
自己紹介の反応が微妙だっただけに、一時はどうなることかと思ったが、一安心。
女子も仲のいいグループがひとまとまりで来てくれたらしく、五人もいる。男子と会わせて総勢十人ほどだ。大所帯でしかない。
「それで、敷和くん。これ、やっぱり聞いとかなきゃなって思ったんだけど、関西といえば都会じゃん? 都会と言えば、人が多い。イコール可愛い子も多い。どう? どうだったの? 周りに可愛い子たくさんいた? てか、彼女いた?」
猿顔の男子――確か、名前は
小笠原が冗談っぽくニヤニヤしながら問いかけてくる。
ツッコみどころの多い質問だ。
俺は苦笑しつつ返した。
「いや、彼女はいなかった。可愛い子は結構いたけど、関西っていっても全部が都会ってわけじゃないし、俺が住んでたとこもすごく都会だったってわけじゃないんだよ」
「うそん? そなの?」
俺が頷いたところで、小笠原の傍にいた長身の男子が「そりゃそうだろ!」と遂にツッコむ。この人は
「お前なぁ、関西って言ったってどこも都会だったらやべぇだろ。冷静に考えたらわかるし」
「いやそりゃわかってたけどさー。俺の中の都会に憧れてる俺が言うんだよ。関西は全部都会だと思っとけって。夢持っとけって」
「そんな夢持つ必要ないわ!」
「じゃないと大学受験へのモチベに繋がんないじゃん! 可愛い子いっぱいーって!」
なるほど。よくわかった。
この小笠原はいわゆるクラスのムードメーカー的な存在だ。
友人グループとかじゃいじられ役ではあるものの、いてくれたら助かる典型的なタイプ。
やっぱどこにでもこういう奴はいるんだなぁ。すごいよ。俺には絶対真似できない。
「ほんと小笠原ってバカだよね。どーせ都会に行ってもモテないから意味ないって」
女子が小笠原を叩き始める。
この人はいかにも女子グループのリーダー格って感じ。
校則上、髪を染めたりはできないから髪色は派手じゃないものの、制服の着こなしや佇まいだけでオーラが出てる。絶対卒業したら髪染めして一気に見た目が変わるタイプ。断言できる。
周りにいる女子たちも橋上さんに続いて同意の意見を次々に飛ばしてた。一斉攻撃。気の毒だが、言ったセリフがセリフだ。小笠原。仕方ない。
「ねー、伸介からもなんか言ってやってくんない? このバカに」
で、だ。
ようやく、さっきから一際違う雰囲気を漂わせてた男子へ話が振られる。
「ん? 何? 俺?」
「そー、伸介。このおバカに一言!」
橋上が言うと、その男子――
「別に何もないよ。あ、でも敷和くんの機嫌損ねてたらある。今日から泰司アンチになる(笑)」
「えー! そりゃないよ、シン君! シン君だけはいつも俺の数少ない支持者だったのにぃ!」
「あははっ。ぼっち確定おめでとー、たいぽん」
さりげなく女子グループの一人、
「いやいや。安心して。別に俺、機嫌損ねてたりとかしてないから。そのくらいで怒ったりはしない」
苦笑しながら言って小笠原に助け舟を出してやる。
すると、一斉に「おーっ」と声が上がった。
「よかったな、泰司。伸介にアンチになられずに済んだ」
「それな。奇跡。敷和くん、遠慮しなくてもいいんだよ? うざかったらうざいって言ってくれて全然オッケー。むしろ、言って、みたいなとこある」
橋上が耳打ちするみたいに俺に言ってくるが、それを聞いてた小笠原は「おいーっ!」と止めに入って来た。別に言わないから安心していいのに。
「はははっ。でもまー、こんなんだけどさ、これから同じクラスメイトとして仲良くやろーよ、敷和くん」
「ん、うん。よろしく」
軽く会釈しながら、氷堂に返す俺。
彼は俺の肩に手をポンと置き、さらに続けてきた。
「見ての通りだけどみんないい奴だし、たぶん困ってたら色々助けてくれると思う。何なら、俺が一番助けになるよ。移動教室とか、全然教室の位置わかんないよね?」
「まあ……そうだな。全然わからん」
「だよねぇ。おっけぃ。なら、さっそく今からの授業移動教室だしさ、俺が案内したげる。行こっ」
「お、おお……」
もう、か。
ただ、ありがたい。こうして初日から友好的な人間関係が築けるとは。これは滑り出し上々なのかも。さっきまであんなに萎えてたのにな。
「え。じゃあアタシらも行く。伸介」
「いいよ。なら、みんなで行こーぜ」
そんなわけで、ここにいるみんなと一緒に行くことになった。
一時間目は確か化学。これは理科室かどっかでやるっぽい。
カバンから化学の教科書とノートを取り出し、席を立つ。
立ったところで、ふと隣の空席に視線が行った。
そういえば、あの子……。
「あのさ、ちょっといいか?」
「ん? 何々? さっそくどうかした?」
首を傾げる氷堂。
俺は彼に気になったことを投げかけた。
「隣の席の……小祝さん。なんかさっき見たら少し濡れてるっぽかったんだよな。気付いたりとかした?」
本当に何気なく質問したつもりだった。
が、なぜか一瞬彼の表情に陰ができたような気がした。
微笑を浮かべたままだから、それがより一層不気味に思えた。
橋上さんたちは顔を逸らしてる。
聞いちゃいけないことでも聞いたのか?
そう思った矢先、氷堂はさっきと同じような明るい感じに戻っており、
「そう? 全然気付かなかった。気のせいじゃない?」
なんて風に言うだけだ。
気付かなかった、か。まあ、そりゃそうだよな。
「そんなことよりさ、早く行こうぜ? 俺、案内のプロだから」
「お、おう」
肩を組まれ、俺は氷堂たちと一緒に理科室へと向かうのだった。
拭い切れない違和感を覚えながら。
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