第79話 続・休みの日の再会
コウ達一行はパンケーキ屋で再会したゴセイに、街道で助けた時のお礼にと奢ってもらっていた。
コウやヨースはともかくとして、ララノアとカイナ、そして、ベルはお代わりをして遠慮なく食べている。
特にベルはその大きさだから、次々に運び込まれてくるパンケーキを平らげているからさすがにコウも、
「ベル、ちょっと遠慮しな」
と注意した。
「にゃー……」
ベルはコウの言うことを理解したのか、残念そうにひと鳴きすると、最後のパンケーキをぺろりと食べ終える。
「別にまだ、食べてもいいんだけどね? まあ、食べ過ぎも体に悪いか」
ゴセイは全然お会計の金額を気にしている様子もない。
それを見て大鼠族のヨースは、このゴセイが何者なのか思案を巡らせていた。
ゴセイ……、どこかで聞いた事がある名前なんだけどなぁ……。同業者にはいなかったと思うんだが……。貴族なら冒険者ではなく私兵を連れているはずだから違うだろうから、やはり、商人か? 俺が知らない相手となると、もっと上のクラスか……?
「ところで、ゴセイさんは、なぜ、マウス総合商会の名を知っているんですか? 普通に考えると王都にある数多ある出来立て商会の一つを知っているなんてこと、余程の関係者でもない限り、知りようがないと思うのですが?」
コウがパンケーキの最後の一口を食べ終わってから、突然鋭い指摘をした。
「鋭いね。まあ、マウス総合商会の存在を知ったのは仕事上たまたまさ。部下が教えてくれてね。大鼠族の商会は私も聞いたことがなかったから覚えていた、そういうことさ」
ゴセイは核心に触れない形で躱すように答える。
だが、ヨースはそれだけで十分だった。
「……なるほど、そういうことか。ゴセイさん、あんた、『軍事選定展覧会』の関係者だな? それも、主催者側の可能性が高い。俺があんたの名前を知らないのは、専門外である武器防具ブランド商会の人間だからだ。そうなると、老舗ブランド『アーマード』『ソードラッシュ』『騎士マニア』よりは、新鋭の『ウォーリス』『
ヨースはどうだとばかりに、推理した。
「いいところまで推理したけど、残念。『ウォーリス』は四等級以下の製品を大量に売り捌いて大きくなったブランドだよ。あそこと一緒にしないでくれ」
ゴセイは途中まで余裕ある顔をしていたが、『ウォーリス』扱いされると余程その関係者扱いされるのが嫌なのか眉間にしわを寄せて拒否した。
「え? それじゃあ、老舗ブランドの幹部!? その若さで!?」
ヨースは自分の予想外である老舗の可能性に驚いた。
「ヨース、この人は、『五つ星』の人間だよ」
コウはヨースに諭すように告げた。
「おいおい、コウ、馬鹿を言うなよ。『五つ星』の幹部は今回の展覧会の仕事を持ち込んできた相手だから俺は顔も名前も知っている。だから『五つ星』では──」
「その上だよ」
コウはにっこりと笑顔で答える。
「え?」
ヨースは一瞬、コウの言葉が理解できない様子で固まった。
「このゴセイさんは、『五つ星』の会長さんなんだと思う。──そうでしょ?」
コウはヨースの混乱を落ち着かせるように、予想して見せた。
「正解! まさか、身元がバレてしまうと思わなかったな。関係者の中では今でも私が会長だということを疑う者がいるくらいなのに。──君はお人よしに見えて鋭い分析力も持ち合わせているようだね、素晴らしいよ」
ゴセイはコウが自分を見破ったことに素直に認め賞賛した。
コウは転生者として言語理解の方は申し分ない能力を持っている。
こちらの世界ではゴセイ=
だが、ヨースの分析を聞いているうちに、偶然ではないことがわかり、言い当ててみせたのである。
「……こいつはびっくりだ。『五つ星』の会長はあまり表に出ることがないと聞いたことがあるが、こんなに若いとは……」
ヨースは素直に認めたゴセイを相手に驚くしかなかった。
「はははっ。確かに私はあまり仕事の現場以外は裏に引っ込んで、幹部に任せていることが多いからね」
ゴセイはヨースの反応を楽しんで笑う。
そして続けた。
「それでは、少し仕事の話でもしましょうか、ヨース会長。ご承知の通り、今回の『軍事選定展覧会』はうちが推薦してあなたのところの作品を展示させてもらうことになっています。他にも無名のブランドがいくつか展示しますが、その中で品質で勝る自信はおありですか?」
ゴセイは先程までの笑顔から、すっと真面目な顔になるとヨースに問う。
「……もちろんだ。うちの職人達が自信を持って作った逸品を持ち込んでいるからな。無名のブランドどころか、主催者側のブランド商会も度肝を抜かれることになると思うぜ?」
ヨースはゴセイのその問いに怖気ることなく自信たっぷりに答えた。
「……ほう。──ちなみに、無名ブランドは三点ずつの展示になっていますが、一点くらいは前回そちらから購入した三等級の戦斧と同じくらいのレベルと期待して大丈夫ですか?」
ゴセイはすでに『コウテツ』の刻印の入った戦斧をすでに一つ所有している。
それが、奇跡的に出来た代物である可能性も十分あるから、この質問はとてもハードルを上げるものだ。
「期待していいぜ」
ヨースは物怖じすることなくそう答えた。
本当はそれ以上の代物も用意している! と胸を張って自慢したかったが、それは本番までのお楽しみだ。
「……そうですか、それは楽しみです。(ふむ、とりあえず、私の推薦の面目は保たれるレベル。つまり、今回、一本は三等級を用意できたということか。そして、残りは四等級、五等級辺りか?)──うちは五十点ほど展示しますが、その中でも自慢のものを三点、他の老舗ブランドと一緒の目立つところに展示するので今後の参考にしてみてください」
ゴセイも余程自信があるのか、主催者側の余裕とも取れる発言をする。
「ああ、うちも来場者を驚かせる為に来ているからな。本番当日を楽しみにしてくれ」
ヨースはそう返すと、二人はがっちりと握手をしてこの日は解散となるのであった。
「これでは、会長の面目は保たれそうですね」
ゴセイの護衛に付いていた冒険者姿の部下がコウ達を見送った後、漏らした。
「ああ。『コウテツ』ブランドがまぐれであの三等級の戦斧を作ったわけでないことが証明されるようで良かった。それに、あそこは元々鉱夫向けのブランドらしいから本番まで心配だったんだ。前もって確認できてよかったよ。まあ、メイン会場で度肝を抜くのはうちの仕事だけどね」
ゴセイは部下にニヤリと笑みを浮かべて答えると馬車に乗り込むのであった。
「あっちも自信ありそうだったね」
コウは宿屋『星の海亭』に戻るとヨースにそう漏らした。
「あっちは超一流ブランド商会だからな。職人の数も多いだろうから安定していい製品がいくつも生み出せるんだろう。それにあの『五つ星』は、六等級以上の製品しか扱わない高級志向ブランドだから、なおさらさ。まあ、うちは無名ブランドの中で一番目立てるように期待しようぜ」
ヨースもあちらの自信に少し押され感じで目標を無難なところに設定した。
「コウとイッテツさんの二人が作ったものなのだから大丈夫よ!」
ダークエルフのララノアはそう言うと二人を励ました。
「そうよ、本番を楽しみにしましょう」
村長の娘カイナも一緒に励ます。
「よし、本番は度肝を抜くぜ!」
「「「おお!」」」
ヨースの掛け声に、コウ達は夜の宿屋で盛り上がるのであった。
この後、隣のお客からうるさいと怒られたことも記述しておく。
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