後輩女子とえちえちすごろく

矢木羽研(やきうけん)

えちえちすごろくでボディタッチ!

「先輩、新しいゲーム買ったんですけど、一緒にどうですか?」


 放課後、図書室で後輩の女子に話しかけられた。僕たちは二人で文芸同好会を自称している。実際のところは、いつも図書室で会うからいつの間にか仲良くなったという程度の関係だけれど。


「ゲーム? スイッチかな、それともプレステ?」

「いえ、そういうのではないんです。もっとアナログなボードゲームですね」

「へぇ」


 今までにも何度かその手のゲームに誘われたことがある。たいていは学校で遊んだり、あるいは仲間を集めて公民館でプレイしたりしていた。


「どういうやつなの?」

「それは……うちに来てからのお楽しみです!」

「君の家に?」

「ええ、ちょっと学校に持ってくるのはどうかと思ったので」


 一体、どんなゲームなのだろうか。


**


 そして放課後、僕は彼女の家にやってきた。


「どうぞ。今日は両親の帰りも遅くなるので、気軽にくつろいじゃってください」

「それじゃ、お邪魔します」


 女の子と二人きりになると当然、期待してしまうものがあるのだが、彼女とはそのような浮ついた関係にはなれそうもない。それに、僕自身も経験がないのでどうすればいいのかもよくわからない。


「それじゃ、お茶とか持ってきますね」


 一人残された僕は、あらためて部屋を眺めてみる。地味な雰囲気の彼女ではあるが、ここには可愛らしい小物があったりして、れっきとした女の子の部屋という感じだ。改めて、ここに自分がいるのは場違いな感じがして、ちょっと緊張する。


*


「お待たせしました。ハーブティーでいいですか?」

「ありがとう。いただきます」


 何のハーブが使われているのか僕にはわからなかったが、エキゾチックな香りが雰囲気を盛り上げる。もしここにいるのが恋人であったら、きっと盛り上がったりするんだろうな。


「ところで、例のゲームってのは?」

「え?! 先輩、やっぱり……興味あります?」

「興味って、君のほうから誘ってきたんじゃないか」

「そうですよね。……落ち着かなきゃ」


 なぜか彼女はそわそわとする。何かまずいことでも言ってしまったのだろうか。


*


「えーっと……」


 彼女はタンスの一番下の段を引っ張り出し、奥から何かを探している。こちらには四つん這いになった彼女のお尻が向けられ、スカートの中が見えそうになったので慌てて目をそらす。そして彼女は小さい箱を取り出し、振り向いて僕の前に差し出した。


「アソコン……?」


 箱にはアルファベットで「ASOCON」の文字と、0.04という数字。さらに小さく「えちえちすごろく」「コンドーム4個入り」という文字が。……コンドーム?!


「ちょっと待って、なにこれ?」

「遊べるコンドーム、です……」


彼女はそれだけ言うと、真っ赤な顔でうつむいてしまった。


*


「つまり、すごろくに書いてあるエッチな指令に従いながら進める、と」


 すごろくのマスには「体に触る」とか「服を脱ぐ」といったことが書いてある。ただし、あくまでそれだけだ。


「はい……。ちゃんと同意がある相手としか遊んじゃ駄目みたいですけど、先輩はどうですか?」


 このゲームをプレイすれば、彼女の体に触れたり、彼女が服を脱いでいくところを見られる可能性がある。もちろん逆に僕が恥ずかしい目に遭うことだってある。そしてお互いに気分が高まってくれば、付属品のコンドームで楽しんでください、というコンセプトだろう。


「そりゃあ、興味はあるよもちろん。でも君のほうはいいの?」

「はい! だって私はそのつもりで、誘ったんですから……」


 そう言いながらうつむいたが、再び顔を上げて僕の目を真っ直ぐに見つめた。


「わかった。どんなことになっても恨みっこ無しだからね。もちろんゴムもちゃんと使うし」

「ありがとうございます……」


*


 いよいよゲームの始まりだ。箱の中からはすごろくのシートと、赤と青のコマ、そして六面のサイコロがある。これを使うというわけだ。


「それじゃ、先輩の先攻でいいですよ」

「よし。……1か」


 僕が止まったコマには、ただ「何フェチ?」とだけ書いてあった。


「先輩、何がフェチなんですか?」

「そうだな……メガネ、とか?」


 にやにやしながら僕の顔を覗き込んで尋ねる彼女に、僕はそう答えた。


「それ、私がメガネかけてるから言ってません?」

「確かにそれもあるけど、メガネ好きなのは事実だよ」

「へえ、そうなんですね……理由とかあります?」


 僕は少し考えて、正直に答えることにした。


「うーん、やっぱりメガネって真面目で勉強ができるイメージがあるから、そういう子が……エッチなことをするって興奮すると思わない?」

「それじゃ今の状況、めちゃくちゃ興奮したりしてます?」

「そりゃあ……うん、そうだね」


 それだけ聞くと、彼女は無言で軽くガッツポーズをした。ちくしょう、可愛いやつめ。


*


「次は私の番ですね。……3。『1枚服を脱ぐ!』ですって」

「……いいの? 無理しなくていいのに」

「今さら何言ってるんですか先輩。覚悟できてるに決まってるじゃないですか。……上と下、どっちがいいですか?」


 彼女は立ち上がって僕に尋ねてきた。


「……私にはわかってますよ。先輩、スカートの中が気になってるでしょ?」


 しばらく答えに詰まっていると彼女の方から口を開く。


「さっきタンスの中を見てた時、私のお尻をめちゃくちゃ意識してましたよね。わかるんですよ」


 そう言いながら、スカートの中に手を入れる。まさか……。


「はい、スパッツです。さすがにちゃんと穿いてますからね?」

「あ、うん。そうだよね自転車通学だし」


 彼女の性格からして、下着が見えるような格好をしているとは思えなかった。


「でも、これを脱いだってことはあとはパンツだけですからね。何かの拍子に見えちゃうかも」


 床に座ってすごろくをしているので、たしかに少し膝を立てたりしたらスカートの中は丸見えだろう。


「さ、続けましょ」


 彼女は床に座り込んでそう言った。スカートがふわりと舞い上がるが、ぎりぎりで中は見えない。


*


「僕の番だ。……5だな。『相手のカラダの好きなどこかにタッチ!』かぁ」

「やーん、どこ触られちゃうんですか?」


 彼女はおどけて体をくねらせる。


「……どこでもいいの?」

「そりゃ、先輩の好きなところならどこでも!」

「ふーむ……」


 僕は考えた末、正座している彼女の膝に手を触れた。


「ふーん、先輩って膝フェチ?」


 余裕の笑みを浮かべる彼女をよそに、僕は無言で手をスカートの中へと滑らせていった。


「えっ、ちょっと、先輩!?」

「好きなところ、って言ったよね」


 さらに手を奥へとやる。なめらかな太ももの感触が指に伝わる。


「あっ……」


 そのまま指を広げて太ももの感触を楽しむ。そして、下着に触れるかどうかギリギリのところで手を引っ込めた。


「はい、おしまい」

「い、今のはちょっとドキドキしたかも」


 僕が手を引くと、彼女は慌ててスカートのすそを直した。彼女を動揺させることに成功したのは嬉しいが、ドキドキしたのは僕も同じだ。逆に、ここで拒否されなかったことには安心したのだが。


 図書室の掃除をするときは体操服なので、スパッツ越しの彼女の脚は身近なものだったが、もちろん触るのは初めてだった。すべすべして、むちむちして、有り体に言えば「おいしそう」だと思った。


*


「私の番。……3ですね。先輩と同じとこです」


 つまり「相手の体の好きなどこかにタッチ」である。


「先輩。首、触ってもいいですか? 優しくしますので」

「首?」

「ええ。首周りって、ある意味で男らしさが一番出る場所だと思うんですよね」


 僕がうなづくと、彼女は両手を伸ばしてそっと首筋を撫でた。そして手を一周させ、喉仏をぺたぺたと触る。


「……そろそろいい?」

「あ、すみません」


「君って、もしかして首フェチ?」

「うーん、そうでもないと思うんですけど、いつも気になってた部位なんですよね。いつも露出しているのに、ここまで男を感じる場所って他にないので」


 なるほど。自分の首というのはあまり意識して見たことがなかったが、たしかに男女で差が出る部位だと思う。


 彼女の脚と僕の首。お互い、見慣れているけれど触れたことのない場所だった。そこに手を当てた時、僕たちの関係は確実に進んだような気がする。

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