第107話 鍛冶屋の新たな戦力

 コウ達一行は、新たな住人シバを加えてエルダーロックの村まで帰郷した。


 シバは辺境の村と聞いていたので、あまり期待をしていなかったのだが、エルダーロックの村が山の麓近くにありそれを囲む二重三重の堅固そうな防壁、そして、灌漑施設や不規則ながら見た目が綺麗な棚田など外から見ただけでもその立派さに度肝を抜かれていた。


「これが、『村』なんですか……? 外観は山岳地帯の街のようにも見えますが……」


 シバは思わずコウに聞き返す。


「あははっ! そう言ってもらえると嬉しいなぁ。この村もまだ、出来て一年弱だからね。まだまだ、これからだよ」


 コウは自分達の村が褒められて素直に喜ぶ。


 その気持ちはダークエルフのララノアや村長の娘カイナも一緒で、思わず笑みが漏れた。


 村の出入り口も立派な門が作られており、犬人族のシバはますます感心する。


 門の金属で補強している部分などは一流の仕事が行われているのが見て良くわかるからだ。


 ちなみに、門の補強仕事は、鍛冶屋のイッテツ以外のドワーフ鍛冶師が行っていたから、他の者達の仕事も十分評価に値するということであった。


「お? ──おーい、みんな。『半人前』達が帰ってきたぞ!」


 コウ達の姿に門番達が気づいて、中に声をかける。


 するとそれに反応して門が開く。


「『半人前』とは?」


 シバはドワーフ門番の『半人前』という言葉が、コウ達に当てはまらないものに聞こたので、気になってコウに聞いた。


「はははっ。それ、僕のことなんだよ。ずっと何年も『半人前』と呼ばれていたからね。その名残なんだ」


 詳しい説明は長くなるのでコウは省略して答える。


「あれだけの腕を持つコウ殿が『半人前』扱い!? この村は相当な職人の集まりなんですね……!」


 シバは犬の耳をピンとさせると、期待に胸を膨らませる。


「いや、本当に僕が成長できたのはこの一年弱だから」


 コウは、シバにあまり期待をさせて残念がられるのも嫌だったから、すぐにフォローに入った。


 門を潜りながら、そう説明していると、髭なしドワーフグループでコウの一番の友人であるダンカンが出迎えてくれた。


「お帰り、コウ! どうだった? 仕事はうまくいったのか!?」


 ダンカンは大手ブランドとの共同製作事業ということでかなり心配してくれていたようだ。


「ダンカンさん、ただいま! お陰様で仕事はうまくいきましたよ。あとのことはあちらに任せて帰ってきました」


 コウはこの仲間想いの友人に笑顔で応じた。


「そうか! うまくいったか! イッテツも喜ぶだろうから、報告しないとな! ──うん? そちらの獣人族は誰だい?」


 ダンカンはコウの成功報告に安堵するのであったが、それで余裕が生まれたのか、コウの後ろにいるシバの姿にようやく気付いた。


「こちらは犬人族のシバさんです。元『五つ星ファイブスター』の職人で、うちで働く為にこの村へ移住したいそうです」


 コウのこの紹介には、周囲の者も驚いた。


 もちろん、犬人族だからとか、移住が目的とかではなく、大手ブランドを辞めて『コウテツ』ブランドを選んで来たということをである。


「あんた、正気か!」


「『五つ星』って、超一流ブランドじゃないか! もったいない!」


「その若さで一流ブランドで働いていたとは大したもんだが、なんで辞めたんだ!?」


 ドワーフ達はシバの決断に一様に驚くとシバを取り囲む。


 だが、シバが『コウテツ』ブランドの凄さを熱く語りだすと、ドワーフ達も悪い気がしない。


 なにしろ村の英雄であるコウと鍛冶屋のイッテツが褒められているのだ。


 仲間としてそれだけで誇らしく嬉しいものである。


「『コウテツ』ブランドって、そんなに凄いのか? 王都で一番を取ったと聞いた時は嬉しかったが、大手ブランドを捨てて選ぶ者がいるほどとはなぁ」


「この村が自治区扱いになって先行き不安になっていたが、そんな高い評価なのか……!」


「これは、今夜も宴会だな!」


 ドワーフ達は飲む理由が欲しかっただけのようでもあったが、シバの移住を歓迎してる様子であった。


 そのあとは村長のヨーゼフに報告に行き、シバの移住の許可をもらうと、村にある集合住宅の一室に入ることになった。


 そこならイッテツの鍛冶屋まですぐだからだ。


 そして、翌日には、コウがイッテツにシバを紹介する。


「この方が、『コウテツ』ブランドを支えるイッテツ師匠ですか! 初めまして、シバと申します。これからよろしくお願いします!」


 シバは道中、イッテツについて、コウから詳しく話を聞いており、さらには『コウテツ』の代表作でララノアの武器である『黒刀・紫電』を直接見せてもらってその完成度に驚かされていたこともあって、本物のイッテツに会えて感動していた。


「お、おう。よろしくな。だが、本当にうちでいいのか? 見ての通り、大手ブランドとは比べ物にならないくらい質素な職場だぞ?」


 イッテツ自身は自分の経営する鍛冶屋に誇りを持っているが、相手が一流ブランド工房の環境となるとそう言わざるを得ないところである。


「はい、もちろんです! 以前の職場は確かに何もかもが揃い、大きいのは確かですが、ここにあるものはよく見れば施設も効率的で一流の道具が揃っているのがわかります。つまり大きければいいというわけでないというのが、証明されている職場だなと感心しています」


 シバは周囲を観察してそう答えた。


 その様子はイッテツに対してご機嫌を窺っている感じではなく、職人としての観察眼から素直に漏れた感想に思える。


「……ほう。良さそうな奴を連れてきたな、コウ。──うちは現在、他の従業員を合わせて十二人。まだ、小さいが良いものを作っている誇りがある。それじゃあ、早速、お前の腕を見せてもらおうか」


 イッテツは、鍛冶師の目になると見所がありそうなシバに早速、仕事をさせることにした。


「師匠、よろしくお願いします!」


 シバはそう言うと、手拭いを頭に巻き、道具箱を開いて準備を始めるのであった。


 このシバは、コウが度々留守にする間、イッテツの下で腕を磨き続け、超一流の鍛冶師に育っていくことになる。

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