第41話 RENGEの完全介護生配信その5

ちょうど私がオークたちを一掃したところにオオトカゲがやってくる。

それは本当に見たそのまま、四足歩行の大きな赤いトカゲだ。


>サラマンダーじゃんっ!

>何だよこのボスラッシュは・・・!

>オオトカゲってコイツのことか!

>どっちかっていうと竜種なんじゃ?

>火も吹くしな


「みなさん、あのオオトカゲは厄介です。オークを齧って食べるので、辺りに血や肉片が散乱してしまうんですよね。だから清掃が大変なんです」


>なるほどwww

>厄介の理由が清掃員観点なんよなwww

>そういえばコレお仕事配信だったな・・・w

>あれ、ジビエ料理配信じゃなかったっけ?w

>それは次回にご期待やで


「うーん……みなさんがジビエ料理に関心を持っていただけるのは嬉しいですけど、トカゲは食べたことないですね。おすすめ料理とかあるんでしょうか……?」


>いやwww

>違う違うwww

>サラマンダーを見て言ったわけじゃないからwww

>RENGEなんでも喰いそうだなwww

>この子おもしろすぎるwww


「そうなんですね。それじゃあお料理配信とかも需要があれば……妹と相談してみます。どう思う、ナズナ? 何なら食べたい?」


『……熊もイヤだけどトカゲはもっとイヤっ!』


「じゃあ熊以外かなぁ? 鹿?」


『鹿ならいいけど……ってお姉ちゃんっ! 今はダンジョン清掃の生配信でしょっ!』


「あっ、うんっ! そうだねっ!」


いつの間にか間近に迫っていた火球。

オオトカゲが私目掛けて吐いたものだ。

それを魔力爆発でかき消した。


『お姉ちゃん、大丈夫っ?』


「うん、平気だよ」


『お姉ちゃんが言ってた【オオトカゲ】っていうのはコレっ? サラマンダーっていうらしいけど』


「そうそう。"さらまんだぁ"って言うんだね、覚えた!」


私は瞬時に"さらまんだぁ"に接近、喉を潰す。

"さらまんだぁ"が仰向けにひっくり返った。


『……お姉ちゃん、だから解説忘れてるって』


「あぁっ! また忘れてた……!」


どうしても先に体が動いてしまうんだよね。

なんとかして自制しないとな……


「えっと、"さらまんだぁ"と素手で戦うときの注意点を説明しますね」


>はいwww

>すみませんお願いしますwww

>週末に家族と素手でサラマンダーを倒しに出かけようと思っていたところです。助かります。

>上コメ嘘吐くなwww

>いや配信もコメも現実離れしてて草


「まず素手で戦うときは"さらまんだぁ"の遠距離攻撃の手段を潰すといいと思います。火を吹くので、喉を潰すのが一番いいです」


>ほう

>なるほどw

>まあここまでは真っ当な解説や

>武器でもできそうだしな


「ここまですれば接近戦に持ち込めますねっ! ここからは単純です」


"さらまんだぁ"がゴロンと寝返りを打つように起き上がり、大きな口で私に齧りつこうとしてくる……

ので、


「"さらまんだぁ"は寒いのに弱いので、熱の通り易い体の内側から凍らせてしまいましょう」


ピキッ、と。

私が一瞬触れた"さらまんだぁ"の口の中から、その巨体が一瞬にして凍り付く。


>はっ!?

>凍った・・・?

>え、これどんな魔法よ?


「"さらまんだぁ"の素手での倒し方は以上ですね。何か分からない点があれば、お問い合わせくださいっ!」


>ホラきたwww

>待ってましたwww

>これ素手って言うか!?

>素手とは

>唐突に終わる俺らの常識www

>また魔力操作か・・・?

>真っ当な解説の終わりが早すぎて泣いちゃう

>どーやったらこんなことできるようになるんだよw

>妹ちゃーんっ!助けてくれぇいっ!


『……えぇーっと……これはちょっと詳しく観察しないと分かりませんね。たぶん魔力操作で何かしらの物質を状態変化させて周囲から急速に熱エネルギーを奪ったんだと思いますが……すみません、私にも分かりません』


>いいんやで

>仕方ないんやでwww

>RENGE、ついに妹ちゃんを置き去りに・・・

>姉の威厳を見せつけたんやな、RENGE

>妹ちゃん、咄嗟にそこまで分析できるの賢すぎ

>妹ちゃん不憫や・・・丸一日失踪してた認知症のじいちゃんが隣の県の交番に保護されたときの俺と同じような戸惑い方してる・・・

>上の介護コメ草

>それは申し訳ないけど草

>介護お疲れさん

>隣の県www

>確かにそれは戸惑うわ・・・

>どうやってそこまで行ったのwww

>足腰が健常だとあるある過ぎて怖いヤツw

>なるほど、さてはこの配信、奇天烈キテレツなRENGEの暴走を妹ちゃんが解説する介護配信だったのか?


「あ、すみません……凍らせるのは素手に入りませんでしたかね? だとするとあの場面でできることと言えば素手で殴り続けるくらいですね……」


>コワくて草

>まあそうなるだろうなwww

>RENGE、造作もなくできそう


「さて、それでは引き続き清掃を続けていきますね──」


配信はそれから幾度かのナズナの補足解説、視聴者さんからのツッコミを受けつつも順調に進み、ゆっくりと時間をかけて55階層まで降りることができた。


「さて、そろそろ12時になりますねっ。名残惜しいですが……本日の配信はそろそろ終わりですっ。最後に何か、質問とか、聞いておきたいことがある方はいらっしゃいますか~?」


視聴者さんに質問を投げかけると、"すまーとをっち"がたくさん震える。

みんないろいろと質問を投げる中で、


──ポコンっ


>AKIHO:¥300,000

>RENGEちゃんは【世界大会予選】はどうするの?まだ未エントリーみたいだけど・・・


「あれっ、AKIHOさんだっ!」


先週ぶりだ。

配信を見ててくれたんだ、嬉しいなぁ。

……それで、このコメントはなんだろう?

他と違って大きく目立つ赤色で塗りつぶされているけど。

あと¥300,000……これって?


>AKIHOからのスパチャっ!?

>額がヤバいんよwww

>RENGEガチ勢で草


「す、"すぱちゃ"って……これが"すぱちゃ"っ!?」


知識としては以前AKIHOさんに教えてもらっていたため知っている。

投げ銭と呼ばれる、直接お金を配信者に渡すことができるという……


「えっ、えぇっ!? 30万円ッ!?」


目が回ってしまう。

えっと、このお金はどうなるのっ?

施設にいくらか按分? されて……

でも"すぱちゃ"の場合は確か……


グルグル、グルグル。


『ちょっとお姉ちゃんっ! 目を回してないで質問に答えないとっ』


「……ハッ!」


そうだった。

えっと質問はなんだっけ、


『【世界大会予選】はどうするの?まだ未エントリーみたいだけど・・・』


えーっと……

まずその【世界大会】とはなんなのだろう?

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