第34話 レンゲの方針

今日は月曜日。

私は秋津ダンジョン管理施設の事務室へと出社していた。


……緊張する。


なんというか、改まっての報告となるのが気恥ずかしいような、あるいはソワソワとするような。


「お、おはようございますっ」


「あら、おはようレンゲちゃん」


迎えてくれたのは事務の野原さんだ。


「土曜日の生配信ね、ちょっと見てたわよ」


「あっ、本当ですかっ?」


「ちゃんと立派に喋れてたじゃない。画面映りもよかったし……レンゲちゃんの良いところが良く出ていたと思うわ」


「ありがとうございますっ。野原さんに衣装や防具を選んでいただいたおかげだと思いますっ」


「うんうん。そうよねぇ、やっぱり我ながらセンスあったと思う……しかし下手に露出を狙わなくてよかったわね、レンゲちゃんは清楚系で貫き通せるポテンシャルあるわぁ」


「は、はい……露出系は今後も控えたいと思います」


私がそう言うと、野原さんは意外そうに目を丸くした。


「あら、"今後も"ということは……決断したの?」


「あっ……」


そうだった。

今日はそのことを、まずは施設長に報告しようと思っていたんだった。


「あの、野原さんっ、施設長は……」


「やあ、おはようレンゲちゃん」


ちょうどその時、給湯室から施設長が出てくるところだった。


「今日は大丈夫だったかい? 報道の人とか……」


「はいっ、大丈夫でした。すみません、私のためにいろいろとご尽力を……」


施設長はどうやら私のために、古い知り合いのツテなどを使ったりして、報道陣に敷地内や通勤ルートでの私への直接取材を抑制するように動いてくれたらしいのだ。


「いやいや。当然のことだよ。レンゲちゃんは社会人とはいえまだ未成年なんだから。倫理的な面でも取材の仕方は各社にしっかりと考えてもらわないとね」


施設長は鷹揚に頷いて、それから、


「それでレンゲちゃん、私に何か用だったかな?」


「あっ、はいっ!」


私は通勤でもってきていた鞄を自席に置いて、


「施設長、配信活動についてお話があるのですが……」


「……うん。詳しく聞こうか」


ここではなんだから、と。

施設長に連れられて、私たちは会議室を使うことに。

以前のRTA公式記録会においては実況室としても使われた、20人ほどが入れる部屋だ。

口の字に配置された会議卓の中、私は入り口側に、施設長は奥の窓側席に座った。


「そういえばレンゲちゃん、今朝キミのチャンネルが開設されていたね?」


「あっ、はいっ! ご存じでしたかっ」


そう。

私は昨日の日曜日に妹のナズナに相談しつつ、準備を始めていた。

そして今朝、月曜日午前6:30に新規チャンネルを開設したのだ。


「まずは施設長にそのご報告をしたいと思っていましたっ」


「うん。見たよ。この前の生配信で要望の多かった魔力操作に関するレクチャー動画だったね。とても良くできていたと思うよ。編集はいったい誰が?」


「えっと、妹のナズナが。お友達の家にカメラとパソコンがあって、"動画編集つーる"を借りて作ってくれました」


「ほう……それは優秀な妹さんだね。プロを雇ったのかと思ったくらいだよ」


「え、えへへ……ありがとうございますっ。ナズナは自慢の妹なんです!」


帰ったらナズナに教えてあげよう。

施設長が褒めてくれていたって!

きっと照れながらも喜ぶことだろう。


「……さて、ところで配信活動の話がある、ということだけれども」


「……はいっ」


私はまず、頭を下げる。


「施設長、これまで、本当にいろいろとありがとうございました」


「……」


「施設長が与えてくださったキッカケで、自分を客観的に見つめることができました。それに生配信を経験して多くの人たちと接することも」


「……そうかい。よかった。レンゲちゃんは自分の道を決めることができたんだね。構わないよ、気兼ねなく言ってごらんなさい」


施設長はピンと張った背筋で、私の言葉を待ってくれる。


「施設長、私……」


「……うん」


「ふ──副業してもいいでしょうかっっっ!」


「うん、分かってる。それじゃあ退職の手続きを……って、えっ?」


ポカンと。

施設長は口を開けたまま固まってしまった。

……あれ。

副業自体は申請さえすれば就業規則的には問題なかったハズだけど。

なんでそんなにビックリしてるんだろう?




=======

ここまでお読みいただきありがとうございます。


本作はコンテスト参加中で、

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「おもしろい」

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