第156話 壊滅
「助かりましたニャン!」
二足歩行の茶色い猫にしか見えないジトラは、安堵のため息を吐いて、コウに感謝した。
あと少し、コウ達の訪問が遅かったら、自分は袋に詰められ、貴族のもとに送られていたことだろうことを想像するとゾッとする。
「無事でよかったです。こいつらが例の言い掛かりをつけてきたという貴族が雇った悪党ですか?」
コウは、数日前にジトラが言っていたお店を閉じることになった理由を覚えていたから確認した。
「その通りニャン。相手はダマレ侯爵という偉い貴族ニャン。こいつらの話では、私達猫妖精族をペットにするつもりでいたようなのニャン……」
ジトラは怖気が出たのか、また、ぶるっと身を震わせる。
誘拐されてダマレ侯爵の領地に連れて行かれたら最後、死ぬまでペットとして自由を奪われたかもしれないのだから当然の反応だろう。
「とりあえず、その侯爵に雇われているコモン一家に挨拶に行ってくるね。──ヨース、オーウェン王子殿下にこの事を報告してくれる? 側近のセバスさんを呼び出せば問題ないんでしょ?」
「おう、わかった! 集合場所は『星の海亭』だな?」
大鼠族のヨースはすぐに応じると、二足歩行の蜥蜴ヤカー・スーに飛び乗って王城へと向かう。
「じゃあ、僕達はコモン一家のところへ。僕とララが乗り込むからカイナはベルと一緒にジトラさんの護衛をお願い」
「「わかったわ!」」
ダークエルフのララノアと街長の娘カイナも頷くと、ジトラの案内でコモン一家のアジトに向かうべく、この場をあとにするのであった。
「この奥の建物が誘拐を行っているコモン一家のアジトですか?」
緑の髪の少年が紫色の長い髪をしたダークエルフを連れて、王都の外れにある悪党通りの一角に立って、見張りをしていたチンピラに聞く。
「ああ? このガキ、俺達コモン一家相手にその質問をするとはいい度胸だな! ──おい、そっちのスタイルの良い色っぽいダークエルフと一緒に攫っちまおうぜ!」
見張り役のチンピラは近くにいた仲間に声を掛けると、コウとララノアに迫ってきた。
「きゃー、誰か助けて~!」
「わー、攫われる~! でも、僕だって男だ、最後まで抵抗するぞ~!」
ララノアとコウはわざとらしいセリフで周囲の注目を集めようとする。
「この悪党通りでそんなことを言ってもみんな見て見ぬふりさ。ましてや俺達コモン一家を敵に回したくないから誰も役人に訴え出るなんてことはないぜ!」
チンピラ達は下卑た笑い声を上げると、コウの手首を掴む。
「……大丈夫、既成事実を作りたかっただけだから」
コウは怒りの様子を見せつつそう言うと、手首を掴んでいたチンピラをそのまま力任せに引っ張って地面に叩きつける。
チンピラは鼻血を出してそのまま、失神した。
「なっ!? このガキ、やりやがったな!」
他のチンピラ達はコウの予想外の抵抗に驚くとナイフを抜いて襲い掛かる。
「きゃー、誰か~! コモン一家が刃物を抜いて襲ってくる~!」
「わ~! こちらも、抵抗しないと死んじゃうよ~!」
ララノアとコウはまた、大きな声で周囲に聞こえるように告げる。
そして、コウは魔法収納鞄から大戦斧を、ララノアは腰に佩いている刀を構えた。
そして、あっという間に、返り討ちにしていくのだからチンピラ達は驚くしかない。
「な、なんなんだこいつら!? お頭に知らせろ、このままじゃ、俺達が殺られちまうぞ!?」
アジトからも騒ぎを聞きつけて他の連中が助けにやってくるが、怒りを見せるコウとララノアによって次々と血祭りにあげられていくのであった。
「なんじゃ、こりゃ!? 一体どうなっていやがる!?」
部下の知らせを聞いてアジトの奥にいたボス、コモンが惨劇が行われている現場に駆けつけ驚愕する。
「あなたが、コモンさんですか?」
コウが大戦斧の血のりを一振りして払うと、コモンに確認した。
「そうだが、ガキ……、お前達がこれをやったのか……?」
コモンはコウとララノアの周囲に部下達が倒れているので、全てを察して問う。
「誘拐されそうになったので正当防衛です」
コウは前世なら過剰防衛で訴えられかねない惨状を前にそう告げる。
「……糞共が、下手な相手に手を出しやがって……。だが、俺もコモン一家を率いる人間だ。どこの誰かも知らない女子供に舐められたままでは、この業界で生きていけなくなっちまうからな。──死ね!」
コモンはそう言うと、手首に仕込んでいたナイフを抜くとコウの眉間に正確に投げた。
だが、コウは余裕をもって、大戦斧でそのナイフを弾き飛ばす。
「俺の初見殺しの技に反応できる、だと!?」
コモンはコウの大戦斧を易々と動かす腕力に驚く。
「殺されるところだったので、抵抗しますね」
コウはこの誘拐犯のボスに淡々と告げる。
「ま、待て! うちの馬鹿どもがお前らを攫おうとしたのは悪かった! こっちは部下をほとんどやられて組織は壊滅状態でどうしようもないし、お互いさまということで手を引いてくれないか? この状態で警備隊に踏み込まれたそっちも都合が悪いだろ?」
コモンは全滅状態の組織を守るより、自分の命が大事と判断したのだろう、コウに命乞いの交渉を始めた。
「そうですか? コモン一家って警備隊にもマークされている王都では知る人ぞ知る凶悪な犯罪集団ですよね? そんなところが滅んでも、誰も文句を言わない気がしますけど? あっ、雇い主であるダマレ侯爵はあなたの失態に文句を言うかもしれませんね?」
コウはジトラの誘拐は氷山一角であることは、来る途中にジトラから聞いて理解しており、そんなコモン一家を許す気はないので、そう宣告する。
「なんでその名を知っている!? ──まさか今日の予定に入っていた猫妖精が情報源か!? ならば、全員生きて帰すわけにはいかねぇな……」
コモンは動揺したが、すぐに腹を括ると腰の剣を抜く。
「それは被害者全てのセリフです!」
コウはそう言うと大戦斧を上段に構えてコモンの頭上に飛翔する。
コモンは重そうな大戦斧を持ったまま、小さいコウが一瞬で頭上にいることに驚愕し、慌てて剣でそれを防ごうとした。
しかし、コウの馬鹿力から振り下ろされる超魔鉱鉄製の大戦斧を防げるわけもなく、コモンは剣ごと両断されるのであった。
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