第121話 世界大会エキシビジョン その7
「あり得ぬ……! 光速を超える不可能を、さらに超えるだと……!?」
虎男は勢いよく私から離れると、再び突撃してくる。
光速の壁を破った瞬間、周囲の全ての音がサカサマになった。
「!!! そ こ 度 今」
! ッ ン ァ パ──
気づけば虎男の左半身がはじけ飛び、血を流していた。
遅れて逆行した破裂音が響いた。
光速を超える虎男の突撃に対し、
私はその光速を超えた速度を超えての攻撃で応じたのだ。
「グッ……どこまで、どこまで人を超えれば気が済むのだ、レンゲェッ!!!」
虎男は残った右の虎の爪を、私の頭上から思い切り振り下ろしてくる。
私はそれをフワリと受け止めて、
「どこまで人を超えれば、って言われても」
私はそもそも、別に人を超えたって考えがそもそも無いんだけどな。
最近でこそ、周りからは良く超人だとか天才だとか言われるようになったけれども……
「それでも、私は私だから。今までもこれからも、ただのひとりの人間だよ?」
「……戯言をッ!」
虎男は左半身を失ってなお、戦意はまったく衰えていないようだった。
先ほど私に受け止められた右の虎の手に、私を押し潰さんとばかりに凄まじい力を込めてくる。
「この数十トンの圧力を前に、レンゲ……このまま潰れるお前ではあるまいっ!?」
「えっ? あ、うん……」
グググっと。
私は虎男の右手を押し返した。
力ではなく、ちょっと手首を返したり何かしたりして。
「クっ、ククククク……! なんという"技"の練度に精度……力の集束する"点"を的確に押さえ、我の力を逆に利用しているワケか……!」
「う、うん? 理屈は分からないけど、たぶんソレ、かなぁ?」
「バケモノめ、それでどの口で自分が人間などとほざくのだっ!」
虎男が何やらひとりで盛り上がっているようだが……
正直、私はついていけない。
「結局あなたが何がしたいのか分からないよ」
フワリ。
虎男の体を持ち上げると、私はその体をそのまま草原の地面へと叩きつけた。
数十トンを超す衝撃の重みに、土の地面が陥没する。
ミシリメシリと、虎男の体が破壊される音が響いた。
「フッ、これでいい……今はまだ、な」
虎男は陥没した地面の底で満足気に笑うと、先ほどの"ブンタイ"と同じようにその体を灰と化していく。
「こうして我はお前の"技"も"経験"できた。次の分体に、
「次……って?」
「ダンジョンは、まだまだ、ある……もちろん、分体もまた……な……」
そうして虎男もまた消えていった。
「……ホント、何がしたかったんだろ」
ただただ私に倒されに来ているようにしか思えない。
世界を混沌の海に沈める、とか言っていたけど、"ブンタイ"は二人とも"きんぐ"より弱かった気がする。
それでいったいどうしようって言うんだろう?
……まあ、私が考えたところで答えが出るハズもないんだけど。
ともかく、今は元の場所まで戻らなくては。
タッと駆け出して、"どろーん"十六機を探しに走る。
道中で"いやほん"と"まいく"の接続が戻った。
>RENGEどこ行った!?
>謎の人?モンスター?投げ飛ばして消えたな?
>人型モンスターって、オーガか何かか?
>地底人だったりして
コメント欄は憶測が行き交って混乱しているようだ。
「あっ、あのお待たせしましたっ!」
>おっ、かえってきた!
>RENGE!
>おかえり!
>どこ行ってたん!?
>さっきの人影はなんだったんだっ!?
>なんで投げ飛ばしたんだ?
"どろーん"の前に顔を出すなり、一気にコメントが増える。
その多くが先ほど私が倒してきた"ブンタイ"に対する質問だ……
けれど、それを赤裸々に話してしまうわけにはいかない。
そもそも、"きんぐ"についての情報も絶対秘密! とナズナ(経由で政府の人たち)に釘をさされているんだよね。
……なんとか言い訳しなければっ!
「えっと、さっきのはアレです。人型のモンスター? ですね。ただのゴブリン、みたいな……」
>いやいやw
>もろ骨格が人そのものだったぞ?
>ゴブリンであのサイズは見たことない。
「し、新種、です。そ、そう言ってました」
>えっ、『そう言ってた』って・・・
>ゴブリンがっ!?
>ゴブリンが言ってたの!?
>ゴブリンしゃべったっ!?
>おいおい!嘘だろっ!?
>自己紹介するモンスターとか・・・!
>マジでっ?!まさか友好的っ?!
>モンスターと友達になれる時代きたっ?
>それでどうしたの!?
>友達になれた?
「えっと、攻撃してきたので、殺しちゃいました」
>・・・!?
>・・・!?
>・・・ハ!?
>わけわかんねぇ・・・!
>ゴブリン「ボク新種です」ニッコリ
>RENGE「わ、喋った」
>ゴブリン「君コローすよ」ニッコリ
>RENGE「返り討ちー!」
>カオスwww
>どんな会話だよw
>殺伐としすぎてて草
>ハチャメチャ過ぎるだろwww
「えっと、とにかく危険だったので! ちょっと配信には見せられないかなーと」
いろいろとアタフタとしてしまったが、私はそれから何とか質問を煙に巻きつつ、ザッとこの20階を見渡しての印象を説明だけして探索を切り上げることにする。
……また"ブンタイ"とやらに絡まれる前に帰らないと!
そして、今ここで起こったことをナズナや政府の人たちに伝えなきゃ。
"ブンタイ"は"きんぐ"と同じ、世界を脅かす目的を持っているみたいだし……。
──そうして私は"えしょきょひんひん"を終え、地上へと戻った。
"はりうっど"の大穴から出てくると、ホッとした顔つきの軍人さんや関係者一同が温かな拍手で迎えてくれる。
関係者の明るい表情を見るに、どうやら"えしょきょひんひん"の視聴率や人々の反応は期待以上のものだったみたいだ。
「お姉ちゃん、改めてエキシビジョンお疲れ様。それで、さっきの20階の"ヤツ"だけど」
帰りの車の中。
2人で掛けている後部座席で、静かに切り出してくれたナズナに相槌を打ち、私は話し始める。
全部を聞いた後、
「なるほどね。お姉ちゃんに"適応"しようとしてくるのか……なら……」
ナズナはひとり納得したように何度も頷くと、
「大丈夫だよお姉ちゃん。あとは私に任せておいて」
そう言って、腕を組んで何事かを考え始めたのだった。
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