2.女教皇

 静寂を旨とする書の邸において、例外的に音が溢れる場所がある。それは最初の大扉を潜った先、エントランスだ。この場所で利用者は名と目的を告げ、入館に際し不要なものを書使に預ける形となる。故に、騒がしく、騒々しく書への憧憬と不安が満ちている。

 そんなエントランスの一角、書架へと続く『この扉を潜るもの全ての雑音を捨てよ

 』なる落書きの書かれた小扉の手前に誂えられた席に彼女はいる。

 にこやかに微笑む彼女の役割は来館者が閲覧を希望する書への案内だ。

 書の館にはありとあらゆる書が納められていると言われ、それはほぼ事実だ。酒場に流れた即興詩から最新の演劇台本、果ては古い口伝までが集められている。それが全て無秩序にまるで地層を成すが如く館に納められていた。その全ての内容、収容場所を彼女は記憶しているのだと言う。

 それら全てを肯定するかのように、彼女に書の在りかを問えば、驚く程滑らかに滞ることなく答えてくれる。

 本を開くような動きに続く、頁に指を走らせるその姿は人々を導く指導者の如く、書の在りかを告げる姿は世の真実を告げる白の漂泊者の如く。

 書を巡る全てを掌より皆へと振り分ける。

 けれど、微笑むその姿はただ書を愛する一人の女性でもあるのだ。

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