第109話 隣国の反応

 自宅での『コウテツ』と『五つ星』ブランドとの合作作品完売祝いのパーティーを行った翌日、王都から新たな知らせがエルダーロックに村にやってきた。


 いや、知らせというより秘密の使者というべきか?


 その使者は王家からの非公式なものであった。


「コウを呼んできてくれ」


 ドワーフでエルダーロックの村長であるヨーゼフは、娘のカイナにコウを呼びに行かせた。


 しばらくすると剣歯虎のベルに跨ったコウとカイナがやってきた。


「緊急ということですが、どうしたんですか、村長」


 コウはベルから飛び降りると、深刻な顔をしたヨーゼフに使者からもたらされた情報を聞く。


「実は──」


 ヨーゼフが手紙の内容をこう告げる。


 それは、エルダーロックの村の存在を隣国であるヘレネス連邦王国側に気づかれたというものであった。


 その為、ヘレネス側はエルダーロックの村が緩衝地帯にあることを遺憾とする批判をバルバロス王国に告げたのだという。


 これは外交上のお約束のようなもので、よくあることだから気にしなくていい。


 と使者から一緒に届けられたオーウェン第三王子の手紙に記してあったから、あまり問題はなさそうだ。


 ただし、ヘレネス側の使者が帰国の途中でエルダーロックの村を確認する為に寄り道する可能性があるから、あまり刺激しないようにとのことである。


 他にもヘレネス側の緩衝地帯でも動きがあるようなので、気を付けておいた方がいい、とオーウェン王子からの警告もあった。


「……この村は隠しようがないですから仕方がないとして……、ヘレネス側の緩衝地帯での動きというのが気になりますね」


 コウは村長からの話を聞いて心配を口にする。


「私もそれが気になっていてな。この知らせは少なくと一週間以上前のもの。さらには緩衝地帯の動きに気づいて王都まで知らせが走り、そこからこちらに忠告ということは少なくとも二週間以上前の話だから、こちら側で偵察に行った方がいいかもしれないな……」


 村長のヨーゼフはコウと同意見だったから、やはり、情報が欲しいという理由で一致した。


「それなら、僕がベルと一緒に偵察に行ってきましょうか? この緩衝地帯になっているこのアイダーノ山脈を越えるのは至難の業だと聞いています。でも、この山脈地帯で育ったベルなら適切なルートを知っているかもしれないですから。──ベル、向こう側に行ける道を知っているかな?」


 コウは自ら偵察することを名乗り出ると、心強い友のモフモフな毛並みを撫でる。


「ニャウ!」


 ベルは心強く返事をした。


 どうやら、向こう側にいける山道を知っているようだ。


「おお! それは心強いな。それにコウなら任せられるというものだ。だが、他にも誰かつけた方がいいだろう。単独行は何かあった時さすがにマズいからな」


 ヨーゼフはこの村の英雄であるコウなら相応しいだろうと納得するが、危険であることはわかっていることであったから、他にも人を付ける提案をした。


「お父さん、それなら、私が行くわ」


 傍で黙って話を聞いていた娘のカイナが挙手をして参加を希望した。


「おいおいカイナ……。あの山越えは剣俊で雪深いから超えるのは大変なんだぞ? まあ、だからこそ、隣国のヘレネス連邦王国とは長いこと国境線で揉めることもあまりなかったんだがな」


 ヨーゼフはそういうと、可愛い娘の希望に対して注意する。


 そう、隣国との国境線の多くはこのアイダーノ山脈という緩衝地帯で仕切られており、大した問題になることはなかったのだ。


 もちろん、山脈地帯でも山が低い場所に道がいくつか作られ、両国の交通の便になっているが、そこもここからは少し離れたところにある。


 その道を利用して反対側に行こうとすると、片道で一週間はかかるとみていい距離だ。


「ベル、向こう側には山越え以外で行くルートもあるのかな?」


 コウが『山の殺し屋』の異名を持つベルにダメもとで聞いてみた。


「ニャウ……」


 ベルはその質問を正しく理解しているのか悩んだように応じる。


 これにはヨーゼフ村長も少し心配になったのか、


「……カイナ、今回は自重しなさい」


 と珍しく止めるのであった。


「お父さん! コウにだけ危険なことをやらせるわけにいかないでしょ? それなら村長の娘として私も同行しないと」


 カイナは村長の娘として自覚から、申し出たようだ。


 もちろん、それだけではないだろうが……。


「……うーん。……わかった! だが、準備はしっかりするのだぞ。──コウ、他には誰を連れていきたいとかはあるか? 必要な人材がいたら、準備させるぞ」


 ヨーゼフは危険な任務だからこそ、この二人なら任せられると判断して納得した。


「多分、ララも行きたいと言うと思うので、三人とベルでいいとは思いますが……」


 コウも安全を保障できないので、連れていく人数は控えたいところである。


「いや、ベルが山越えの道を知っているのなら、今後もそこを使用することになるだろう。それなら他の仲間も同行させて道を覚えてもらう方がいいと思う。それに、若い連中にも雪山登山を経験させるいい機会かもしれない」


 ヨーゼフ村長はどうやらバルバロス王国だけでなく、ヘレネス連邦王国とも仲良くしてこの村を守る礎にしたいという目論見があるようだ。


「わかりました。それでは、雪山越えの準備をして、ヘレネス側の使者がこの村に訪れた後に出発しますね」


 コウは頷くと前世の知識を思い出し、何を用意すべきか頭をフル回転させるのであった。

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