第147話 サンパウロダンジョン その1
8月第4週の火曜日。
"ぶらじる"の都市、"さんぱうろ"に私はいた。
東京の"あめりか"軍基地から乗ってきた超音速戦闘機から降りると、私は自分の体を抱えるようにして腕を回してしまう。
「なんだか……涼しいっ!?」
「まあ、今の時期ブラジルは冬だから」
私の隣でAKIHOさんが言う。
今回この"ぶらじる"に来るにあたって、私の翻訳兼案内人を務めてくれることになっていた。
戦闘機から降り車に乗り換えたりする道中も、私は目と耳を完全にふさいで眠らないようにしていたので、AKIHOさんに手を引かれるがままだった。
車に乗って、ようやく耳栓だけ外す。
「ふぅ、いつも本当に助かります。中国でもたくさんお世話になっちゃって」
「お互い様よ。アジア予選ではリウちゃんの攻撃から守ってもらったし、今回の件にしても私の興味本位の部分もあるんだから」
「興味、ですか?」
AKIHOさんは意気込むように「うん」と相槌を打って、
「だって他国のダンジョンよっ? 現状で自国のダンジョンを他国籍の人間に公開しようとしている国なんてほとんど皆無なんだもの。経験できるときに経験しておくべきことだわ」
目隠し越しにもAKIHOさんのソワソワ、ワクワクとした様子が目に浮かぶ。
それには、なんというか、本当にダンジョンが好きなんだなぁと感心してしまう。
もちろん私もダンジョンに潜る事は楽しくて好きだけど、AKIHOさんは私の好きとは違って、新しい物事を経験して成長していく自分自身のことも楽しみにしている感じがしていて、いつも大変に前向きだ。
そういう明るい声色は、聞いていて私も楽しくなる気分がして、とても好きだ。
「AKIHOさんらしい理由ですね」
「そうかな? そうかも」
AKIHOさんは少し照れたようにはにかんだ。
「なんだか私ひとりで舞い上がっちゃってゴメンね。でも、ちゃんとRENGEちゃんの支援っていう仕事は果たすから任せて」
「はいっ、またこの度も頼らせていただきますっ!」
AKIHOさんに手を握ってもらえたので、私はそれをしっかりと握り返した。
目隠しは外せないままだったけれども。
* * *
「RENGEちゃん、目隠しを外すわよ」
「あっ、はいっ」
シュルリ。
黒地の厚い布が取り去られる。
「んんっ……」
まぶしい光が目に染みる。
でも、次第にそれも慣れていく。
そうして視界に広がったのはトンネルのような空間だった。
天井から壁にかけて、コンクリートのような灰色の壁で覆われて、地面は何百年も人の往来で踏みしめられたように硬い。
「ここが"さんぱうろ"ダンジョンですか?」
「ええ、そうよ」
私の隣に立って手を握ってくれていたAKIHOさんが頷いて答える。
「もともとサッカースタジアムの選手入場口がダンジョンに通じるようになっていたらしいの。後ろを見てみて?」
振り返る。
視線の先に会ったのは芝のグラウンドだ。
場違いにもチラホラと、黒いテントや重火器などが置かれている。
「抵抗組織の拠点になっていたらしいの、ここ」
AKIHOさんが眉をひそめて言う。
「いろいろと手を回して、私たちがここに来るタイミングで追い出してくれたみたい」
「そうなんですか。それじゃあ、"ぶらじりあんレンゲ"とかいう人も?」
「ええ。今は別の軍基地を強襲しに行っているらしいわ。だから、今このダンジョンの中にいるのは神と呼ばれるモンスターだけのはずよ」
「えぇっ!? じゃあ、基地の人たちが危ないんじゃ……っ!?」
「そうね。だからこそRENGEちゃん、あなたの力が今ここで必要なのよ」
「……!」
私はちょっと考えて、それから「確かに」と頷いた。
いま仮に私が軍基地を助けに行って "ぶらじりあんレンゲン" を倒したとしても、それで事態は解決しない。
神……
それもおそらくは"きんぐ"に関わりのあるモノが生きている限り、同じような力を持った人間は無限に生まれてくるだろうから。
……だから、元を絶たなきゃいけないんだ。
足りない頭でも、辛うじてそれくらいは理解できた。
「行きましょう、AKIHOさんっ!」
「ええっ。そうねっ!」
トンネル状のダンジョンを私とAKIHOさんは慎重に走り出──
──した途端のことだった。
「っ!?」
ガタンッ、と。
私たちの進路をふさぐように、天井から硬い壁が処刑斧のように落ちてきた。
「トラップ……!? でも、壁くらいっ!」
AKIHOさんが腰に差していた剣を抜くと、その剣先へと渾身の魔力を込めて壁に向け突き出した。
その鋭い先端から魔力爆発がほとばしる。
……いや、それは魔力爆発とは、少し違うっ?
「これはRENGEちゃんの魔力爆発を応用して作った新技──"魔力爆縮"よ」
原理は私には分からない。
でも、直観的に起こっていることは理解できた。
AKIHOさんはごくごく小さい範囲を包み込むように発生させた魔力爆発によって、空間を潰し圧力を高めて、その力を正面だけに絞って解き放ったのだ。
威力は魔力爆発のソレをはるかに超えるだろう。
──しかし。
「うそっ!?」
ズドンッ!
という大砲が間近で鳴ったかのような音にも関わらず、壁には傷一つついていなかった。
その代わり、壁の中心部が"すまほ"の画面のように光ったかと思うと、
"É um problema"
そんな文字が映し出されzzzzzz
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