第16話 朝の一幕
「…おはよう」
「お…えっ!? なっ、なななんで、一緒、え!?」
⇄⇄⇄
「あら…おはよう、珠音くん」
「おはよう、愛子さん」
「お、おはようございます、愛子さん…」
巴と共に台所へ向かうと、既にエプロンをつけた愛子さんが立っていた。
「朝食も愛子さんが作っているんですか?」
「ええ、料理が好きでね。…あら、もしかして、プロの味が良かったかしら?」
「そ、そういうわけじゃないです」
「ふふっ、冗談よ。もう少しかかるから待っていてくれるかしら?」
「何か手伝うことありませんか?」
「あら、そうねぇ…ほとんど終わっているから、お皿によそってくれるかしら? お皿はあそこの棚に並べてあるから」
「わかりました」
卵焼き、鮭、味噌汁など、ザ・日本の朝食といったものが作られている。
明日からはもう少し早く起きた方が良さそうだ。
「そういえば、珠音くんは納豆、食べられるかしら? アレルギーとかはないって聞いているけれど」
「はい、食べれます」
「そう、よかったわ。喜子は食べるんだけれど、優子は食べないのよね。」
「苦手な人もいるっていいますよね」
確かに改めて意識すると、独特なにおいもするし、他のものだったら食べないかもしれない。やはり、慣れなのだろうか?
巴も納豆は大丈夫らしく、ここ数日は食べているようだった。
「…どうかしら? 緊張してる?」
「そうですね、学校は久…いえ、初めてなので」
「でも、大丈夫よ。だって、私達とも普通に会話できてるもの。ねぇ、巴さん」
「そ、そうですよ! わ、私なんかより全然、えへへ…
「…ありがとうございます」
この世界の男の子は、小学校などにもいっていない。そんな状況で急にたくさんの他人がいる場所へ放り込まれたら、凄く緊張するし、怖いと思う。
本当なら、他の人とはあまり話せないのが普通なのかもしれないが、そんな演技はできないので、自然体でいようと思う。
流石に中学生の頃の自分よりは落ち着きすぎてしまっているかもしれないが、友人の小田原くんも、出会った中学生の時は、物凄く落ち着いていた人だったし、そういう個性として違和感はないだろう。
「あ、そうそう。珠音くんには、全校生徒の前で挨拶をお願いしたいのよ」
「そうなんですね…はい!?」
聞き流しそうになってしまった。
え、挨拶? しかも全校生徒の前?
「そ、それは…早めに言って欲しかったです」
「昨日言うつもりだったのだけれど、ごめんなさい。緊張してて言い忘れちゃったわ」
あはは、と笑う愛子さん。
言い忘れ…?
「まあでも、そうね…『初めまして、多々里珠音です。これからよろしくお願いします』で、100点満点よ」
「まあ…それくらいなら」
大勢の前に立ったことはないし、緊張はするだろうが、挨拶や自己紹介は働いている時も必要不可欠だったし、なんとかなりそうだ。
「今、練習してみる?」
「…そう、ですね」
想像してみる。
目の前、壇上の下には沢山の生徒。
そして、その上に立ち、挨拶。
「初めまして…なんかちょっと恥ずかしいかもしれません」
「そう、かしら?」
「そ、そうですよ! お、大勢の人に向かって話すなんて、た、大変です!」
「ふぅ…初めまして、多々里珠音です。これからよろしくお願いします」
「ええ、それで完璧よ!」
…落ち着いて言えるだろうか?
なんだか噛みそうな気がするため、イメージトレーニングを続けることにした。
しばらくして、優子も起きてくる。既に制服を身につけており、登校の準備はできているようだ。
「おはよう、優子」
「…おはよう、珠音。…早起きなんだ」
「いや、本当は朝ごはん作るのを手伝おうと思ったんだけど…遅かったみたい」
「そう」
優子は、慣れた様子で、料理が盛られたお皿を運んでいく。そして、次はパタパタと足音が聞こえてきた。
「お兄ちゃんもういな…いた!」
「おはよう、喜子ちゃん」
「お兄ちゃん、おはよ! はやいんだね!」
詳しく聞けば、部屋まで起こしに行ってくれたらしい。
「えへへ、どう? 似合ってる?」
「うん、とっても」
喜子ちゃんの小学校は制服があるらしい。
俺の時は私服だった気がする。
「お兄ちゃんは…ズボンの方?」
「う、うん。スカートは慣れないからね…」
聖山学園の制服はスカートとズボンの2種類。
もちろん、男性用はない。
しかし、この数日で男性用制服を一から作ることはできないため、ズボンの方を履いていた。
「お姉ちゃんはスカートだよ?」
「そうだね」
どちらも制服ではあるので、どっちか一方を着続けなければいけない、というわけではないらしいが、優子はスカートの方を選んだらしい。
「さて、喜子も起きてきたし、ご飯にしましょうか」
⇆⇆⇆
「さて、準備はいいかしら?」
玄関で、愛子さんが確認してくる。
忘れ物は巴と一緒に確認したし大丈夫なはずだ。
「喜子と優子は先に車に乗っていてね」
「はーい!」
愛子さんが優子に鍵を渡すと、喜子ちゃんと優子は、玄関から出ていく。
「珠音くんは…これをつけないとね」
そう言って差し出されたのは、『腕時計』と『ネックレス』だった。
「これって…?」
「発信機よ?」
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