第83話 主催側の反応
『軍事選定展覧会』は初日から、てんやわんやの大騒ぎであったが、午後からはそれも表面的には落ち着いた様子に見えた。
そう、表面的には、である。
見物客にとっては、展示会場の主要な場所に、素晴らしい作品が展示されていれば、騒ぐ必要はなく、ただ、その出来栄えに感心し、
「さすが天下の『軍事選定展覧会』だ、いろんな無名ブランドを発掘しているな!」
くらいに思うところであろう。
しかし、主催者側の反応はまた違ってくる。
なにしろ自分達の展示会場と同じくらい見物客を多く集めているのは、無名ブランドのメイン会場だったからだ。
当然ながら、無名ブランドの展示会場は主催者側にしたら、表向きは、産業の活性化を目的とした新たなブランドの発掘だが、本音は自分達のブランド作品の引き立て役である。
無名ブランドと有名ブランドを比べて、「やはり、老舗や有名ブランドは素晴らしいな!」と思わせるのが最大の狙いであったから、それが、その有名ブランドを越える二等級一点に、三等級二点の合計三点を持ち込む無名ブランドが現れたのだから、赤面ものであった。
推薦者である主催者で新進気鋭の『
「三等級を三点を含め、五十点もの魔鉱鉄製作品を用意して他の主催者ブランドを出し抜いて勝利したうちが、推薦した無名ブランドに足元を掬われるとはな……」
ゴセイはもう驚き過ぎて苦笑するしかない。
ゴセイの想定では、推薦するきっかけになった三等級の戦斧を作った『コウテツ』ブランドは、また、同じく三等級の超魔鉱鉄製戦斧と四等級以下の魔鉱鉄製作品を二点用意していると思い込んでいたのだ。
自分の推薦だからそれくらいはして欲しいと思ったし、実際、大鼠族の会長も自信満々だったからそれくらいの期待をしていた。
しかし、自分の想像を遥かに超えてきたのだから、良い意味でも悪い意味でも誤算である。
ゴセイは最初から勝負する相手は、主催者側である『アーマード』、『ソードラッシュ』、『騎士マニア』の老舗三ブランドだったのだ。
同じ新鋭の『ウォーリス』は、出品する作品は全部四等級以下だろうということは想像がついていたので、相手にしていない。
実際、全部想像通りで自分達はその上をいけていた。
そして、老舗相手に勝利を確信したところで、事務局からの報告だったのだ。
それもその『コウテツ』ブランドは、どういう手違いか当初の展示場所からトイレ傍の通路付近に追いやられていたという。
もしかしたら、老舗ブランドのどこかが、こちらへの嫌がらせでトイレ傍に変更させたのかもしれない。
その辺りは想像しただけで、どこがやったのかわかるところだが、それは、まあ、いい。
言うならば、トイレの傍、底辺から数時間でトップに上り詰めるという図式になったということだ。
その役目は新参主催者の自分達『五つ星』がやる予定だったのだが、推薦した『コウテツ』ブランドに美味しいところを全て持っていかれた気分であった。
「……それで、他のブランドの反応は?」
ゴセイは部下に聞く。
「まだ、無名ブランド展示場のことは知らない様子です。うちが三等級を三点出展したことに対して歯噛みしている様子ではありましたけど……」
「そうか……。そう言えば、『コウテツ』ブランドの二等級は何を出展しているのだ? やはり戦斧か?」
ゴセイは等級のことばかり気にしていたので、ようやく肝心のことを思い出したように部下に聞く。
「……それは実際に見て確認された方が良いと思います。──自分は見ましたが、あれは芸術品だと思います……」
部下は唸るように、ゴセイに答える。
「?」
ゴセイは部下の表現に疑問符を浮かべると、言われるがまま、無名ブランドメイン会場へと足を運ぶのであった。
当然ながら、会場は二等級の作品を拝もうと人混みになっている。
列を作り時間制限を決めて移動させるという状況だ。
ゴセイは関係者ということで、その列を通り越して、『コウテツ』ブランドの展示作品を目にした。
「こ、これは……、なんだ……!?」
ゴセイは見たことがない形状の武器に目を見張る。
片刃の剣になるのだろうが、反りがあり、剣の幅も通常の剣に比べると細い。だが、太さはある。
そして何より、刀身が黒で刃の部分が白い。
「……」
ゴセイは何も言わず、いや、何も言えずに展示されているガラスケースの傍にもっと詳しく確認しようと寄っていく。
護衛として傍にいたコウが最初止めようと前に出るが、相手がゴセイとわかって無言で下がる。
剣歯虎ベルも同じくコウが下がるので、ガラスケースのある台座の横に座って大人しくするのであった。
「……ヨース会長。これは何という武器かな……?」
展示している刀を前に横に立っている大鼠族のヨースに確認する。
「これは『刀』という種類で、作品名は長刀『黒刀・紫電』、短刀『黒刀・小紫電』、そして、槍『猪突』だぜ?」
ヨースはゴセイの驚きの表情に満足そうに答えた。
ここまで同じような顔で驚く同業者の顔を見てきたので、慣れたものだ。
「カタナ……か。このような武器は初めて見た……。見たところ『斬る』と『突く』に特化した武器かな?」
「その通り。刀はその斬れ味こそが、最大の長所だからな。今あるその辺の剣とは一線を画す武器だぜ」
ヨースは製作者であるコウの傍で代わりに自慢した。
コウやララノア、カイナも横で満足そうな顔で頷いている。
「そうか……。実用性は疑わしいところだが、これほどの美しい武器は国宝の聖剣クラスでしか見たことがないな……」
ゴセイは仕事で一度だけ見たことがあるらしい国宝を口にした。
「おいおい、国宝と比べる気はないが、実用性がある武器だぜこれは。──いや、別にいいか……、誰にも売る気はないしな」
さすがのヨースも国宝クラスと比べるつもりはないからそこは否定しないが、実用性については少し抵抗する素振りは見せた。
と言っても、この武器は展示期間が終わったら、ララノアの腰に納まることになるものだから、あまり大きなことを言わなくていいかと思い、言葉を濁した。
「……そうか、それは失礼した。だが、推薦者としては鼻が高いな。文字通りこの『軍事選定展覧会』の一番の華になってしまったしな」
ゴセイは少し、洒落を効かせて代表者であるヨースを称賛する。
「まあな。これも全てうちの職人達の成せる業さ!」
ヨースはコウに聞こえるようにそう応じると、胸を張るのであった。
この後、他の主催者である老舗ブランドの関係者も続々と『コウテツ』ブランドを見学にくることになり、誰もが唸り、感動し、嫉妬し、色々な思惑を胸に代表であるヨースと挨拶を交わすと去っていく。
その中でも今回、『アーマード』の責任者である大幹部は、悔しさを隠すことなくヨースと作品を睨むと立ち去る。
初日の出来事は、ほとんど称賛の声と感動のリアクションであったから、その激しい嫉妬を見せる反応はとてもコウ達に印象的なのであった。
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