第170話 帰郷とお客

五つ星ファイブスター』を襲撃する予定であったどこかの傭兵集団は、まさか襲撃予定の前日の夜に自分達が襲われるとは全く想定していなかったことで、まんまと大損害を受けることになった。


 五十数名であった彼らは、何者達かの不意討ちにより半数以下まで数を減らされ、リーダーも含めて重軽症者が多いことから依頼の続行は不可能と判断し、翌日の朝一番には撤退したようである。


 ダークエルフのララノアが、偵察に送り込んでいた契約精霊フロスからの報告をみんなに知らせてくれた。


「──ということで、みなさんを襲撃予定であった傭兵団は半壊状態になり、依頼を断念して逃げていきました」


 コウは、一部始終を簡単に、『五つ星』ブランド商会の会長であるゴセイに説明した。


「……なんてことだ……。その傭兵団のリーダーは隻眼だと言ったか?」


 会長ゴセイは、コウの報告に喜ぶことなく、傭兵集団のリーダーの特徴を聞いて唖然としている。


「ええ、どうかしました?」


 コウは、喜ぶとはまた違う反応に困惑気味に返事をすると聞き返す。


「……ブランド装備の傭兵集団で隻眼の男がリーダーとなると、有名どころにその特徴の傭兵団が一つある……。それは多分、総勢二百人規模の傭兵を率いる『黒鷲の団』団長『隻眼のピレル』かもしれない……」


 会長ゴセイが、苦々し気にそうつぶやく。


「二百名!? でも、相手は五十人規模でしたよ?」


 コウは思わぬ大集団を率いる相手と聞いて驚いた。


「いつも、その大集団を率いているわけではないからな。今回はうちの護衛の数を確認してから、五十人程を動かすことにしたのだと思う。それにしても……、コウ。よくそんな大物相手に奇襲とはいえ無傷で生還できたな?」


 会長ゴセイが、そう指摘すると、護衛冒険者達も同じ気持ちだったのか、その言葉に何度も頷く。


「僕達も手強い敵だと感じたので、リーダーだけでも仕留めて退散しようとしたのですが、右肩に怪我を負わせる程度になりました。やはり、凄い相手だったんですね……」


 コウは、どうやら相手がただ者ではなかったようだと理解すると、敵ながら感心する。


「いやいや……、コウ殿。それが本当に『隻眼のピレル』なら、彼は初陣で目を負傷して以降、その後は、戦場で負傷したことがないという逸話が残る強者です。その相手を負傷させたのならば、それは、とんでもないことですよ?」


 護衛冒険者でさえ畑違いの傭兵にも拘らず、そんな逸話を知っているのだから相当な有名人らしい。


「ともかく、我々はそんな相手に狙われていたわけだ……。尾行していた冒険者達も朝にはいなくなっていたところを見ると、コウの言う通り、襲撃を断念してくれたのだろうから安心していいのだろうが、念の為、王都に人を走らせて援軍要請もしておこう。途中で合流すれば、あちらが態勢を立て直してきたとしても王都近辺では襲撃も不可能だろう」


 会長ゴセイは、部下に護衛の一人に馬を与えて、走らせる。


 そして、続けた。


「コウ、毎回、君には助けられてばかりだ。王都に来た時は、また、声をかけてくれ、お礼がしたい。──それでは、みんなとっとと帰るぞ!」


 会長ゴセイはそう告げると、コウと握手を交わし、帰り支度を済ませた部下や護衛冒険者に声をかける。


 幹部や職人達もコウにお礼を告げ、一行はチュケイの街をあとにして王都に帰るのであった。



「ふぅ……、僕達もエルダーロックの街に帰ろうか」


 一行を見送ったコウ達は、ララノアや街長の娘カイナ、職人のシバや剣歯虎のベルに声をかけると、帰郷することにする。


「なんだか試作品のすり合わせ会合が、ちょっと大事になったわね」


 ララノアが、楽しそうにそう漏らす。


「はははっ、そうだね。──どうしたの、ベル? あっ、なるほど……。──『五つ星』を尾行する冒険者がいなくなったと思ったら、今度は、僕達を尾行する人がいるみたい」


 コウは、ララノアの言葉に笑って反応するも、ベルが建物の影に向かって唸ったことで尾行者に気づいた。


「「「え?」」」


 ララノアにカイナ、シバも一件落着したと思ったところに、また、問題が発生したことに驚き、声を上げた。


 建物の影に潜んでこちらの様子を窺っていた人物は、気づかれたと知って、その場から立ち去る。


「どうする、コウ? フロスにお願いして今の尾行者を追わせる?」


「いや、このまま、帰ろう。尾行にせよ、今の僕達に追いつける人はそうそういないからね」


 コウは、楽観的に応じた。


 そう、コウはベル、ララノアとカイナ、そしてシバは、二足歩行の蜥蜴ヤカー・スーで高速移動するから、並みの馬では追いつけるものではないのだ。


 一時的に付いて来たとしても、半日と持たず巻かれるのがオチである。


「それもそうね。一応、半日は西に進んでそれから南に下る?」


 街長の娘カイナが、慎重を期してそう提案した。


「そうだね」


 コウはカイナの提案に頷くと、一行は西に半日進んでから、エルダーロックの街に帰郷するのであった。



 コウ達一行は、快足を飛ばして尾行を巻き、ボウビン子爵領を通過して緩衝地帯に引いた専用路を通ってエルダーロックの街に向かう。


 やはり、剣歯虎とヤカー・スーに追いつける馬はそうそうおらず、片道、馬車で五日かかるところを三日で移動してしまった。


「あっという間ね」


 カイナが自分の跨っていたヤカー・スーの首を撫でながら、見慣れた景色を見ながら進む。


 もう、エルダーロックの街まであと少しだ。


 帰郷途中、専用路を行き来するドワーフや大鼠族、その他の獣人族達に声をかけられる。


「『半人前』! 仕事どうだった!?」


「剣歯虎やヤカーはさすがに早い! ──やっぱり俺も利用しようかな?」


「おっ、コウ! 急いで戻れ! 丁度さっきとんでもない客が街に来たみたいだぞ!」


 コウは、挨拶しながら走っていたが、一つ気になる言葉があったので、走りながらララノア達と視線を交わし、緩めていた速度を戻し、先を急ぐのであった。



「コウ達、お帰り! 帰って早々悪いが、そのまま、街長のところに向かってくれるか!? さっき凄い客が来たんだ!」


 表門の門番ドワーフが、コウ達に気づくとすぐに門を通して、そう声をかける。


「「「凄いお客さんって?」」」


 コウはもちろんのこと、カイナもララノアも気になるところだ。


 職人のシバは、


「じゃあ、俺は、師匠のところに早速知らせるんで、みなさんお疲れ様でした!」


 と答えるとヤカー・スーに跨ったまま、工房へと帰っていく。


 それを門番と一行は見送ると、改めて、門番答える。


「驚くなよ? なんとその客……。あの鉱夫ブランドの大手商会、『岩星ロックスター』本部からの使者らしい! さあ、急げよ、コウ。街長もお前がそろそろ帰ってくるはずだから、戻ってきたら知らせるように言われているんでな」


 ドワーフの門番は、嬉しそうにそう告げる。


「は、はい!」


 コウは、鉱夫ドワーフ憧れのブランド『岩星』絡みと聞いて、ベルを街長宅に急がせた。


 ララノアもカイナもそれに続いてヤカー・スーを走らせるのであった。


─────────────────────────────────────

      あとがき


 ここまで読んで頂き、ありがとうございます。


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 他にも、様々な作品を書いていますので、お時間がありましたら読んで頂けると幸いです。


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 ※一部完結、休止中



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 ※完結作品



それでは、引き続き作品をお楽しみください!<(*_ _)>

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