第1話-② 魔法少女は修学旅行へ行きました。

 他は大体4人部屋だけれど、部屋の数の関係で、私と友子は2人部屋になっていた。


「じゃあ、わたし先に風呂入るね」


 友子が洗面道具を持ち、部屋についている風呂場へと向かった。

 私たちが宿泊するホテルは大きなホテルで、一般客の利用も多い。そのため、各自部屋についている風呂を利用するようにとのことだった。


「はーい」


 私は椅子に座り、テレビを見ながら返事をした。

 すると、扉の閉まった音が聞こえた数分後に、聞き慣れた音が聞こえてきた。


「えっ、嘘でしょ!?」


 私は、その音が聞こえたと同時に動揺していた。

 その理由は様々あるが、この音は修学旅行中、絶対に聞きたくない音だったからだ。


 なぜかというと───


『パルン、パルン』


 動揺している間に、先ほど聞こえてきた音、機械音がまた鳴った。そう、これこそが、私が動揺した音の正体である。

 反応しないわけにもいかないので、私はポケットの中に入れていたパステルピンクのコンパクトを取り出し、パカッと開いた。


「なぜ、一回で応答しないのじゃ!!!!!!」


 コンパクトを開くと同時に、怒鳴り声が降りかかる。


「ごめんなさい、おばあちゃま。ちょっと色々ありまして───」


 私が言い訳をしようとしていたら、その言葉を押しのけるように言葉が飛んできた。


「言い訳など、今はどうでもいいわい!! 緊急事態なのじゃ!!」


 コンパクトの鏡の部分に、おばあちゃまの顔が見えているのだが、今にも飛び出してきそうな勢いだ。


「緊急事態?」


 おばあちゃまが連絡をしてくるときは、いつも緊急事態と言っている気がするので、私は冷静に聞き返した。


「指令じゃ。場所を送るから、そこへ向かうのじゃぞ」


 コンパクトから音が鳴ったということは指令だとわかっていたけれども、私は肩を落とした。

 修学旅行のときくらい、羽を伸ばしたかったのに。


「はい……。わかりました……」


「露骨じゃな……。愚痴は、帰ってきてからゆっくりと聞いてやるから、早く行くのじゃ」


 おばあちゃまはそう言ったけれど、絶対に私の愚痴など聞き流すに決まっている。

 幸い、今は、消灯時間と定められた時間まで、生徒がホテル内でお土産を買ってもいいとされており、比較的自由に過ごせる時間だ。

 そのため、私が部屋から出ても、誤魔化しがきく。

 私は、コンパクトに、おばあちゃまが送ってくれた場所を表示させる。

 空中に大きなマップが現れ、私の現在位置も示されている。


「応援を頼んでおるから、仲良くするんじゃぞ」


 仲良くって、子どもじゃあるまいし。おばあちゃまは、私を一体いくつだと思っているのよ。

 そう思いながらも、私は一応「はーい」と返事をしておく。

 窓から出る方が時間を短縮できていいが、窓が開いたまま私がいなくなっていると、風呂から上がった友子も心配するだろうから、私は普通に部屋のドアから外へ出ることにした。

 私は、ドアを少し開けると、部屋の外に誰もいないことを確認する。

 私のいる部屋は角部屋で、隣が非常階段になっているため、私はそこへ駆け込んだ。

 そして、開いたコンパクトを胸の高さに掲げ、呪文を唱える。


「リーベ、アモーレ!」


 すると、コンパクトから光が溢れ出し、私は、その光に包まれる。

 腰まで伸びた髪はなびき、ふわふわと辺りを漂っている。

 光が薄れる頃には、パステルピンクのフリフリなロリータのような魔法服に、私は身を包んでいた。


「愛の煌めきを纏い、私は輝く!」


 決め台詞のように言ったけれど、何度言っても恥ずかしいな、これ。

 でも、恥ずかしそうに言うとおばあちゃまが怒るから、表情管理も忘れない。


「それじゃ、よろしく頼んだぞ」


 おばあちゃまは、私が変身したのを見届けると、満足そうな表情をしながらそう言って、連絡を切った。

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