ヒロインは幽霊

いちはじめ

第1話 プロローグ

 灯りの消えた浴室に、一人の少女が湯船の中で、目を閉じたまま横たわっている。


 ――あれ? 私、ちょっと気を失ってた? 何してたんだっけ。


 そうそう、半身浴しながら台本読んで台詞の練習してたのよね。なかなか台詞の呪文がそれらしく言えなくて。ま、本物の呪文じゃないんだから、言い間違えても問題ないんだけど、台詞は台詞だし、手を抜いてるって思われるのも癪だから。

 それにしてもこのタイトル『仮面の魔法少女――レミナ――の大冒険』って、何のひねりもないじゃない。話はライトノベル風で悪くはないんだけど、何とかならないのかな。


 その赤い台本は、こぼれたコーラの溜りに浸かり、既に一部が茶色に染まりふやけている。


 そうだ、コーラを倒しそうになって、慌てて手を伸ばしたら、ドライヤーを湯船に落として、それからどうなったんだっけ。


 彼女は、浴室で半身浴をしながら、台詞の稽古をしていたのだった。片手に台本、もう片方の手にドライヤーを持ち、台詞の練習をしながら洗いあがりの髪を乾かしていた。その時ドライヤーを持つ手の肘が蓋にあたり、蓋の上に置いていたコーラのペットボトルが倒れそうになった。彼女は慌ててそれを止めようとして、両手を伸ばしたのだが、手から滑り落ちたドライヤーが、運悪く電源が入ったまま浴槽に落ちてしまった。


 あれ、なんか体が変、私が見下ろしているのは……。

 ――ちょっとママ、来て~。

 彼女はあわてて母親を呼ぼうとしたが、その声は母親には届かなかった。


 遠くから救急車のサイレンが近づいていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る