50.『ラーンダルクの神殿復活』
レオネの手を引いて走り続けること二十分前後(時計持ってないから分かんないけど、たぶんそれくらい)。
薄暗い通路の前方に光が見えた。
「ぜぇ……ぜぇ……! なあ、レオネ……隠し通路の先は安全なんだよな……!」
「ええ、そのはずです。小さな建物ですが、人避けの結界が張り巡らせてありますので」
「人避けの結界……?」
「中にライオンがいると分かっている家に入り込むような人はいないでしょう? そんな感じです」
はぁ。良く分かんないけど、結界ってすごいなぁ。……ライオン。ドーラ姉さんなら焼いて食べそう。
「ラディストールから連絡がありました。ここを抜け次第、作戦会議をしましょう」
「え? 連絡? あいつ死んだんじゃないの?」
ラディストールが矢で脳天をぶち抜かれたのはまだ記憶に新しい。というか、目の前で殺されたのだ。しばらく夢に出てきそうなほどに死に顔がまぶたにこびりついている。
「簡易復活したのですよ。彼女は私の忠実な騎士ですので、手がかりを残すために」
レオネが耳元の髪をかき上げると、小さなイアリングがあった。ぼんやりと光っている。通信魔石を付きイヤリングだ。
この王女、割と修羅場慣れしている空気がある。ルナニア帝国は皇帝中心の究極独裁政治だったけれど、ラーンダルク王国は色々と違うっぽい。
こんな年で大変だな……。
「てか、そんな簡単に復活できるならもっとルナニア帝国にも勝てるだろ。ゾンビ戦法できるじゃん」
「ルナニア帝国の神殿は『太陽の女神』。対するラーンダルク王国の神殿は『花の神』なのですよ。神殿の周りに花畑があるのですが、そこで生命に満ち溢れる時にしか、その花の数しか復活できません。つまり、季節限定&人数限定なのです」
そんなスイーツみたいな……。
帝国は日が昇った瞬間、神殿の中で帝国領内にいるすべての人が復活できたのに。そんな帝国が全世界に戦争を吹っ掛け回っていると。……やっぱり帝国は滅びるべきなのでは?
皇帝のにやにや顔が浮かんでたので首を振ってかき消す。あんな笑顔に脳内を占領されたら不幸になりそうだ。
「しかし、ルナニア帝国に比べてくそざこな我が国の神殿でも、唯一勝る点があります」
今、自分でくそざことか言っちゃったよ。
そんなに自分の国を卑下するんじゃない。十分すごいよラーンダルク王国。お城の中とかとってもキレイだし、血が飛び散ってないし。悲鳴とか聞こえないし。
「それは簡易復活。神殿ではなくその場で、死んだ直後に短時間ですが復活できる権能です。『花の神』の祝福ですね」
「すごっ!」
「ですが、簡易復活を経た人は制限時間をこえて祝福を手放さないと……身体が朽ち果て、枯れ葉になってしまいます。そうした人は季節が巡り、神殿で蘇っても──」
レオネはそこで言葉を切り、俯いてしまう。
「え、え……? なんだよ……?」
めちゃくちゃに怖い。なんだ? 神殿で復活したら枯れ葉の化け物になってしまうのかか?
一度でも言葉を交わした人がそんな風になるなんて、どんな鬱展開だよ。
……よし、決めたぞ。
「そんなことはさせない! 簡単なことだろ? あのロリコン野郎をぶちのめして、ラディストールを取り返して、国を奪い返せばいい!」
「そのような簡単な話では……」
「心配すんな、わたしに任せとけ!」
そう言って胸を張る。ぺったんこな胸でも精一杯張って見せる。
やがて、レオネは柔らかい顔で笑ってくれた。
「ええ……そうですね。なんだかあなたを見ていると心配しているのが馬鹿らしくなってしまいました。ありがとうございます、プリティエンジェル様」
そうこうしている内に、通路は階段に変わり、階段は登り道に、登り道の先には……はしごがある。
「……うわ、高い」
妹相手に腕相撲で一度も勝てたことのないわたしでも登れるだろうか。ちなみに姉さんは腕相撲で父さんの腕をへし折ったことがある。父さんは強く生きて欲しい。
「とりあえずわたしが先に登るから、後からついてきてよ」
「分かりました。しっかりと見ていますね」
「……?」
そう言うとレオネは体育座りでじーっとこちらを見つめ始めるではないか。わたしの顔になんかついているのか?
腑に落ちないけどはしごに手をかけてゆっくり登り始める。
お、おお? 意外といけるぞ?
体重が軽いおかげかな?
「レオネ〜? そろそろ登ってきてもいいぞ」
「……ペンギン柄」
「え?」
真下からこちらを見上げて呟いている。良く聞こえないけど……。
「うわっ、蜘蛛の巣! ばっちい!」
「ばっちくないですよ、それも神が造った生命の営みとして大切に──……ち、ちょっと! 蜘蛛の巣をこちらに落とさないでください!?」
レオネは慌てて登ってきた。全力疾走の後に、素早いはしご登り。やっぱりこの王女は体力オバケやもしれん。
「生命の、営み!」
「ひいっ! なんか髪の毛がネバネバしてますよ!? 私の頭どうなって……!」
「……ごめん」
「ちょっ、なんかカサカサが──」
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