第122話 ゴーレムの取り扱い

 コウ達一行は地下深くの未知のゴーレム製造施設で残りの二体が完成するまでの間、周囲を探索していた。


「通路があったと思われるところは綺麗に塞がれていますね」


 コウは壁に手をやって、そう告げる。


「『鉱脈探知』でこの奥に空間があるかわかるか?」


 髭なしドワーフグループのダンカンが同じく壁を触ると、確認した。


「ちょっと待ってください……。──駄目ですね……。大掛かりな土魔法で隙間なくずっと奥まで塞いであるみたいです。少なくとも僕の能力範囲内には空間は存在しないですね」


 コウは魔法収納鞄から取り出した金槌で壁を叩き、その反響音で確認すると結果を答える。


「そうか……。まあ、この遺跡を見つけただけでも大発見なんだが、表沙汰にはできないから、これ以上何かを発見しても仕方がないか……。このことは村長に一応報告はするが、多分、俺達の間で秘密にしなければならないだろうな」


「でも、ゴーレムは持ち帰っても問題ないんですよね?」


 コウは改めてダンカンに確認する。


「それは大丈夫だろう。幸いゴーレムの姿が現在のゴーレムと変わらない素朴な石製だから村で使用しても問題はないと思うぞ。まあ、ゴーレムを使用する奴なんて金持ちか物好きの俺達ドワーフくらいだがな。わははっ!」


 ダンカンはそう言うと笑って応じた。


「それってどういうことなの? ゴーレムが便利ならみんな使用しているはずよね? 私、ゴーレムを使っている人見たことないけど?」


 ダークエルフのララノアが、ダンカンの言う意味が分からず首を傾げた。


「ララ、それはね? ゴーレムって見かけの割に耐久性は低いし、応用の利かない単純作業しかできないから、道楽の一つとして金持ちとかゴーレムの専門家で修理がすぐにできるドワーフくらいしか使用していないのよ。うちの村にもゴーレム専門家は一人いたけど、すでに廃業して鉱山勤めだしね」


「『エルダーロック』の村にも詳しい人いたの!?」


 ララノアは初耳だったので驚く。


「はははっ、ララ、いつもの飲み仲間の一人がそうだよ」


 コウは髭なしドワーフグループの一人にそんな人物がいることを説明する。


「え? ……もしかして、いつも控えめに部屋の隅で飲んでいるレムーゴさんのこと?」


「「「正解!」」」


 コウとダンカン、カイナは笑って鋭いララノアに三人は答えた。


「レムーゴさんはお父さんと同じ四十五歳で、若い頃はかなりゴーレム研究にのめり込んでいたらしいのだけど、行き詰まって鉱夫になったらしいの」


 カイナが接点のあるレムーゴについて説明する。


「このゴーレムを持ち帰ったら、きっと喜ぶと思うよ。──あ、そろそろ残りの二体も完成している時間だから、回収したら戻ろか」


 コウは体感で時間を確認すると、みんなを連れて施設に戻るのであった。



 残りのゴーレム二体を回収したコウと一行は、早々に遺跡を出て通路をコウの土魔法で塞ぎ、地上へと戻った。


 そして、日のあるうちに『エルダーロック』の村へと帰還する。


 コウ一行はすでに動いているゴーレム一体を引き連れていたから、村に戻るとみんなが驚いて集まってきた。


「『半人前』のコウがゴーレムを連れて戻ってきたぞ!」


「本当だ!」


「俺、初めて見た!」


「昔はたまに見かけたんだがなぁ。懐かしいのう」


 ドワーフ達は楽しそうにワイワイガヤガヤと親しみのある造形をしたゴーレムに、三者三様の反応を示す。


 そこに、人混みをかき分けて元ゴーレム専門家のレムーゴがやってきた。


「こ、コウ! これは一体!? 本物なのか!?」


 石の兜をいつも被っている普段大人しいレムーゴが興奮気味に鼻息荒くゴーレムをまじまじと見る。


「レムーゴさん、落ち着いて。村長宅で詳しい説明をするので付いて来てください」


 コウは普段とは全く印象が異なるレムーゴの勢いに少し呑まれながら、応対した。


「わ、わかった! さあ、村長宅に急ごうか!」


 レムーゴはいても経ってもいられないとばかりに村長宅へと走る素振りを見せてはコウ達に急ぐようにせっつくのであった。



 村長宅に着いたコウ一行は、未知の遺跡の発見をしたこと、そこではまだ稼働している施設があったこと、その施設で作っていたものがこのゴーレムであったことなどを話した。


 村長のヨーゼフは驚いてその話に聞き入っていたが、当初のダンカンやコウが予想した通り、この話を口外厳禁ということになった。


 その間、元ゴーレム専門家のレムーゴは、その話を聞いていないのか、コウが連れていたゴーレムを観察している。


「レムーゴさん、どうですか? 現在のゴーレムとあまり変わらないとは思うのですが」


 コウがレムーゴに簡単な観察結果を聞いた。


「ふむ……。確かに見かけは世間にあるゴーレムと変わりはない気がする。しかし、コウの話を聞く限りだと、とても汎用性が高い動きをしている……。コウ、このゴーレムに命令してこの石を拾って私に渡させることはできるか?」


 レムーゴはそう言うと、手にしていた石を床に置く。


 すると、レムーゴの話す言葉を理解していたのか、ゴーレムはコウに命令されるまでもなく、その石を拾ってレムーゴに渡した。


「!」


 レムーゴは驚いて、渡された石とゴーレムを見比べて、目をパチクリさせる。


「こ、これは、とんでもないかもしれない……。村長、このゴーレムは自律思考型かもしれないぞ……」


 レムーゴは愕然としながら、同じ歳の村長ヨーゼフに事の重大さを告げた。


「自律思考型? そう言えば昔、お前がそんなゴーレムを作るとか息巻いていた気がするが、そんなに凄いことなのか?」


 村長のヨーゼフはこの幼馴染のレムーゴに凄さがわからず聞き返す。


「凄いも何も、全国のゴーレム専門家の目指すところがこの自律思考型だ! それもこの大きさで実現しているのが信じられない……。それがこの一体だけとはいえ、存在していることが私には驚きだよ……」


 レムーゴは興奮気味に話しながら、事の重大さを伝えた。


「あの……、レムーゴさん。……なんなら一体差し上げましょうか?」


 コウはレムーゴのゴーレム魂に火を点けたのがわかったので、進呈する案を申し出た。


「……これをくれるのか? ──いや、さすがにそれは貰えない! コウが発見して持ち帰ったものだ。貴重なその一体を貰うことなど……。それに、ゴーレムは魔力登録した者の管理下にあるはずだから、それを他人に贈与するのは難しいだろう」


 レムーゴが自分の知識を引っ張り出してその難しさを説明する。


「いえ、他にもまだ、未使用のものがいくつもあるので」


 コウはそう言うと魔法収納鞄から、作動させる前のゴーレムを二体取り出し、レムーゴの前に出した。


「ふぁーーー!?」


 貴重な一体だと思っていたレムーゴは、コウがあっさり新機体を二体も出したので変な声を出して驚く。


「あ、それと施設にあった修理道具も一式持ち帰っているので、レムーゴさんに預けますね!」


 コウはそう言うと、また、魔法収納鞄から道具一式を取り出した。


「うへーーー!?」


 レムーゴはまたも変な声を出す。


 ただし、今度は少し嬉しさが混じった声に聞こえる。


「ほ、本当に良いのか? いや、この村では私以外に専門家はいないから、私が預かるのが一番かもしれないが……。──わかった、預かる。一体は助手として起動し、もう一体は研究用にしていいか?」


 レムーゴは正気に戻ると、コウに確認する。


「はい、そのつもりで渡しました」


 コウは笑顔でそう答えた。


「──わかった! ゴーレム研究はもう二十年近くぶりだが、任せてくれ!」


 レムーゴはそう言うと早速、一体の頭に手を置くと魔力を注ぐ。


 すると、ゴーレムは起動して立ち上がった。


「このゴーレムを持って付いて来てくれ」


 レムーゴがゴーレムにそう命令すると、それに従ってゴーレムは動き出す。


「それでは、私は家に戻るよ。コウ、ありがとうな、諦めていた道をまた目指すよ」


 レムーゴは普段見せない笑顔でそう答えると、ゴーレムを連れて、自宅へと戻っていくのであった。


「レムーゴのあんな笑顔を見るのは久しぶりだな。最近は寡黙になっていたが、昔に戻ったようだ」


 ヨーゼフは幼馴染の復活に笑顔でコウ達にそう告げると、残りのゴーレムについてどうするか話し合うのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る