予祝―シフト―

川辺さらり

【詩】予祝―シフト―(今暗闇で戦っているあなたへ)

私はそのとき「足」だった。


そして、気づけば一歩、また一歩と歩んでいた。


土踏まずを含め前面に感じるのは、


常に湿ってぬめるひんやりとした黒い土、


積もって発酵を待つ、ガスを含んで溶け始めた茶色の枯れ葉たち。


シダの硬い葉が甲にヒタヒタと当たってかすかに痛い。


時折、細い枝を踏むと感じる異物感。


ダンゴムシが急いで避ける。


一歩一歩が重い。


それでも、前に進む。


ゆっくりと、でも止まらずに。


止まればこのぬかるみに沈んでしまいそうな、危うい世界。


永遠にも感じる、暗く冷たい世界。




どのくらい進んだろうか。


随分長い年月を進歩んだ気がする。


そのとき、急に柔らかく、心地いい感触が変わった。


今まで感じたことのない感覚だ。


それは、黄緑色の草が波を織りなす草原だった。


まるで絨毯のように、ふかふかだ。


踏んでも踏んでも、触れるのはサラリとして柔らかいこの感触だけ。


時折触れる大地も、カラッとしている。


背中の甲は、陽の光を受けて暖かい。


自然に歩が早まるのを感じる。


私は、駆け出している!


どこまでも続く草原を、獣のように、風のように駆ける。


絡みつく、細く柔らかい草を振りほどくように。


緑色の風が私のすぐ横をビュンビュンと通り過ぎる。


走れば走るほど、もっともっと高揚する。


私は夢中になって駆けた。飛ぶように、転げるように。


なんて素晴らしい!


行けども行けども、一面の萌葱色。


萌葱色のはるか彼方には、薄い水色の空とふんわりとした白い雲も見える。


そしてすべてを包み込む、真上に輝く強烈な光!


抜けたのだ、あの暗い世界を。


もう戻らなくていいのだ、あの世界に。


私は自由だ。私は自由だ!


初めての高揚感、初めて感じる幸せ。


遊びすぎて疲れたら、休んでもいいのだ。


止まっても沈むことはない、もう誰にも奪われない界なのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

予祝―シフト― 川辺さらり @kawabesarari

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ