魔王城② 〜モーミ・エクスペティットの場合②〜
「人間と魔物、どっちの方が怖いのか分からないね」
「そりゃあ、人間の方が怖いに決まっているじゃないですかぁー」
「あら、スンくんもそう思う?」
「当たり前じゃないですか! こんなにも有能なモーミ様をわざわざ追い出して、国を自分のものにしようとしてるんですよ? 俺たち魔物よりも酷いこと考えますよね、ほんと」
やれやれ、と言わんばかりに両手を上げて首を横に振る。確かに魔物たちを見ていると、実力さえあれば認められる。よく言えば実力社会なのだろうけど、私にとっては分かりやすく親切だ。
それに相手に敬意を払っているのを見ると、性別や身分が違うだけで相手を決めつける人間社会は控えめに言ってクソだ。あらやだ、口が悪くなっちゃった。
要するに、私が追い出されたことにより大変なことや嫌なこともあったけど、それ以上に手に入れたものもあったのだ。何かを失えば何かを手にいれることができるなんて、誰かが言っていた。本当、この世の中は上手くできているのね。
「もうそろそろ見えなくなりますよ」
「え、何が?」
「勇者御一行様ですよ。あ、こっち見てる」
見栄のために作られた私の後ろにある大きな窓ガラスから外を見つめているスンくん。ここから日光が入ってくるのだが、今日は少し天気が悪い。彼らが誰か見えなかったこともあり警戒心を全面に出してしまったのだ。じーっと見つめている彼は興味津々のよう。
もう、会えなくなってしまうのだろうか。
婚約をしたと聞いた時には嬉しかった。健やかに育っていると話を聞いた時も、魔法学校を入学して卒業した時も、心の底から嬉しかった。
嬉しかったと同時に、なぜ自分はそれを見ることができなかったのだと、寂しさが込み上げてきた。寂しくて、悲しくて、何度も願った。
一度だけでいいから、自分の息子に一目会いたいと。
願った結果、こんな形で会うことになってしまったのだ。でも、私には文句を言う資格はない。きっとこれが私の宿命なのだから。宿命とは、運命と運命が重なった結果起こるもの。
だからこそ、今回のこの出会いは私だけが願っているだけではないと思った。きっと、あの子も私と同じように思っていたはずだ。そうでなければ、もう二度と会うこともできなかっただろう。
固定された豪華な椅子から立ち上がり、大きな窓を通して彼らを見た。何かを話しながら歩いている。あ、スィースがこけた。カズーキくんとリヤンくんに笑われている。しかしすぐに手を差し出して手助けをしていた。そのまま歩き出して、豆粒ほどの大きさになった彼らを見てふふっと笑みが溢れた。
「嬉しそうですね」
「そーう? 成長しているのをこの目で見られたからね」
「そんなもんですかね」
「そんなものよ。あの子が何を考えているか分からないけれど、私にとってはずっと息子なの。だから、そんなものなのよ」
ふーん、と興味なさそうな反応をしているスンくん。しかし、視線は見えなくなった三人から逸らさなかった。いや、私が見えていないだけで彼にはまだ見えているのかもしれない。この子の視力は人並み以上だと聞いているし。
興味なさそうな反応をしている割にはちゃーんと見ているのが可愛らしい。家族というものが何なのか、この子は分かっていないのだろう。
「本当、素直じゃないわねぇ」
「え、何がですか?」
「スンくんも、私も、素直じゃないよねって話」
「えーなんですか、それ。僕にも分かりやすく教えてくださいよぉー」
「また今度ね、今度。ほら、今日の予定がまだあるのでしょ? 早く終わらせなさいよ」
「あ、忘れてた! ちょっと行ってきます!」
バタバタと走って行った彼。慌ただしさを見ると、まだまだ若いのだろう。魔物の年齢なんて知らないので若いかどうかも分からないのだけれど。再度静まり返った室内。
ほぼ一人ぼっちになったこの空間にほんの少しだけ寂しさを感じる。人が多すぎるのもダメだけれど、誰もいないのも考えようね。いつか慣れるだろうけど、いつになることやら。
「本当に、バカだねぇ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます