第2話

 今回は、宇治十帖について書いてみます。


 宇治十帖の主人公といったら、薫の君ですが。彼の出自はちょっと複雑です。まず、表向きは薫の君は光源氏の息子になっていますが。実際の父親はかの頭の中将の息子で光源氏の義理の甥にも当たる柏木の君になります。

 母親は光源氏の正妻の女三宮ですね。では、何故に複雑なのか?

 要は柏木の君と女三宮の不義密通により、彼は生まれた子だからです。薫の君が生まれた際、光源氏はかなり苦悩したとか。それはそうでしょうね。

 光源氏も実父を裏切り、義母の藤壺との間に不義の子をもうけていますから。それを再現したような事態になり、彼は懊悩します。


 後に、実父の柏木の君も亡くなり、母の女三宮は世を捨て去り出家してしまいました。光源氏や周りの人々はこの時、何を思ったのでしょうか。光源氏は「惜しい若者を亡くした」と思ったようですね。また、不義の相手だった三宮は「可哀想な人」と泣きながら言っていました。

 

 こんな中で育った薫の君はいつの間にか、生真面目ながらに厭世的な若者に成長します。彼はある時に親戚筋の冷泉院から、宇治の八宮の話を聞きました。俗聖ぞくひじりと世間から称される程に仏教に造詣が深いという八宮に薫の君は興味を抱きます。

 薫の君は冷泉院の文を預かり、宇治をある日に訪れました。八宮に会い、仏教についての講義を受けたいと申し入れます。八宮は、最初こそ断ろうとしていましたが。薫の君の熱心さに負けて最後には承諾します。


 こうして、薫の君の宇治通いが始まりました。八宮の講義はわかりやすくて深みもあり、薫の君は余計に仏教に傾倒していきます。

 そんな彼に転機が訪れました。ある秋の川霧が深い日です。薫の君は普段と同じように、宇治のお邸を訪問しました。ところが、生憎八宮は不在です。これを聞いた薫の君は帰ろうとしました。けど、お邸の方から楽の音が漏れ聞こえてきます。


「……おや、楽の音が聞こえる。誰が弾いているのだろう」


 薫の君は気になって、応対に出てきた家人けにんに訳を訊きました。家人は八宮には二人の姫がいて、彼女達の手によるものだろうと説明します。

 俄然、興味が湧いた薫の君は姫達の姿を垣間見かいまみさせてほしいと家人に言いました。けど、家人は慌てて断ろうとします。薫の君は「別に姫達を今すぐにどうこうするつもりはないよ」と言って、頼み込みました。


 折れた家人は渋々、薫の君を案内します。薫の君は丁度よく、見える位置で姫達を垣間見ました。月明かりに照らされる中、端近に座り琵琶を弾く女性が妹姫らしく、奥まった場所で箏のそうのことを弾いているのが姉姫のようです。

 薫の君は噂には聞いていましたが。聞きしに勝る美しい姉妹に息を飲みます。特に、思慮深く慎み深い姉の大君おおいぎみに彼は惹かれました。


 こうして、薫の君は宇治の姉妹に生活面での支援もするようになります。これは宇治の八宮が亡くなり、中君が匂宮の元に行くまで続きました。


 薫の君は大君に何度も求婚をしては、断られる事を繰り返します。本当は惹かれ合っていた二人なんですが。大君は薫の君に自身はふさわしくないと思い、身を引こうと思っていました。ある時には、妹の中君を薫の君に勧めた程です。 

 これには薫の君も反発しました。大君は困ってしまいます。けれど、薫の君はどう思ったのか。中君を匂宮に縁付かせてしまいます。大君は薫の君に大いに怒り、悲しみました。


 後に、中君が心配な余り、大君はとうとう病で倒れます。薫の君も聞きつけて、急いで駆けつけましたが。懸命な看病をするもあっけなく大君は亡くなります。薫の君は嘆き悲しみました。


 喪が明けると、妹の中君は匂宮に請われて都の二条院に居を移します。これを聞いた薫の君は複雑な胸中でいました。

 後に薫の君は中君から、異母妹の浮舟の話を聞きます。浮舟は、匂宮と薫の君との三角関係に悶え苦しむ事になるのですが。これはまた、別の項にて書きたいと思います。


 読んで頂き、ありがとうございました。


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