第58話 鉱山での日常
コウは鉱山で採掘作業を行っていた。
つまり、穴掘りである。
コウは時折、金槌で岩肌を叩いてその音の跳ね返りを利用した『鉱脈探知』を使用した。
一応、鉱山では掘り方というのが決まっていて、梯子の形で横掘りをしていく。
また、足場が崩れないように、その坑道も上下重ならないようにしている。
だから、コウの『鉱脈探知』で鉱脈や空洞を発見しても急にそこを目指して掘るわけにはいかないのだが、空洞の場合は事故にもつながるので、安全の為現場責任者に前もって伝えていた。
「どうだ、コウ? 何か見つかったか?」
一緒に穴掘りをしていたダンカンがコウに確認する。
「ここをこのまま、まっすぐ掘っていけば、小さい鉱脈に当たりそう。あと、数メートル下に小さい空洞があるから、足場が崩れないように、僕が土魔法で埋めておくね」
コウはそう返事すると、土魔法を使用した。
小さい音と共に地面が少し揺れるとすぐに収まる。
「ありがとな! よし、野郎ども、昼飯まであと二時間だ、それまで掘り続けるぞ!」
「「「おお!」」」
ダンカンの掛け声に、現場のドワーフ達は気合を入れると、コウと一緒にせっせと掘り続けるのであった。
当然ながら、コウは他の者に比べると、掘る速度が尋常ではない。
だから、調整する為に普段使用するとツルハシは自慢の超魔鉱鉄製を示す一等級ツルハシではなく、イッテツとの合作ブランドである『コウテツ』製のツルハシを使用している。
それでも、魔鉱鉄製を示す五等級であるから、コウのその実力で最大限ツルハシの能力を引き出して掘り進める事ができた。
周囲のドワーフ達はコウが凄い鉱夫である事は重々承知しているが、使用しているツルハシがそれを可能にしていると思っている。
それくらいドワーフ達にとっては、ブランドのツルハシは憧れでもあったから、過大評価している部分もあるのだ。
「『半人前』のコウとイッテツの無名ブランド『コウテツ』でも、コウが使用するとこれだけ掘れるのか……。三大ブランドだとどれくらい掘れるんだろうな?」
「おいおい、一流ブランドと比べるのは酷だろう?」
「そうだぜ。この村から生まれたばかりのブランドなんだ。比べるとかわいそうだろ」
「でも、気にならないか? 俺はコウは鉱夫として一流だと思うんだ。それこそ、村長のヨーゼフレベルのな。そいつに一流ブランド持たせたら、とんでもなさそうだと思わないか?」
ドワーフ達はコウ同様、三大ブランドに憧れていたから、無名ブランド『コウテツ』がそれに並ぶ品質だとは夢にも思っていない。
だから、コウが『コウテツ』製のツルハシで掘削して活躍すればするほど、三大ブランドの評価が自動的に上がっていった。
「おーい、『半人前』のコウ。お前達の作ったその『コウテツ』ブランドは、世間のブランドと比べたらどのくらい下なんだ?」
ドワーフの一人が、あまりにコウがサクサクと硬い岩を掘り抜くものだから、素朴な疑問を持って作業中ながら声を掛けた。
「え? ヨースの話だと、三大ブランドと変わらないって、言ってましたけど?」
「「「え?」」」
コウの思いもしない返事に、現場にいたドワーフ達は全員作業の手を止めて、思わずコウに視線を送る。
「みなさん、手が止まってますよ?」
コウは思わぬ反応に、驚き気味に注意する。
「いやいや……。俺が言っているのは、三大ブランドの『ホリエデン』、『ドシャボリ』、『
聞いたドワーフはコウが聞き間違えて三大ブランド以外のブランドと比べたと思ったようだ。
「いえ、だから、ヨースの話では商品の鑑定してもらったら、三大ブランドと変わらないそうです」
コウは自分の説明が足らなかったと思い、もう一度説明した。
「「「ええぇぇぇ!?」」」
ダンカン以外のドワーフ達は、その事実を知って、今度は心の底から驚く。
そして、
「お、俺にも『コウテツ』製のツルハシ作ってもらえないか!?」
「待て! ──三大ブランドに引けを取らないという事は、値段もかなり高いって事だぞ!?」
「あ、そうか! 危ない、危ない……。思わず勢いで予約するところだった……」
とドワーフ達は色めき立ったが、現実を思い出しすぐに冷静さを取り戻す。
「三大ブランド高いですもんね……。でも、うちの『コウテツ』ブランドはその数分の一なのでまだまだですよ?」
コウは、三大ブランドとは比較対象にならないとばかりに謙遜した。
「そうだよな? 三大ブランドと比べて品質が同じでだと、価格もブランド品並みになるよ──、え? 数分の一?」
ドワーフ達はコウの謙遜に理解を示しつつ、重大な価格面が安い事に気づいた。
「ええ。一応、販売担当のヨースが次は高くで売ってみせると息巻いてましたが、それでも三大ブランドよりは安いと思──」
コウがまたも価格面で安くなる事を答えた。
その途中、コウの言葉に食い気味に、
「「「売ってくれ!!!」」」
と現場のドワーフの大勢から頼まれる。
「ええ!? うちは三大ブランドじゃないですよ!?」
これには、コウも驚く。
「俺達はドワーフだ。鉱夫として掘削に誇りを持って仕事をしている。三大ブランドは憧れだが、それは、あくまで掘るという作業の一助になってくれる高級品質だからだ。 ……まぁ確かに、『ホリエデン』のツルハシの華やかなデザイン性とか『岩星』製金槌の武骨なスタイルも好きだがな? でも、一番はその性能だろ。『コウテツ』が三大ブランドに劣らない品質で尚且つ安いなら、そりゃ欲しいだろう! ──なあ、みんな?」
ドワーフの一人が現場のみんなに聞くと、一同、強く頷く。
「お前ら、『コウテツ』ブランドは『外』への販売用として作っているんだから無理を言うんじゃないぜ?」
ダンカンがみんなとコウの間に入って、全員を落ち着かせる。
「そうなのか? ──……いや、確かに、この村に三大ブランドに並ぶブランドがあると世間に知られるのは、まずいか……」
ドワーフの一人はダンカンの言葉で、今の現状を理解した。
ただでさえ、差別の対象であるドワーフが土地を買って村を作るという事をやっている時に、ブランドまで立ち上げ、三大ブランドに並ぶ品質を知られれば、トラブルが起きるだろう事は誰でも予想できるというものだ。
「……残念だが諦めるか」
現場のドワーフは、ため息をつくと現実に戻った。
「『コウテツ』ブランドの刻印を入れなければ問題ないと思いますよ?」
コウはあっけらかんと抜け道を提案した。
これにはドワーフ達も一斉に「「「おお! それで頼む!」」」とコウに注文するのであった。
そこへ、髭なしドワーフグループで宿屋の主人ポサダがララノアと一緒にコウの提案で形になった『お弁当』の配達に来た。
「鉱山のドワーフって、いつもこんなにテンションが高いの?」
ララノアは初めての配達だったから、この異様な盛り上がりに驚いてコウに声を掛ける。
「はははっ! 今日は特別かな?」
コウは笑って応じると、ララノアからお弁当を受け取るのであった。
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