第22話 人質救出

 領兵隊を率いる隊長は、今回の作戦にノリノリであった。


 劣等民族であるドワーフ達をひっ捕らえて、強制労働させる事に賛成だからだ。


 隊長にしてみると、もっと早くその決断をしていればと思うところであった。


 それに鉱山責任者のダンも街長であるネビン・マルタ子爵の代理として今回同行しているが、抵抗する者は殺して構わないと言われている。


 これも当然ながら、隊長にしてみたら、人間相手にモグラ如きが抵抗するなど許せない事だったから、このダンとはとても気が合いそうであった。


「ドワーフの集落は、街郊外の森を開拓した場所だから森に逃げ込もうとする者が必ずいる。そいつらを逃がさないように騎馬隊五十は森を包囲するように動け。歩兵隊は道なりに進み、集落に入ったら即座にドワーフ達を拘束せよ。抵抗するなら女子供も容赦するな! あんな連中、数が増えるだけでも迷惑だからな。それにこっちには人質がいる。それを盾にしていいぞ」


 隊長はすでに領都内で拘束の際に抵抗したドワーフ達を数人斬っており、歯止めが利かない状態になっていた。


 なにしろ街長や責任者のダンからは、多少の無理も許可されている。


 鉱山の労働力確保は必要だから虐殺は出来ないが、抵抗されれば、当然正当防衛としてリーダーのヨーゼフというドワーフくらいは斬れるだろう。


 あのドワーフは街長相手に契約を結ぶなど悪知恵が働くから、斬っておきたいところだ。


 それは鉱山責任者のダンも同じ考えだったから、両者は一致団結していた。


「隊長! この先の道が倒木によって塞がれています! あ、その倒木の上に子供が!」


 先行する領兵が、隊長に大きな声で報告する。


「子供だと!? なんでこんなところに子供が……。──いや、待てよ? それはドワーフではないか? 確かダン殿から子供に似ている馬鹿力のドワーフがいると聞いた事ばかりだ。その者をひっ捕らえ、倒木を動かし直ちに道を確保せよ!」



 コウは多くの人間で隊列が組まれた領兵隊を前に息を飲んでいた。


 大鼠族マースの報告通りなら、二百名という大人数のはずだ。


 その隊が、集落に向かう道にひしめき合っている。


 コウは、道の両脇の木を切り倒し、その道を一人で塞ぐ格好だ。


「そんな完全装備した領兵隊がドワーフの集落に何のご用でしょうか!?」


 とコウは緊張する中、大きな声で周囲に響き渡らせた。


「道を塞いだのは貴様か! 我々はマルタ子爵の命令で来ている! その行く手を阻むなど許されんぞ!」


 隊長は目的告げずにコウの責任を追及した。


「再度お尋ねします! ご用は何でしょうか?」


 コウは引かず、繰り返し質問する。


「うるさい! 子爵様はお前達ドワーフが街に対して損害を与えた事を重く考えになられ、それを問い質す為に我々を派遣されたのだ! 邪魔立てするなら、拘束だけでは済まさんぞ!」


 隊長はすでに血気にはやっている。


 だが、同行している鉱山責任者ダンはそれを止めるつもりはない。


 自分の今後の生活の為にもドワーフの労働力は必要不可欠だし、リーダーのヨーゼフ、そして、目の前のコウというハーフドワーフの存在は不要なものだから、隊長に殺させる気満々であった。


「僕達ドワーフは、契約が切れたので自由にしているだけです! それについては何の問題もないはずですよ!」


「この領地では子爵様の判断が正しいのだ! それに契約や法などは人間の為にあるのであって、貴様達ドワーフには適用されない!」


「それはこの国の法を無視する事になりますよ!?」


「だから言っているだろう。法は人間の為にあるのだ! 貴様ら下等なモグラを保護する為のものではない! 大人しく捕まれ! 抵抗したら、この者達を斬り殺すぞ!」


 隊長はコウが権利を主張する事に対して独自の酷い解釈で否定すると、領都内で捕らえたドワーフ達をコウの前に引き立ててきた。


 それを確認したコウは、片手を挙げる。


 一見すると意見を言おうと挙手したようにも見えたが、次の瞬間、道の両脇の木々が道に向かって次々に倒れ始めた。


 コウの目の前の木々も派手な音を立てて倒れていき、領兵達は慌てふためき寸断される。


 それに木々には青々とした枝が当然生えているから、それが頭上にかぶさって来て視界も奪われるし、当然倒木の際にはその下敷きになって怪我する者もいた。


「ぎゃっ!」


「ぐはっ!」


「何をする!? ぐはっ!」


 捕縛されて引き出されたドワーフ達の付近から次々に悲鳴が上がる。


 だが、領兵達は倒木によって完全に寸断されていたからそれを確認できない。


「ええい! どうした!? こちらには人質がいるんだ落ち着いて対処せよ! こんなもの、その場しのぎのあがきにすぎん!」


 隊長が一番慌てふためきながら領兵達を叱咤する。


 一部の領兵が、倒木の枝を剣で木って視界を確保しようとするが、領兵達がひしめき合っているので、「危ないだろうが!」と怒号が飛び交う。


 その間にドワーフの髭無しグループ、ダンカンが仲間を指揮して捕らえられていたドワーフ達を救出していた。


 掴まっていたドワーフは大人の男が四人、女子供が五人の計九人。


 情報よりも人数が減っているのは、抵抗して斬られたのだろう事は容易に想像がついた。


 ダンカン達は助けた仲間を先導して獣道を通って逃げる。


 領兵達は混乱から脱すると、仲間がその場に倒れ、人質がいなくなっている事に気づいた。


「隊長! 人質に逃げられています!」


「何!? くそっ! 役立たず共が! ドワーフ如きの策略に引っ掛かるとは恥を知れ! 倒木は無視して早くドワーフ集落に向かうぞ!」


「それでは騎馬隊が動けません!」


「全員、馬から降りよ! ドワーフは鈍足だ。馬がなくても逃げられる事など早々にないわ!」


 隊長はそう言うと、部下の手を借りて倒木を越えて前に進む。


 そして、コウというハーフドワーフが騒ぎの中、いなくなっている事に気づくのであった。

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