吸血鬼Vtuber、設定された世界に転生してしまう~異世界でも配信されてバズってるんだが?~

蜂谷

第1話 転生

「こんヴァンは~、今日も暑いな、てか温暖化やばくね」


 今日も俺は顔も知らぬ相手に向かい定番の挨拶を行う。

 一言添えられる話題は正直もう手詰まり感が否めず、新鮮さがない。


 配信画面上には左から右へとコメントが流れていく、最初はポップアップしたチャット欄を使っていたが人が増えてからソフトを導入して流れるように変更した。


[ヴァンは~]

[今日もかっこいいね]

[待って、今日いつもより声よくない?マイク変えた?]

[かわいい]

[今日もスナイプするね]


 固定のリスナーからいつも通りのコメントが返ってくる。

 ああ、固定って分かってしまう程度には俺は弱小配信者だ。


 これはこれで悪くはないが、目指すのはもっと大手のVtuberだ。

 流れるコメントの一つに反応して返事をする。


「マイク? 変えてない変えてない、俺の魅力、また上がっちまったか?それじゃあいつも通りBpexしていきまーす」


 慣れた動作でゲームを進めていく。BpexはFPSのサバイバルゲームだ。

 三人一組となって、アイテムや銃を使い、全ての敵を倒し最終的に生き残った者が勝者となる。


 俺はランクで言えばダイアモンド、上から三つ目のまあそこそこうまいじゃんって言える程度のレベルだ。


 配信の片手間にやるにしは上々ではないかと自画自賛している。


 これだけはそこそこ自信があるので、よく配信で使っている。

 他のFPSにも手を出しているがやはり実力不足なのか、あまりいい成績を出せていない。


 カッコよさで売る配信者としてはあまり無様な格好は見せられない。

 なので得意なゲームを擦るだけ擦る。


 しかしゲーム自体の人気が落ちてしまうとそれだけ視聴者が離れる可能性もあるため、今は陰で他のゲームも練習中だ。


 こっそりやるのが秘訣、努力してる過程なんて見せてもしょうがない。


 実際に目の前で強くなる、ストレスなく成長している姿がリスナーには必要なのだ。

 もしくは最初からそこそこ強いとかな。


 今日も何回か勝利を納め、締めの挨拶に入る。


「それじゃあ今日はここまで、ヴァンつ~」


[ヴァンつ~]

[今日も強かった~]

[かっこいい]

[マッチングしなかった]



 俺は流れるコメントがなくなるのを見てから、配信の停止ボタンを押し、カメラの電源を切り一息ついた。

 右手に持っていたコントローラーを机において椅子に深く座り込む。


「な~にがヴァンつ~だよばからしい」


 誰もいない部屋で俺は悪態をつく。自分で始めた挨拶だが妙に定着してしまった。

 俺は野中正のなかただし、またの名を個人系Vtuberヴァンピだ。

 設定は吸血鬼。


 依頼したイラストレーターが力を入れたらしく、ご丁寧に世界観や口癖、性格、弱点、、飼っている使い魔など細かく用意されている。


 俺はその設定をほとんど使わずにいるので、イラストレーター泣かせとも言えるだろう。

 そんな熱入れられても困るんだよな、こっちはお金の為だけにやってるんだから。


 現実の俺は声だけイケボのブサメンだ。

 だから顔を隠して活動出来るVtuberという職業が在って本当に良かったと思う。

 今どき声優なんて顔出し上等で声なんかに二の次、とてもじゃないがやってられない。


 あと俺は普通にコミュ障だしな。


 俺の配信は百数人のリスナーで成り立っている。

 いわゆるガチ恋勢を凝縮したような感じだ。

 広告収入と投げ銭、アミゾンギフトでどうにか生きていけている。


 配信内容はゲーム配信。無料出てきて尚且つリアクションに困らない便利な道具だ。

 突発配信とかはあんまりしない。

 定期配信の方が安定したリスナーを得られるからだ。


「もっとビックになりてえな」


 数万人を集めるVtuberに憧れを抱きつつ、布団へもぞもぞと入った。


 明日はもっといい日になる。バズってしまう未来を想像して眠りについた。






 朝日が差し込んでくる。う~ん、カーテンは明けてないはずだぞ。


 俺は妙にすっきりとした頭のおかげで、問題なく目を覚ます。

 日光がいやに眩しく、ほんの少しだるさを覚える。

 今日はちょっと変だな。頭と体の調子が不安定だ。


 俺は顔洗わないと、と布団から起き上がる。

 すると目の前にはいつものパソコンとテーブルが見当たらない。

 びっくりして床に手をつこうとすると、手が空を切り、バタンとずっこけてしまう。


「いてて」


 なんだ? 床の上に寝ていたはずなのに。

 想定外のことに驚いた俺は、周りを見る。

 そこは全く知らない木造の一室。

 俺は混乱する。


 友達の家止まったっけ?あいつの家ボロいしな~。

 いや昨日はちゃんと配信終わってすぐ寝たはずだ。

 あれ? まだ夢か?


「ご主人様~おはようございます」


 誰だ、変な声を出しているやつは。

 俺のスマホの目覚まし時計の音は黒電話だぞ。

 俺はその声の方向を見る。

 そこには、一つ目で小さな翼をパタパタと動かし、宙に浮いてる赤色の謎の生命体がいた。

 こわっ!

 

 でも見覚えがあるぞ……なんだっけ……

 あ、設定資料で見たヴァンピの使い魔、デビアイちゃんだ。


 俺は夢にしては精巧にできているデビアイちゃんをまじまじと見る。

 はえ~こんな感じだったっけ、しっぽまであるのか、でも怖い。

 夢なのに細部まで作りこまれてるな~

 ペタペタとデビアイちゃんを触る。

 意外と悪くない感触だった。

 ……ん? 夢なのに感触? 変だな?


「そんなに見つめられると緊張しちゃいます」


 デビアイちゃんが目から光線を撃ってきた。

 うわっ、この生物攻撃してくる。

 やばいと思ったが、回避も出来ず俺のおでこに当たる。


「いて」


 デコピン程度の威力の光線につい声を出してしまう。

 見た目の割りに痛くなくてよかった。

 


 ……??


 えっ痛い!? 夢だろ!?


 これは夢だよな。まさか現実!?


 俺は自分の姿を確認する。寝巻は、着ていない。白いシャツにチノパンのようなクリーム色のズボンを履いている。

 

 でも少しぽっちゃりしていた俺の腹はへこんでいるし、腕も細い。なんだか視線も高い気がする。

 手は、爪が長い。切り忘れかな?

 なんかちょっと白いけど、元々白かった気もするし気のせいだろ


 俺は違和感を覚えつつも、体を起こしその場で伸びをする。

 木製の枠にはめられたガラス窓から外を見る。外の光景はいつもの、近所の風景ではなく、知らない木造や石で建築された建物が並んでいた。

 完全に知らない場所だはこれ。



 ん? 誰かいる……?


 俺は窓に近づき、かすかに映る人を見る。

 なんだ、反射してただけか。人がこちらを見ているような気がしたのに。

 てことは、これは自分か、……!?


 目の前に映る自分の姿を確認する。そこには銀髪の長めの髪、赤い目をした背の高いイケメン。

 見覚えがある、当然だ。いつも俺の配信画面に映っているのだから。

 そこにはリアルに再現されたヴァンピの姿があった。


 知らない部屋、場所、そして体。

 それらの事実が一つの結論に至る。


「俺、ヴァンピになっちゃたの!?」


 吸血鬼Vtuber、異世界へと転生する。



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