第46話 AKIHO×RENGE配信(魔力爆発)その1

秋津ダンジョン施設"へる"モード、6階。

すでに"どろーん"搭載の収録用カメラは回っていた。


「──でね、RENGEちゃんの説明の通りに魔力操作を試そうとしたの。体の内側の魔力回路を巡る魔力を外に少しずつ漏らして、体の外側を覆うように……」


AKIHOさんが体に力を入れ、硬直させ、取り組んで見せて、


「……ああ、やっぱりダメっ! 体の外側の魔力を操れるイメージがどうしても湧かないのっ」


肩で息をし、膝に手を着いたAKIHOさんが首を振った。


「たぶんね、RENGEちゃんの動画を見たほとんどの視聴者さんが、この部分で引っかかってると思うなぁ……」


「そ、そうなんですね……!」


「少しまたやって見せてもらいたいんだけどね……そんなことをお願いしちゃうのはさすがに都合良すぎてダメかなぁ~……?」


「もちろんやってお見せしますっ、お任せくださいっ!」


「わぁ~! 本当にっ!? ありがとうRENGEちゃん……いいえ、よろしくお願いします、RENGE先生っ!」


このやり取りはあらかじめ決まっていた流れだった。

AKIHOさんがまず魔力操作ができないというところを見せ、それに対してRENGEが実践を見せる方式にすると視聴者さんたちに違いが分かってもらいやすいハズだから、と。


……まあ、主に決めたのはAKIHOさんとナズナだけどね。


私は2人にせっせとお茶とお茶菓子を運んでいたのでほとんどノータッチだ。


……さて、私の実践はどうしようかな。なるべく"いんぱくと"重視で魔力操作を見せられるように、とのことだったけど……あっ。


ちょうどよく、近くに大きめのオークが居るのが感知できたのでそこまで移動する。

近づくと、向こうからこっちに駆け寄ってきてくれる。


「RENGE先生、キング・オークが向かって来ますけどどうします?」


「はいっ。あのモンスターを使って魔力操作を見せたいと思いますっ」


「おおっ、楽しみ! いったい魔力操作による強化で、どれくらいの力が出るんだろうっ?」


大きめのオークが私目掛けて突撃してくる。

そしてその手に持つ棍棒を振りかぶったので、


──私はそれに背中を向けた。


「え゛」


AKIHOさんから、普段聞かない声が出る。


「ちょっ──危な、」


〔ブルォォォォォォッ!!!〕


AKIHOさんの声はオークの猛り声にかき消される。

そして棍棒は勢いよく私の頭上目掛けて振り下ろされた。


ごちーんッ!!!


「──はい。ご覧ください」


〔ブルォッ!? ブルォォォゥッ!!!〕


ごちーんごちーん!

オークが何度も棍棒を私に叩きつけてくる。

私はしかし、微動だにしない。


「このようにですね、体に魔力操作で魔力を纏えば何も痛くないですっ」


「えっ……えぇぇ……っ?」


ん? どうしたんだろう?

AKIHOさんが若干、引いているような……


「ほっ……ホントに痛くないの……?」


「ぜんぜん痛くないですっ!」


〔ブリャリャリャリャァァァッ!!!〕


ごちーんごちーん!

躍起になったオークは棍棒を振り下ろし続ける。

痛くない。

衝撃すらない。


「す、すごいなぁ……さすがはRENGE先生……」


「先生なのでっ! 頑張ってみましたっ!」


「体、張り過ぎだよぉ……でも何はともあれ、実践ありがとうございました」


「いえいえっ。お安い御用です」


「ところで、その魔力操作について……体の外に出た魔力って自分で操れる感覚がまるでないんだけど、コツとかってあるのかな?」


「そうですね。体の内側の魔力ってサラサラなんですけど、外に出る時はフワっとした綿みたいな感じですよね? それを体の外側にある川みたいな流れに乗せる感覚……というか、」


「うーん……それはRENGEちゃんがハウツー動画の時にも言ってたヤツだよね? やっぱり少しピンとこないかも」


AKIHOさんが腕を組んで悩む。

事前の打ち合わせの通り、それを合図として、


『姉は感覚派なので説明が下手なんです。代わりに私が説明しますね』


ナズナの声が"どろーん"から響く。

これまでの配信の結果から見て、ナズナが間に入った方が説明がよっぽどスムーズだから、という判断だった。

やはりナズナはその期待に違わず、流れるように分かりやすい説明をしてくれる。


『──つまり例えるなら"引力"ですね。自分が惑星にでもなったつもりで、自ら出した魔力を体に引き付けるんです』


「なるほど……体の外に出した魔力を直接操るのではなく、地球が空気を宇宙へと逃がさないみたいに、自身の体の核に魔力が勝手に引き付けられる感覚を意識すればいい……ということですね?」


『AKIHOさんの仰る通りです。そこまでで魔力操作の基礎である"魔力を纏う"ということが可能になります。その上で、空気に流れがあるように魔力にも流れがあります。肌の上に流れる微細な魔力と纏った魔力を作用させ合い動かします』


「それが以前RENGEちゃんが言っていた、体を纏う魔力を加速させて身体強化をする方法なんでしょうかっ?」


『はい。ここまでできれば、魔力操作は完璧です』


「ありがとうございますナズナちゃんっ! おかげで少し魔力操作のとっかかりが掴めた気がしますっ」


『こちらこそ、姉が説明下手でご迷惑をおかけします』


「いいえ。それとRENGEちゃんもありがとうねっ。近くで実践してくれるからこそ、つかめた感覚もあったと思うの」


「あっ、はい。いいえ、私は本当にただ突っ立っていただけですからっ」


「う、うーん? 突っ立っていただけ……ではないのでは?」


〔ブルァッ、ハァハァ……ブルァッ……!〕


ごちーんごちーん!

私はナズナとAKIHOさんがやり取りする隣でずっとオークの振るう棍棒に叩かれ続けていた。

オークの息は荒い。

さすがに疲れたらしい。


「いつまでキング・オークに殴られ続けておくの、RENGEちゃん」


「そうですね、もう要らないですかね?」


私はオークを振り返ると、例のごとく、その心臓を0.0数秒で握り潰す。


「床が汚れないように仰向けに横たえますね」


「……わー、いつ見ても、こんなに間近で見ても何してるのかほとんど分からないや……」


AKIHOさんにまた軽く引かれてしまった気がする。


「あ、そうそう。魔力操作の件でRENGEちゃんに1つ報告があって、」


「はい、なんでしょうっ?」


「実はRENGEちゃんの動画を見ていてね、魔力操作の習得は難しかったんだけど、その代わりに"魔力爆発"はできるようになっているみたいなの」


「えーっ! そうなんですかぁーっ! シラナカッター!」


もちろん、知っていた。

打ち合わせの時に……というか"こらぼ"動画の提案をしてもらった時点で聞いていたし。

でも、動画の盛り上がり? のためにはこういった初めて聞いた"りあくしょん"が大事なんだそうだ。


「次は、魔力爆発について、私がどうしてできるようになったかのキッカケとやり方についてを話していきたいと思いますね」


AKIHOさんがカメラに向けて言う。

これからが本日の"こらぼ"動画の"たいとる"にも入る予定の、"めいん"の下りだ。

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