第69話 RENGEの弱点克服配信その4
〔グォォォォォォ──ンッ!?〕
数秒遅れて自らのケガを自覚したパロットベアが悲鳴を上げ、後ろに倒れた。
その瞬間、
「ハッ!?」
その声を聞いたレンゲもまた目覚めた。
「なっ、なにごとっ!?」
>おはよ!
>おはよう
>おはようwww
>いい朝だな
>心配はしてなかった
「はあ……?」
コメントで投げかけられる言葉にレンゲは首を傾げつつ、目の前にパロットベアが居ることで事態を把握。
「よ、よ~~~し! がんばります……っ!」
レンゲはジリジリとパロットベアへと近づいた。
「さあ、英語を話して、"ぱろっとべあ"……! さあっ!」
〔ギュオオオオオンッ!〕
「さあ、早くっ! どうか私を助けると思って!」
〔He……Help me ……!〕
「……zzz」
ガクン、と。
催眠術にでもかかったかのようにレンゲが頭を垂れる。
そして次の瞬間、
「お掃除……お掃除……」
目を閉じたままレンゲが足を踏み出した。
その一歩は重たい靴音を響かせた。
パロットベアの体が地震でも起こったかのように震え出す。
それと同時に、
>あれ、映像に乱れが……?
>なんかコレ前にもなかったっけ?
>魔力操作で空間を歪曲させた時か
>今もまた歪曲してた?
>分からんwww
>圧倒的NAZUNA不足
>誰か解説ぅぅぅーーー!
コメント欄は阿鼻叫喚。
パロットベアもまた、
〔ギャォォォオオオッ!!!〕
大きな悲鳴のような威嚇を上げてレンゲをけん制した。
それが功を奏して、
「ハッ!!!」
レンゲが再び目覚めた。
「あれ、いま地震ありました……? それで目が覚めたような」
>たぶんお前が地震起こしたんだよwww
>もうダメだ、ツッコミ切れんて
>NAZUNAはよ
「うう……また寝てしまっていましたか。次こそはっ!」
ジリジリと。
再びパロットベアへと迫るレンゲ。
パロットベアもまた後ずさりするように後ろに下がっていく。
「なっ、なんで襲って来ないのっ!? モンスターだよね、君っ」
〔Ohhhhhhhhhhh, Nooooooh !!〕
「あっ、あっ! 今のはなんて言ってるか分かりました! "オーノー"って言ってます! 私、ちょっとずつ英語に慣れてきてるんだと思いますっ!!!」
>う、うん・・・
>そ、そうだね・・・
>(オーノーって英語か?)
>(英文ではない気がするな)
>(感嘆の声的な?)
>言わぬが花
>黙っておいてやろうよ
〔Oh……, Please, please help me ……!〕
「……zzz ゴミ掃除zzz……生ゴミ……焼却処分zzz」
パロットベアの話す英語に、再び眠りに落ちたレンゲの右手にユラユラと陽炎が生まれる。
そしてあまりの熱エネルギーに周囲の空気が燃え始めた。
〔Help me ! Help me! Heeeeeeeelp !!!!!〕
パロットベアが叫ぶ。
その声はもはや人を騙す声ではない。
本能的に助けを乞い願う悲鳴となり果てていた。
>このグロモンスター、今から死ぬん・・・?
>なんか可哀想になってきたな
>見ろよ、あんなに怯えて・・・
>でも英語を話しちゃうわけだろ?
>じゃあもう生きて帰れないな・・・
>助けてやりたいところだが
>さすがにこれには草も生やせん・・・
〔Oh, help me……〕
「……燃えるゴミ……zzz」
〔Ah, ohhh, nhhhh ……〕
「……灰は灰に……塵は塵に……zzz」
パロットベアの体はとうとう通路奥、壁際まで追い詰められる。
レンゲとの距離、2メートル。
パロットベアはグロテスクなその口をパクパクとさせる。
それが恐らくは……最期のひと言になる。
〔uhhh, ah, ta ……〕
パロットベアは喉から絞り出すようにして、
〔ta …… Tasu ……タスケテ ……〕
>!?
>!?
>!?
>えっ!?
>はっ!?
>いまっ!?
コメント欄がそうざわつく中で、
〔タ、タスケテ、クダサーイ……〕
パロットベアはそう口にした。
それは英語ではない……
日本語。
>い、いま助けてくださいって?
>言ってたよなっ!?
>俺の聞き間違えじゃなかったのか!?
パロットベアは生か死かの極限下、
何としても生き延びたいという強い想いの果てに、この短時間で日本語学習を果たしていた。
それはまさしく奇跡とも呼べるもの。
「……ハッ!」
日本語での呼びかけに、レンゲも起床した。
「わっ、また寝てたっ!?」
〔タスケテ、クダサーイ〕
「えっ!? パロットベアが日本語喋ってる!?」
「ワタシ、アンタ、タベマセーン」
「これどういう状況っ!?」
結局そのパロットベアはゲームスイッチが切られるまでの間、視聴者からの熱烈な要望によりレンゲに殺されることはなかった。
そうしてレンゲのその日の弱点克服配信は失敗に終わり、レンゲはまた1つ伝説を作ることとなった。
【英語話者のパロットベアを威圧して日本語を喋らせた】
パロットベアは恐怖に急かされての学習速度が異常に速いということが分かり、それはダンジョン黎明期モンスター研究をしているニッチな学者たちに驚きをもたらし、どこかの論文の役には立ったという。
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