第10話 新入生代表の挨拶!?

<グラン視点>


「ふう……」


 雲一つない空の下。

 始まりにふさわしい快適な朝の中で、大きな大きな建物──ディセント学院を目の前で息を吐く。

 

「いよいよかあ」


 入学試験からは一週間ほどが経ち、今日から俺はこの学院に通い始める。

 先日届いた制服にも袖を通して、ドキドキは収まらない。


「よし、いこう!」


 もちろん気分は最高潮──のはずだった。

 

「なあ、聞いたか?」

「ああ例の件・・だろ」

「一体誰なんだ」


「うっ!」


 校門に足を踏み入れてすぐ、周りから聞こえる声にびくっとする。

 普段ならこんなことはあまりないのに、今日はめちゃくちゃ緊張してる。


 だって……。


「首席合格、一体誰なんだ」

「ニイナ・アリスフィア様でもないらしい」

「どこぞのガキって話だぜ」


「!」


 や、やっぱりーーー!


 俺が緊張しているのは「首席合格」のこと。

 というか、代表の挨拶についてだ。


 俺は小声でつぶやく。


「なんで俺が……」


 世界中から貴族・王族、剣や魔法の達人が集まるこの最高峰の学院。

 そこで俺は首席に選ばれてしまったんだ。

 何故かは全く分からない。


「──でも」


 俺だって「友達がほしい」っていう目標を持ってこの学校に入ったんだ。

 周りとはちょっと違う目標かもしれないけど、合格したのなら胸を張って歩こう。


 俺は胸の前で小さく拳を握った。


「首席様はさぞかし凄い人なんだろうな」

「ああ、きっと挨拶も相当なもんだぜ」

「これからの目標になりそうだな」


「……うっ」


 そんな話には聞こえぬフリをしながら。







『──以上、学院長のお言葉でした』


 簡単なセレモニーから始まり、入学式は終盤。

 初めての入学式に、初めての同年代の人たち、本来はもっとウキウキしてるかもしれないけど、今の俺は正直それどころではなかった。


 気が付けば、もうだから。


「ふぅ……」


 周りに聞こえない様に息を整える。

 それと共に、司会の声が会場内に響く。


『続いては、新入生代表の挨拶あいさつです』

「!」


 ごくりと固唾かたずを飲む。

 大丈夫だ、一応練習はしてきた。


『新入生代表、グラン君』

「は、はい!」


 司会に反応して、返事をしながら立ち上がる。


「出たぞ」

「あれが首席……?」

「見たことねえ顔だな」


 途端に周りがざわざわし始める。

 校門でも話していたし、もしかしたら噂になっていたのかもしれない。


「あちらにおあがりください」

「はい」


 司会の人から指示を受けて、いよいよステージの前に立った。


「……!」


 演台に手を置いて、緊張しながら前を向く。

 視界はたくさんの生徒たちが埋め尽くす。

 これから一緒に学んでいく人たちだ。


 そう思うと手に力が入るけど、俺は練習してきた言葉を話し始める。


「は、はじめまして! 新入生代表のグランです!」

 

 口は引き続き動かしながらも、俺は宿で家族と交わした会話を思い出していた。

 それは合格通知が届いた日のこと。




───


「ご、合格したよー……」


 俺は、手の平サイズの鏡のような物を覗きながら話しかける。

 すると、画面にはひょこっと三人の影が映った。

 

「さすがだ!」

「やったわね!」

「さすがわしらの子じゃ!」


 里の家族たち──ザン、デンジャ姉さん、ウィズじいちゃんだ。

 報告には三人も大喜びしてくれた。


「う、うん……。なんとかね」


 だけど、少し元気なさげに返事をすると不思議がられる。


「どうしたグラン」

「元気がないわね」

「嫌な事でもあったか?」


 俺は事情を説明するように、合格通知と一緒に送られてきた紙も見せた。

 首席合格のむねが書いてある通知だ。


「これなんだけど……」

「「「ん~?」」」


 三人は画面にぐっと顔を近づけて覗き見る。

 内容を確認した三人は……


「「「あっはっはっは!」」」


 一斉に笑い出した。


「なんで笑うの!?」


 こっちはめちゃくちゃ混乱してるのに!


 目を細めてほおふくらます。

 すると、ウィズじいちゃんが笑いとため息を交じえたように答えた。


「グランよ……そりゃそうじゃろう」

「え、分かってたの?」

「分かってたというか、そうとしか考えられんというか……」

「どういうことだよー」


 たしかにゴラーク君には勝てたし、あの後の実技試験もうまくいった。


 でも俺以外にも全勝はいると思う。

 それに筆記試験もそれほど難しくなかったから、一体どこで差がついて首席になったんだろう。


「グランもその内分かるわい」

「まったくー」


 まあ、それは考えても仕方がないっか。

 今はそれより聞きたい事があるんだ。


「代表の言葉って、一体何を話せばいいの?」


 俺は首を傾げてウィズじいちゃんに聞く。

 ちょっとお節介だけど、なんでも知ってるじいちゃんだから信頼はできる。


「ふむ。そんなもの決まっておろう」

「なに?」

「それはじゃな──」


───


 俺はウィズじいちゃんの言葉を思い出す。


(自分の素直な気持ちを言えば良いんじゃ)


 緊張するけど言葉にしてみよう。

 その思いを胸にマイクに向かって声を張る。


「俺はこの学院で──」


 俺がここに来た理由だ。


「と、友達がほしいです!」







<三人称視点>


「と、友達がほしいです!」


 代表の挨拶の中でも、一番に響き渡ったグランの言葉。

 

「「「……」」」


 だが、その子どもじみた言葉に会場は少し静まってしまう。


 それもそのはず、この首席の場で挨拶する者は、毎年高貴な身分を持つ者。

 必ずしもそうである決まりはないが、幼き頃から英才教育を受けられる分、やはり有利なのは貴族。


 そんな彼らが「友達がほしい」などとは言うはずもなく、前代未聞の挨拶なのだ。


 だが……


「ふふふっ」


 どこからか聞こえる、ふとした笑い声。

 響いたわけではないが、周りの何人かには聞こえているだろう。


「せっかく良い挨拶なのに、あんまりじゃない」

 

 彼女はパチンと指を鳴らす。

 途端にどこからか拍手が生まれる。


「……!」


 それに準じて、懐疑の目を向ける者、周りに合わせる者、面白がる者、様々な者がいながら拍手は次第に大きくなる。


 そうして、やがて大勢の拍手がグランを包んだ。


「ふわあ……!」


 受け入れられたその光景。

 グランは心底嬉しそうな表情を見せた。


 また、


「あんな面白い子、歓迎してあげなきゃ失礼だわ。それに──」


 指を鳴らした彼女は、次は妖艶ようえんな表情を浮かべた。


「いずれ私の玩具おもちゃになるんだもの。受け入れてもらえないと可哀想だわ」


 彼女は、試験会場でグランを見ていた少女。

 少し年上のニイナ・アリスフィアと似た少女であった。




 また、新入生の席でも反応を見せる者たちも。


「なんであの庶民が首席なの!?」


 困惑の目を向ける少女、グランが船で出会った──ニイナ・アリスフィア。


「あれ、あの子って……」


 グランが学生街で助けた、フードの女の子。


 そして、 


「クソが……」


 ギラリとした目を見せる少年。

 その目付きは、人一倍に闘争心を燃やしているかのようだ。


 後に関わってくる彼らが、グランに目を向けた瞬間であった──。





───────────────────────

いよいよ学院編、タイトルの本番スタートです!

最後のギラリとした少年は、試験で倒したゴラーク君ではありません!笑

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