第142話 宮廷貴族会議
バルバロス王国の王都、その中心にある王城の宮廷貴族会議において、辺境の非公認自治区であるエルダーロックの村の名前が取り沙汰されていた。
「──ダーマス元伯爵の処分は滞りなく行われましたが、問題の中心にあった、その何といいましたか──」
「──エルダーロックですか?」
「そう、そのエルダーロックという村は放っておいて問題はないのですかな? 聞けばドワーフが村長を務めているとか。この国においては前代未聞ですぞ?」
豪華な服を着た偉そうな貴族が、大きく長い机を囲んだ者達を代弁するかのように、問題提起を行う。
「これまでも、辺境や国境線の緩衝地帯において、勝手に作って勝手に消滅するのはよくあったことではないですか。以前の会議でもその話題になったものの大きな問題にはならなかったと思いますが? あ、確か、あなたはダーマス元伯爵とは親しかったですな。もしや、蛮行を働いて破滅した彼の敵討ちでも行いたいのですかな?」
問題提起を行った貴族の反対側に座っていた上級貴族が、上げ足を取るような指摘をした。
「なっ! そんなつもりで言っているわけではない! ダーマス元伯爵は確かに愚かなことをしたのだから自業自得だと思うが……、だがその彼も辺境の国境線を守る精鋭を率いる頼もしい貴族であった。それが、義がなかったとはいえ、ドワーフごときの兵に敗れることが問題ではないか、とだな──」
「ダーマス元伯爵の愚かな所業を擁護するのは止めましょう。そのドワーフの村は聞けば出来て一年くらいなのでしょう? そんなもの数年以内に無くなるのが関の山ではないですか? それよりも、本題に移りましょう。近衛騎士団の新たな装備品製造契約時期になっております。これまで長い間、老舗のブランド『アーマード』、『ソードラッシュ』が受注しておりましたが、来年からは一新したいというのが陛下のお考えです。そこで現在、前向きな姿勢を見せているのが、こちらも老舗の『騎士マニア』、新進気鋭の『
上級貴族は、相手の上げ足を取れて満足したのだろう、エルダーロックの村の脅威については意に介さず、次の議題に進むことを提案する。
エルダーロックを問題視していた上級貴族は、これ以上言い募ると、ダーマス元伯爵を庇い立てしているという印象を持たれると思ったのだろう、悔しそうにしながらも黙って席に着くのであった。
「老舗の『騎士マニア』は、各王国騎士団のいくつかで、すでに受注を行っている。近衛騎士団までとなると他のブランド商会から不満が上がるのではないか?」
黙って席に着く貴族を横目に、違う上級貴族が指摘をする。
「それなら、これまでのように複数のブランド商会を入れてしまえば、良いのでは?それなら文句も出ないでしょう」
口の達者そうな上級貴族が、もっともらしい提案をした。
「陛下は一つに絞って、まとまりのあるデザインにしたいと仰せです。前回まで、基本は、鎧が『アーマード』、武器は『ソードラッシュ』という形でしたが、騎士の中には全て『アーマード』にする者、それとは逆に『ソードラッシュ』で統一する者もいて、見た目に統一感がなくて見苦しいと苦言を呈しておられました。ここは一つに絞るのがよろしいかと」
議長を務める貴族が、国王の意思を全員に伝える。
「それなら、『ウォーリス』でいいのでは? あそこは確か四等級以下の魔鉱鉄製品を大量生産出来るのが強みだったはず。デザインも悪くないですから近衛騎士団全部の装備納入も無難にこなすでしょう。なんなら私が話を通しますよ?」
『ウォーリス』に顔利きができる貴族が、仲介料狙いと思われる意見を口にした。
「天下の近衛騎士団ですよ? デザインは当然統一するにしても、団長や隊長クラスはもっと等級が高い装備にしないと威厳が保てないのではないでしょうか? そういう意味で私は『五つ星』を推しますよ。あそこは先の『軍事選定展覧会』でも実績を残しましたし、今話題になっている『コウテツ』ブランドとの合同作品で世間から注目を浴びていますから、申し分ないかと思います」
末席に座る若い上級貴族が自身もファンであるブランドを推薦する。
「……確かに、『五つ星』は、等級の高い製品を作る実力があるが、最近世間で注目を浴びているのは、その噂の『コウテツ』ブランドとの合同作品ですよね? それならば、いっそのこと、その二つに合同で作らせるとよいのでは?」
「「「おお、それは面白そうだ!」」」
会議に参加している大半の貴族達は、その提案に賛同する姿勢を取った。
一部の貴族は不満顔であったが、大勢が賛同しているから、文句が言えなくなる。
その貴族達は他のブランド商会との太い繋がりがある者達なのだ。
予定では自分の推すブランドに決定させて甘い蜜を吸うのが目的だったのである。
「それでは、候補の一つである『五つ星』へ『コウテツ』との合同作で打診を促すということでよろしいですかな?」
議長が列席している貴族達に確認を取る。
「「「賛成」」」
「それでは、賛成多数で決定致します。──特別傍聴席のオーウェン王子殿下もよろしいですか?」
議長が、離れたところに王族のみが座れる席に向かって確認した。
近衛騎士団の装備品などは王家の資産になるのだが、その判断は貴族会議によって決定される。
当然王家の意向は大きく影響するが、王家の暴走を防ぐ為、貴族会議で決定して、王家がそれを承認するという形を取っているのだ。
この日、その貴族会議の傍聴席には『コウテツ』ブランドの刀を腰に佩くオーウェン・ランカスター第三王子が座っていた。
これは、毎回、王家の者が誰かしらその会議を監視するという名目で傍聴する決まりになっており、オーウェン王子は上から押しつけられたのが事実である。
「……ああ。問題ないと思う」
オーウェン王子は内心、自分の推しである『コウテツ』ブランドが関わる事に喜んでいたが、普段のキャラクター上、無愛想に応じた。
「それでは、そのように致します。──では、次の議題に移ります。次は──」
議長は、そう応じると議会を進行するのであった。
こうして、『コウテツ』の関係者であるコウ達当人が知らないところで、国家に関わる大きな仕事が舞い込もうとしているのであった。
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