小説なんて時間の無駄だ ※「忙者のための物語100」を改題

されどなお

小説なんて時間の無駄だ ※「忙者のための物語100」を改題

【01】『小説が好きだ嫌いだ』

〈1〉私は「小説が読めない」と思っている。

〈2〉私は小説が嫌いではないし、ゆっくりと読みたい。

〈3〉小説のネタバレを読むことで、その内容を想像して、読んだことにした。

〈4〉「三行で教えて」

〈5〉慶野和也 『第1回知恵樹文学賞』


【02】『つぎはぎの君を求めて』

〈1〉幼い頃に見た女神を再現しようと、絵を描いたり写真を加工したりする。

〈2〉インターネット上で仲間を集め、女神を再現する計画を立ち上げる。

〈3〉逮捕される。

〈4〉「心のなかで裸を描く。裸を切り取り君をつくる」

〈5〉無題匿名 『第六回むつらぼし文学賞』


【03】『酸素嫌悪』

〈1〉依存症を見るとイライラする。「自己責任」や「努力不足」などの言葉が頭に浮かぶ。

〈2〉周りの人間に話す。いつの間にか友達はいなくなった。

〈3〉自身が「依存症依存症」だと気づき、人間関係を取り戻すべく友達のもとへ向かった。

〈4〉「異常だよね、なにかにすがって生きていくなんて」

〈5〉蔵玲子 『第1回ノベル・オブ・ザ・イヤー』


【04】『無貌の英雄たち』

〈1〉友人は会話の中で一人称をやたら変える癖がある。

〈2〉本人は無意識に変えているらしい。観察していると、ある法則性を発見する。

〈3〉友人は多重人格者だった。どの人格も「友人」を演じていた。

〈4〉「私は僕だよ」

〈5〉吉田可不可 『第8回遊管新人賞』


【05】『賢いサボり方 実践編』

〈1〉仕事をサボる同僚がいる。彼いわく「八割は刃を研ぐ時間」だという。

〈2〉締め切りが近づく。同僚は動かない。

〈3〉締切が過ぎた後、同僚の分まで仕事をすることになった。同僚は動かない。

〈4〉「そして残りは有給さ」

〈5〉立浪有紀 『「バーチャルワールド」フォロワー 1杼人突破』


【06】『分解トマト組み立てトマト』

〈1〉家族仲が悪いため一緒に食事をせず、それぞれ自分の部屋や場所で食事をすることが日常の家庭。

〈2〉災害により離れ離れになる。

〈3〉三ヶ月後、壊れた家に家族が集まり家族全員で食事をする。

〈4〉「何もないけど、たしかにあるなあ」

〈5〉西橋千香子 『第3回祖丹文学賞』


【07】『アリマサは誰だ』

〈1〉他人の畑から作物を盗み食べてしまう。後日犯行がバレる。

〈2〉軽い刑罰で済むはずだったが、多様な団体の呼びかけにより「作物は人間である」と認められる。

〈3〉殺人事件として扱われ、八年の懲役となった。

〈4〉「植物からの伝言ってご存知ですか? 論文もあるんですよ」

〈5〉斎藤紗禄 『第3回本者賞』


【08】『100さいにはじめての』

〈1〉友人に誕生日プレゼント。誰とも被らない物を送りたい。

〈2〉過去に自分がもらって嬉しかった物をリストアップする。様々な物が思い浮かぶ。

〈3〉誕生日当日まで悩み、結局そのリストを書いた何枚もの紙をプレゼントする。

〈4〉「一覧の一覧の一覧の……一覧だよ」

〈5〉菅村真沙美 『第9回偶語縷文学賞』


【09】『フルフェイスとディスタンス』

〈1〉顔を見せたくない黄瀬と、他人と距離を置きたい間合が出会う。

〈2〉互いに親近感を覚え、友達になる。苦手を克服しようと、二人で様々なことに挑戦する。

〈3〉二人で宇宙旅行をする。

〈4〉「ものすごく遠いのに、ありえないほど近い」

〈5〉十字命輪 『第8回奈土里文学賞』


【10】『デウス・エクス・ナトゥラ』

〈1〉機械に繋がれて500年以上生きている「長老」がいる。

〈2〉会話もままならず、食事も一人ではできない。指をわずかに動かせる程度。遠い血縁の安楽死を求める声もある。

〈3〉大規模な災害により、長老は亡くなった。

〈4〉「なぜ長老が生かされているのか、私にはわからない」

〈5〉シーラ・フォン・キンスキー 『第8回微柔文学賞』


【11】『同人同人誌』

〈1〉狂気的な物語が読みたいと思う。知り合いの司書に本を探してもらう。

〈2〉司書から本を受け取る。内容は変哲も無く、主人公が日常生活を送っているだけだった。

〈3〉物語の主人公が、自分のことだと気づく。

〈4〉「以上はすべて、私の拙い創作です。少しでも気に入っていただけたのならば、こんな嬉しいことはないのですが。」

〈5〉前納恵 『第7回孤歌凍良社文学賞』


【12】『最後の花火』

〈1〉夜中に花火が打ち上がる。

〈2〉後日、花火の理由を周りに聞くが、誰もわからない。

〈3〉侵略者による、地域全体の侵略完了を祝した花火だった。

〈4〉「来年も見れるかな」

〈5〉石川存非 『全地球人小説総選挙第一位』


【13】『メイクアヒューマン:アウトオブユー』

〈1〉アンドロイドの開発に没頭したい。しかし新しい技術への偏見により迫害されてしまう。

〈2〉信頼を得るために、偏見を正そうと周囲に働きかける。

〈3〉周囲からの認識は変わらず、山奥に研究所を建て、誰にも気づかれずに、人間社会にアンドロイドを送り込むようになった。

〈4〉「人間っていうのは、人の役に立とうとするほど、役に立たされるんだな」

〈5〉松本オーウェル 『第9回人天道賞』


【14】『僕は誰を愛せるか』

〈1〉過去の過ちを償うために、全財産をなげうって人々を援助する。

〈2〉その活動が認められ、以前よりも生活が豊かになる。さらに援助を行う。

〈3〉凶弾に倒れる。死後、多くの人々から慕われ、語り継がれることになる。

〈4〉「……この雪が、すべてを隠してくれる」「……この雪を、すべて踏み越えなければならない」

〈5〉オリーブ・オブ・オークス 『第8回有馬羽社文学賞』


【15】『空の青さを知る』

〈1〉薬物中毒の仲間たちと不和が生じ、峡谷に突き落とされる。

〈2〉奇跡的に生きていた。峡谷から出る方法を命がけで探す。薬物の禁断症状も出る。

〈3〉無事に脱出する。平穏に暮らす。

〈4〉「痛み止めって……こういうときに使うんだろうな……」

〈5〉塗香 『第9回東把手右社文学賞』


【16】『愛密輸』

〈1〉税関で止められる。一緒に来ていた仕事仲間とともに別室へ。

〈2〉二人とも荷物に異常は無かった。検査官との話も弾んだ。しかし仕事仲間は入国できなかった。

〈3〉仕事仲間は無意識に『ある思想』を持ち込もうとしていた。

〈4〉「それにしても単語連想なんて、古典的ですねえ。『無知は力』なんて、誰もが言うと思いますよ」

〈5〉能田剛裕 『第4回佐と藤社新人賞』


【17】『このコンクリート、コンクリート』

〈1〉名言や格言が好きで収集する。

〈2〉長い年月をかけて分析し「最高の名言」をつくる。しかし、誰の心にも響かなかった。

〈3〉「何を言うか」より、「誰が言うか」の方が重要だったと気づく。

〈4〉「みんなが言うから、本当だよ」

〈5〉ホアン・エナメド 『第8回グッドタイポグラフィ賞』


【18】『マナーが人をつくるとき』

〈1〉マナーや常識に嫌気が差す。そこでAIを使ってマナーをつくり、仲間内で共有した。

〈2〉仲間がその嘘マナーを他人に言いふらし、いつの間にか世間にも嘘マナーが広まってしまった。

〈3〉100年後「靴紐の先端は、靴の中にしまう」「握手の代わりに、肘同士を合わせる」などの嘘マナーが一般的なマナーへと定着する。

〈4〉「当時流行ったウイルスの影響で、このようなマナーが根付いていったと考えられます」

〈5〉不二巫 『第4回密林河文学賞』


【19】『正感』

〈1〉紙で指の腹を切ってしまった。一時間後には元に戻っていた。

〈2〉気になって触っているとまた傷口が開いた。一時間後には元に戻っていた。この繰り返し。

〈3〉どうしても傷口が気になり、毎日のように紙で指の腹を切るようになった。

〈4〉「自分が正常かどうか確かめたかった」

〈5〉六道恵美 『第8回衝撃の結末賞』


【20】『水槽の夢』

〈1〉軽いケガで病院へ。医師が違和感を覚えて精密検査へ。

〈2〉医師から「心臓が動いていない」と伝えられる。息が苦しくなり倒れる。

〈3〉すぐに蘇生される。医師から「健康状態に異常は無い」と言われ、安心して帰る。

〈4〉「あなたはもう……死んでいる?」

〈5〉謝甜甜 『第2回亜道日賞』


【21】『眠れる龍の夢』

〈1〉ドラゴンの化石を研究する主人公。今までの学説を覆す発見をするも、このまま発表しても、世間に受け入れられないと考える。

〈2〉自身の発見を裏付ける証拠を地道に集める。

〈3〉十年後、研究成果を発表し無事に受け入れられる。ドラゴンや生命の起源までの謎を紐解けるようになった。

〈4〉「あと五つで願いが叶う」

〈5〉八乙女正義 『210年間冷凍睡眠状態にされていた』


【22】『101の釣り人』

〈1〉仲間と船で釣りへ。偶然にも海の死神にかかる。海の死神は漁師を海に引きずり込もうとする。

〈2〉海の死神は仲間を次々と海に引きずり込む。最後の一人になるも、海の死神にあえて釣られることで、海の死神に体当たりをする。

〈3〉海の死神を撃退し、無事に港に帰ることができた。

〈4〉「釣り人が釣られてしまうぞ!」

〈5〉ハリー・ウージー・ワシントン 『野減誌が選ぶ「今世紀最大の小説」』


【23】『タロット・タワー崩壊の謎』

〈1〉建物の建築期間を過剰に延ばし、工事費用を不当に増やす事件が多発する。

〈2〉家を建てようとする。不正を危惧し、見積もられた建築期間より、大幅に短い期間で建築するよう命令する。

〈3〉頼んだ期間で家が建つ。その後起きた災害により家は崩れた。

〈4〉「一夜城ってものがあるんだろ? 何とかするのが君らの仕事だろ」

〈5〉四元帝 『第5回内輝社文学賞』


【24】『異世界に転生したら「異世界」だった件』

〈1〉「異世界」に転生した主人公。好きに世界を操ることができる。

〈2〉様々な転生・転移者が自分の異世界に来る。異世界の秩序を守るために、人々の行動の影響を管理する。

〈3〉自分が元々いた現実世界と出会い、新しい世界をつくる。

〈4〉「まかせろ。シミュレーションゲームは得意だ。まかせろ」

〈5〉十六夜恋夏 『第8回全国青少年ワードバトルロワイヤル生存者』


【25】『惚れ薬を飲まされて』

〈1〉恋愛のためのコミュニケーション方法や身だしなみを研究する。

〈2〉馬鹿にされるも、研究を続ける。

〈3〉研究が実る。馬鹿にしてきた人たちからの相談を快く受ける。

〈4〉「結局、顔と金とコミュ力でしょ?」

〈5〉李雪 『第6回顔籍社文学賞』


【26】『君なら石版に何を書く?』

〈1〉要望により、義務教育に様々なものが詰め込まれるようになった。

〈2〉税金の支払い方法、車の運転方法、ヒヨコのオスとメスの見分け方など。息子は私より様々な物事に詳しい。

〈3〉息子が大人になった時、息子はそれらのほとんどを忘れた。孫のほうが様々なものに詳しい。

〈4〉「これ義務教育で教えて欲しい」

〈5〉伊藤愛飲酒 『第8回斉藤ト斎藤社文学賞』


【27】『トワイライト・リング』

〈1〉「一年に十二回聴いてはならない」という呪いの音楽の噂を知る。寝ている友人に、呪いの音楽を何回も聴かせる。

〈2〉眠りから覚めなくなる。呪いの解除方法を探す。

〈3〉呪いの音楽を逆再生したものを聴かせると、眠りから覚める。呪いの音楽を活用した商売を始める。

〈4〉「これって著作権切れてるのかな」

〈5〉妻夫木耕太郎 『第3回焚書クラブ大賞』


【28】『汚れちまった人生に』

〈1〉カミカキンヒバゴンソン(死をもって死を制する)治療は、一時的に身体を仮死状態にし、体内の毒素を全て抜く治療法。

〈2〉確立された治療法ではなく、成功しても大して効果は無く、失敗すれば死亡する。

〈3〉暗に安楽死の方法として広まっていたのだった。

〈4〉「走馬灯は人生をより豊かにします」

〈5〉根井祥一 『第4回連出糸新人賞』


【29】『月曜嫌いの詩』

〈1〉ウェブサイトで漫画を公開する主人公。しかし漫画は誰にも読まれない。他人の作品をコピーしてしまう。

〈2〉SNS上でコピーを指摘されるが、漫画の閲覧数も増える。怖くなった主人公は、コピーして描いた漫画を非公開にする。

〈3〉オリジナルの漫画を公開するも、誰にも読まれない。漫画を描くことをやめる。

〈4〉「見られるために描いているんじゃない。だけど見られないなら、なんで描くんだろう」

〈5〉池田狼 『第3回全人類高知能者ランキングトップが選ぶ本』


【30】『超青春歌』

〈1〉一人暮らしの友人がつぶやいた「ハイパーパスタ」という料理に興味が湧く。

〈2〉友人に調理法や味を詳しく聞こうとするが、はぐらかされる。

〈3〉「ハイパーパスタ」とは、茹でる前のパスタを一本ずつ時間をかけて食べることだった。

〈4〉「今日は……。『ハイパーパスタ』かな……」

〈5〉小郷駿 『第6回日本盛願社文学賞』


【31】『ニードニードニード』

〈1〉孤独な日常生活を、オンラインゲームで紛らわせる。自身の差別的な発言から、ゲーム内でのフレンドと仲違いしてしまう。

〈2〉フレンドと仲直りするべく、ゲーム内でレアアイテムを送ったり、現金を渡そうとしたりする。

〈3〉フレンドとの連絡がとれなくなり、ゲーム内でも居場所を失ってしまう。

〈4〉「欲しがれ」

〈5〉宰相三千代 『第5回麦酒板社インストゥルメンタル文学賞』


【32】『都会のアリと田舎のキリギリス』

〈1〉キリギリスは地元で遊んで暮らしていた。アリは都会に出ようと必死に勉強していた。二人は成長し、キリギリスは地元で生活し、アリは都会に出ていった。

〈2〉アリは都会の生活に疲弊し、何か得られたと思えないままに地元に帰った。キリギリスは孫がいて、大きな家もある。

〈3〉アリはキリギリスの子や孫を襲う。間一髪キリギリスが子や孫たちをかばい、命尽きる。アリは改心し、罪を償うためにキリギリスの子や孫と関わり続けた。

〈4〉「お前が言う自己責任って……努力不足って意味なんだよな?」

〈5〉千秋貴恵 『第6回柔長机社文学賞』


【33】『海の結び目』

〈1〉顔の整形をする。離遺伝届を書く。これにより自身の遺伝子情報を組み替えることが許可され、組み替える前の自分とは別人として扱われることになる。

〈2〉別人として生きる。遺伝から離れる前にできた友人と出会う。

〈3〉友人はすぐに誰かを見抜いた。一夜語り合った後、別人として別れた。

〈4〉「その独特な動きは、我が友の……」

〈5〉佐藤仇無 『第3回現代古典賞』


【34】『バイ・オー・セブン』

〈1〉仕事仲間が、自然由来の成分でできたパソコンを使っている。

〈2〉どうやら従来品よりも、健康にいいとか、病気やがんの予防になるとか。

〈3〉本当の使用理由は「いざとなったときに、簡単に壊せてデータを消せるから」だった。仕事仲間はスパイだった。

〈4〉「あっ、それ自爆ボタンだから触らないで」

〈5〉ドミニク・フォン・マストホフ 『第8回新茶社新人賞』


【35】『ラブアンドピース』

〈1〉トマトの収穫体験での、肥料の話に衝撃を受ける。

〈2〉それからトマトは嫌いになり、トマトを見るたびにその話を思い出す。

〈3〉飲尿健康法を知り、自分の尿を飲むことで、トマト嫌いを克服した。

〈4〉「みんなのおしっこが栄養になっているんだよ」

〈5〉ケーシー・プレイザー・フォード 『第1回東方園文学賞』


【36】『ありがたさはどこに?』

〈1〉「サタガリア教」は全国各地に参拝箇所があり、全てを巡るのは常人には困難だった。

〈2〉著名な伝道師が「どこか一箇所を参拝すれば、全ての箇所で参拝したことになる」と宣言した。

〈3〉教徒たちは身近な参拝箇所だけを参拝するようになり、教徒の数も増えた。

〈4〉「多種多様なありがたさをココ一つに」

〈5〉平間純子 『特定文学特別賞特別賞』


【37】『祭壇の周りで』

〈1〉同窓会で誰一人名前を出さない人物がいる。「その人」について気になり、同窓会後に調べてみる。

〈2〉「その人」はいじめの主犯格でもあり、被害者でもあること。「その人」は校内であった放火事件や盗難事件の犯人だということを知る。

〈3〉「その人」本人に話を聞くと、不登校で、ほとんど学校に行っていないという。「その人」の名前だけが、都合のいいように使われていた。

〈4〉「石を投げていいやつはな、石を投げるようなやつじゃあないぞ」

〈5〉下ノ村一哉 『第7回火土川文学賞』


【38】『クイズ! 問題は1問だけ!』

〈1〉問題が1問だけの180分の人気クイズ番組。番組冒頭でトークとコマーシャルと解答者の経歴や賞金の使い道が流れ、放送開始30分後に問題が出題される。

〈2〉問題が出題されたことに対して、出演者や観客のリアクションが映し出される。コマーシャルと解答者の家族の経歴と賞金の使い道と次回予告で、60分流れる。解答者が解答を出すまでに、出演者のトークや観客のリアクションやコマーシャルが30分流れる。正解か不正解か発表される間に、リアクション、コマーシャル、経歴、これまでのおさらいが59分流れる。

〈3〉解答は正解だった。解答者の喜ぶ姿が20秒、コマーシャルが40秒放送された。

〈4〉「ここで解答者の半生を振り返ってみましょう」

〈5〉廻良太 『第7回問堂セレクション金賞』


【39】『ヒーローのヒーロー』

〈1〉ヒーローの影のヒーロー。その名は広郁。

〈2〉事件や事故のとき広郁が現れ、その場の誰かが英雄になるように手助けする。

〈3〉広郁は胸を撃たれ瀕死になるが、今まで助けたヒーローに助けてもらい、活動を続ける。

〈4〉「ヒーローは、ヒーローがいないとき、現れる」

〈5〉兜森龍太郎 『第2回夜月新人文学賞』


【40】『ノベル2・0』

〈1〉新しい製品のためのアイデアを募集する。

〈2〉様々なアイデアが出るが、費用や規制で実現ができそうにないものが多い。

〈3〉製品の名前の後ろに「2・0」と付け加え、売上が伸びた。

〈4〉「前のバージョンについての情報は開示できません」

〈5〉浦谷大輔 『無料小説サイト「小説村」製作者』


【41】『ダーキング』

〈1〉夫のコレクションしているエアガンを無断で捨ててしまう。夫は一日寝込んだが、すぐにいつもの調子を取り戻した。

〈2〉夫は妻に見つからないように、インターネット上に銃をコレクションするようになった。3Dモデルやプリンターで自作するようになる。

〈3〉「妻にまたコレクションを捨てられるのではないか」と恐れ、自作した銃で妻を殺してしまう。

〈4〉「もういいんだ。僕も捨てるきっかけが欲しかったんだ」

〈5〉清水渡流金 『第3回誠理省新語法文学賞』


【42】『特異点42』

〈1〉飛行機事故により無人島に漂着する42人の男女。

〈2〉28日後。島の遺跡から金色のレコードを発見する。その内容を解読したルボイジャがすべてを理解する。

〈3〉「42が真犯人だ」。42ページは鏡になっており、読者が真犯人だった。

〈4〉「墜落、謎の生物、真犯人、あと宇宙。究極の疑問の答えが、私にはすべて、わかりました……。もう夜が更けているので明日話しますがね……」

〈5〉阿部世愚=外統 『第0回地球から来た宇宙人賞』


【43】『証拠の不在は不在の証拠にならない』

〈1〉とある党が支配する管理社会の形だけの裁判で、いつも極刑を求める裁判員。

〈2〉ある日、彼自身が裁判にかけられてしまう。思い当たる節は、党の構成員に極刑を求めたことだった。

〈3〉彼の行方は誰にもわからない。

〈4〉「極刑確定な」

〈5〉山口新沌 『第9回二本電心電輪文学賞』


【44】『不公正世界仮説』

〈1〉強盗の成果の取り分を話す二人。一人が話術で、取り分のほぼすべてを自分のものにしようとする。

〈2〉しかしもう一人は、話が理解できず納得しない。さらに馬鹿にされていると感じ、口論になる。

〈3〉二人が口論している間に、それを見ていた別の盗人が二人の強盗の成果を盗んでいった。

〈4〉「えっ、四分の一と三分の一って四分の一が大きいんだよな?」

〈5〉エルサ・ガソル 『第1回偶語縷新人賞』


【45】『きさらぎの喜劇』

〈1〉仲春駅からゴミ箱が撤去された。

〈2〉駅のあちこちにゴミが捨てられるようになる。嫌気が差した一人の駅員が駅の敷地外にゴミを投げまくる。

〈3〉それを見た者が、ゴミを駅に投げ返す。これが「仲春ゴミ投げ祭り」の始まり。

〈4〉「ポイ捨てされたくなかったらゴミ箱置けばいいじゃん」

〈5〉田中出狩徒 『第7回常軌社最多絶賛賞』


【46】『抵抗者「拳」』

〈1〉学校で殴られるいじめられっ子。「殴られる方に問題がある」と言われる。

〈2〉いじめっ子を殴り返し、反撃に出る。さらに傍観していた周りのみんなを無差別に殴りまくる。恨みがあった教師や大人も殴りまくる。

〈3〉いじめられっ子は捕らえられる。情状酌量が認められ、学校に復帰する。もういじめられることは無くなった。

〈4〉「俺は問題児ダアアア!!!オマエも問題児にしてやるウゥ!!!」

〈5〉李宇光 『第9回第二周波数文学賞』


【47】『超効率的な生き方』

〈1〉在宅勤務により、勤務時間が自由になった。

〈2〉ある男は能率が悪く長時間仕事をし、ある男は短時間で仕事を済ました。ある日大きなトラブルが起こる。

〈3〉トラブルは解決できなかった。責任をとったのは、短時間で仕事を済ました男だった。

〈4〉「仕事したことにしよう。今日は休みだったんだ」

〈5〉智自由 『第8回問堂セレクション十年連続金賞』


【48】『テーマパーク現実』

〈1〉時空が歪み、異世界に行けるようになった。限られた人物が異世界に向かう。

〈2〉異世界の開拓が進む。異世界を行き来できる人も増え、元の人口の六割が異世界に住み始める。

〈3〉主人公は仕事の休憩中、異世界の安い店や有名人を紹介する「異世界通信」を眺める。そして、異世界から帰ってきた人のために、元の世界を維持する仕事を再開する。

〈4〉異世界通信「最初っからコロンブス!」

〈5〉雷新 『小説投稿サイト「ショドク」三十年連続毎日投稿』


【49】『へぼ将棋』

〈1〉所属する将棋部に、高身長で運動神経抜群な後輩が入部しようとしてくる。主人公は運動系の部活を勧める。

〈2〉後輩は地元野球チームのエースだったが、チームメンバーと仲が悪く、野球をやめてしまった。

〈3〉後輩と将棋を指す。後輩は負けるが対局後の幸せそうな笑顔に、後輩を部に迎え入れた。

〈4〉「『僕に』向いているものが、『僕の方を』向いていないんです……」

〈5〉三野琳 『第5回七緒木四十九賞』


【50】『何色で描く』

〈1〉柔和な同僚が落としたメモ帳。他人や社会に対する罵詈雑言で埋め尽くされていた。

〈2〉同僚にメモ帳を渡す。読んだことを正直に話す。

〈3〉同僚はいつもどおり和やかに返事をした。同僚はメモ帳を開き、何か書いた。

〈4〉【警告】私は紙の上で自由だ。

〈5〉井木智子 『第7回知恵樹文学新人賞』


【51】『タイプライター風ミニスカート』

〈1〉部屋の掃除の途中で、漫画『タイプライター風ミニスカート』を読み始めてしまう。12巻から先が見つからない。

〈2〉インターネットで13巻を探してみるが、『タイミニ』の13巻は存在しない。作者が完結前に亡くなっていたことを知る。

〈3〉部屋の掃除を思い出し、『タイミニ』以外の完結した漫画は処分することに決めた。

〈4〉「結局『タイミニ』ってなんだったんだろうな……」

〈5〉山田羅漢 『第6回なぜすごいのかミステリー大賞』


【52】『「すべての本質を見破る」科学的に結論が出たたったひとつの評価方法』

〈1〉芸術作品を評価する会社を立ち上げる。心拍数と脳波を測る機器を使って評価する。

〈2〉信頼できる評価方法として広まる。作品以外にも広告や食料品、人物も評価できるようになる。

〈3〉良い評価を得るために社会全体が過激になっていく。科学的に評価方法に問題があるとわかった後も、根強く使われた。

〈4〉「R波が伸びた。嘘ついちゃダメだよ」

〈5〉無美 『第2回韻星倉夢賞』


【53】『「聖なる力」とは? 調べてみました!!』

〈1〉「聖なる力」を発揮するには多種多様な方法があり、その数は毎年増え続けていた。どれも過程は違えど最終的には同じ「聖なる力」を生み出すのだった。

〈2〉それらの方法を一つにまとめようと、長年にわたり学び続ける。

〈3〉ついに「聖なる力」を発揮する方法を、一つにまとめることができた。しかしそれを発表する前に、方法を一つにまとめられたくない人達の「聖なる力」によって殺される。

〈4〉「この先を読むには有料会員にならないといけないの?」

〈5〉湊屋ゆん 『第8回ニート誌「シェアしたい小説大賞」』


【54】『バーチャルオデッセイ症候群』

〈1〉「バーチャルオデッセイ症候群」とは、実際には行ったことがない場所なのに、行ったことがあると錯覚するもの。矛盾のない具体的なエピソードも話せる。年齢問わず一定人数発症する。

〈2〉原因は不明だが、知覚接続端末の流用による記憶侵襲の一部だと考えられている。

〈3〉知覚接続端末の流用は禁止された。しかし、まだ見ぬ土地と体験を求めて、積極的な流用を行うコミュニティが流行する。

〈4〉「地球は青かった」「地球は青かった」「地球は青かった」

〈5〉ジェームズ・ウィリアム・ヘイウッド 『第6回呟木鳥文学賞』


【55】『ハッピーフェイス「生きた大麻」の生みの親』

〈1〉食べるとハッピーになれるというハッピー虫。その姿はてんとう虫のようだが、実際はカブトムシの仲間。催眠作用と幻覚を引き起こす。

〈2〉うつで休んでいる。ハッピー虫が混入した食べ物を食べてしまう。たちまち多幸感につつまれ、体調を取り戻す。

〈3〉ハッピー虫の養殖を始める。養殖に成功し全世界に広く流通する。

〈4〉「生きた大麻は頭がバグるよ」

〈5〉由上優 『第2回瞬間教養大賞』


【56】『クラウドコンピューティング・ベイビーズ』

〈1〉子供の頃の日記を読み返していると「記憶喪失の日」と書かれていた。

〈2〉なぜ書いたか思い出せない。両親に聞くと、自分が記憶喪失になったらしい。自分の家系は一生に一回記憶喪失になる、ということを初めて知る。

〈3〉違和感を持つ。調べると、両親とは血縁関係ではないことを知る。そのことを知らなかったこととして、いつもどおりの生活を過ごす。

〈4〉「世界が五分前に始まっていたとして、何が問題なんだ?」

〈5〉山崎右近 『第1回新茶社文学賞』


【57】『無傷の箱』

〈1〉輸送途中に毎回ボロボロになって届く、薬品が入った木箱。今回は無傷で、それが逆に怪しい。

〈2〉次に届いた木箱もその次の木箱も無事だった。

〈3〉輸送途中の荷物を盗んでいた人物が、薬品を口にして亡くなったらしい。

〈4〉「おっ、『ソーダ』があるぞ」

〈5〉加藤仕事 『第3回目拳賞』


【58】『伝統創生』

〈1〉需要が減り、絶滅しそうな仕事をしている。

〈2〉同じような境遇の仕事をしている者たちが団結し、重要な伝統として保護しようとする。

〈3〉仕事は伝統として受け入れられた。しかし、仕事を受け継ぐ者が現れず絶滅した。

〈4〉「これが必要かどうかはわからないが、伝統は失われてはならない」

〈5〉茶谷ヒロト 『第5回密林河文学新人賞』


【59】『「しあわせなら手をたたこう」 なぜ「幸福度ランキング」が生まれたのか。その背景と功罪』

〈1〉全国の小中学校の「幸福度ランキング」が発表される。

〈2〉そのランキングが発表された以降も毎年調査され、子供の学校選びに重要な指標になっていった。

〈3〉順位が高い学校で生徒による殺人事件が起き、それと同時にランキングの調査に不正が発覚し、幸福度ランキングは廃止された。

〈4〉「幸福度が高いほど、学習能力が高い傾向があります」

〈5〉中村ヘレン 『第4回煌弾賞』


【60】『天国は本当にあったんだ』

〈1〉外国で湖の水を飲む。管理人が駆けつけてくる。水に危険な微生物がいることを知る。

〈2〉運が悪ければ死に至る。管理人に話を聞き対処する。そして数日経ち、何事もなく帰国する。

〈3〉湖の危険な微生物について調べると、自国で日常的に飲んでいる水にも入っていることを知る。

〈4〉「自然がキレイなわけないでしょあんた」

〈5〉龍神大典 『異愚野減誌が選ぶ「今世紀最低の小説」』


【61】『少年老い易く夢成り難し』

〈1〉十歳になると行われる「人生設計式」。

〈2〉生き方から死に方までを考え、壇上で発表し、人生を良く生きようと志す式。参加者の一人が、式の途中で建物から身投げをする。

〈3〉身投げは「よりよく人生を設計できなかった結果」と考えられ、式はその後も引き続き行われた。

〈4〉「二十七歳、友人と共に起業。二十八歳、第一子誕生。」

〈5〉天願友梨香 『第8回円火蛇社文学賞』


【62】『ミルフィーユスタンダード』

〈1〉頼んだ料理とは、絶対にあわないであろう調味料が渡される。

〈2〉半信半疑でその調味料をかけて食べてみる。意外にも美味しいと感じる。

〈3〉給仕人から、調味料が間違っていたことを言われる。途端に料理が美味しくなくなった。

〈4〉「上等な料理って、ハチミツをかけるんだなあ」

〈5〉中坂梓 『第6回微柔文学新人賞』


【63】『PF サイコロジカル・フィクション』

〈1〉超光速移動装置は、ラマ波が活発化する時期には事故の危険性がある。代わりに光速移動装置を使う。

〈2〉光速移動中、超光速移動を試みる人たちが、宇宙に行列をなす様子を見る。用事を済まし家路につく。超光速移動の列で大事故が起こったことを知る。

〈3〉事故の様子を眺めながら帰る。明日のニュースを楽しみに思いつつ、寝る。

〈4〉「一星駅くらい光速移動しよう」

〈5〉ク・ミョンス 『第2回映画館で読みたい小説第一位』


【64】『ファスト人生』

〈1〉お金よりも時間が重視される時代、時間がかかるということはそれだけで大きなコストとなっていた。

〈2〉「1分の映画」が流行る。忙者は「1分の映画」をもとに「30秒の映画」をインターネット上で配信した。

〈3〉さらに時間を短くする。情報の質が悪くなる。時間がかかるものが、以前と同じように楽しまれるようになった。

〈4〉「お客様のために楽しい時間を半減しました!」

〈5〉橋本丸込 『第2回居良来社文学賞』


【65】『ゲーミングじーさん』

〈1〉子供の頃に住んでいた地元に帰ってきたが、友達がいなかった。昔からあるゲームセンターに寄る。おじいさんが格闘ゲームで対戦を申し込んでくる。

〈2〉ゲームに自信はあったが勝てずに一日が終わる。意地になり、毎週末に対戦を申し込むようになる。

〈3〉おじいさんが亡くなるまで勝つことはできなかった。そのおじいさんの代わりとして、ゲームセンターで独りで遊ぶ人と一緒に遊ぶ人になる。

〈4〉「GAMEのGはジジイのGか……」

〈5〉八塚崇徳 『第7回常軌社かなり大最高賞』


【66】『ヅレズレズラ シーズン3』

〈1〉幼い時の自分が映ったビデオカメラを家で見つける。データをパソコンに移し保存した。

〈2〉ある時、見に覚えのない児童ポルノの疑いをかけられ、自分のパソコンを調べられる。

〈3〉逮捕された。

〈4〉「やめろ! それはワシじゃ! これは何かの陰謀じゃ!」

〈5〉宝来薫 『第0回獏社葉砂道賞』


【67】『カバン、カバン、カバンに詰め込んで』

〈1〉生徒から「読むべき本」をよく質問される。「読むべき本」のリストをつくろうと考えるうちに、候補の量が膨大になっていく。

〈2〉逆に考えて「読まなくていい本」について考える。

〈3〉「読まなくていい本」の候補の量も膨大になる。

〈4〉「興味を持ったものを読めばいいと思うよ……」

〈5〉隼田ひかる 『第5回握多川賞』


【68】『考古的過去・歴史的未来』

〈1〉「絶対に当たる」という占い師に、生年月日や生まれた場所から未来を占ってもらう。しかし占われたとおりにはならなかった。

〈2〉再び占い師に会う。占い師の助手の調査により、自分の生まれた場所が覚えていた場所と違うことを知る。同じく、生年月日や本当の両親も違っていた。

〈3〉占い師の言っていたことは正しかった。しかし、過去がわからなくなってしまった。

〈4〉「え? 偽名使ってる?」

〈5〉佐々木申せ 『第2回築督文学賞』


【69】『匙が浮く』

〈1〉火星開拓時代、コロニー内では安全のため調理の幅が狭い。食事の種類が少なく、飽きることがあった。

〈2〉火星の住民たちは、日々限られた材料で工夫していった。

〈3〉新料理「宇宙しゃぶしゃぶ」が完成した。

〈4〉「食の大宇宙や~」

〈5〉外間礼奈 『第6回空底eマイル文学賞』


【70】『才能ガチャ』

〈1〉自身の才能を調べられるようになった。親指の曲げ伸ばしの速度に優れているらしい。

〈2〉自身の才能を活かそうと、仕事や使い道を考える。

〈3〉どれも現実味がなく、才能は忘れ、いつもの生活に戻った。

〈4〉「全世界右手親指第一関節屈伸速度世界記録保持者」

〈5〉沖見諒 『三千異世界制覇者』


【71】『なんでも観測LR』

〈1〉スポーツ観戦という自分の趣味を否定される。

〈2〉相手を論破しようとする。

〈3〉「この人物は『右』か『左』か」でしか他人を判断できなくなる。

〈4〉「事実を述べただけだが?」

〈5〉五法貴教 『第4回密日誌文学賞』


【72】『「革命史」ガバドルの歴史とこれから』

〈1〉高価なブランドの偽物が広く出回ってしまう。

〈2〉そのブランドの価値が下がってしまい、身につける人が少なくなってしまう。

〈3〉購入した時の価格を強調した露骨なデザインにすることで、独自性を生み出し、ブランドの価値を取り戻した。

〈4〉「ガバドルの名前を使う以上、偽物も本物も同じ価値で語られるのですよ」

〈5〉流川徹 『第6回地獄協会ゆわふる文学賞』


【73】『しっくり』

〈1〉今の職場がしっくりこない。転職を試みる。

〈2〉無事転職できるが、また別の理由でしっくりこない。

〈3〉何度も転職をし、何事もしっくりしないまま一生を終える。

〈4〉「便利な言葉で自分をしっくりさせるな」

〈5〉伏田賢 『第2回文鯨夏冬文学賞』


【74】『年越しはジャンプしようよ』

〈1〉子供の頃は、大晦日のみ深夜まで起きていた。

〈2〉成長するにつれ、深夜まで起きていることが多くなる。

〈3〉仕事が忙しく、大晦日が数少ない日付をまたぐ前に寝ることができる日になる。

〈4〉「来年まで起こさないでくれ。死ぬほど疲れている」

〈5〉粟原聡 『第8回備座文学賞』


【75】『なぜか余命の5秒前』

〈1〉AIによる早期診断により、余命がわかるようになった。主人公の身体は、余命わずかの超不健康と診断された。

〈2〉やりたいことをやろうと楽しく暮らす。仕事をやめた。趣味でお金をもらえるようになる。

〈3〉宣告された余命をいつの間にか過ぎ、再度診断を受けると超健康体になっていた。

〈4〉「えっ!? もう入れる保険ないんですか!?」

〈5〉渡辺増得魔 『第1回ベスト立ち読み賞』


【76】『インスタント流儀』

〈1〉楽器をやっている同僚と、付き合いでクラシックの演奏会に行った主人公。睡魔と戦いながら音楽を聴く。

〈2〉クラシックの楽曲についての知識を得れば楽しめるだろうと、曲について調べながら音楽を聴く。

〈3〉眠ることなく鑑賞しきるが、隣の同僚は寝ていた。最初から寝ていたらしい。

〈4〉「生音で寝るのが最高なんだよ」

〈5〉割石渚 『第8回北符詩社文学賞』


【77】『ワインズロード・ヒッチハイク』

〈1〉この町には「ヒッチハイク区間」がある。父はそこで必ず人を乗せる。父いわく「ヒッチハイク区間以外でする人は大体強盗だから」らしい。

〈2〉子供は大人になり、町に帰省する。その道中で、歩いている父を見かける。

〈3〉父は「車に乗せてほしい」と頼んでくるが「ヒッチハイク区間以外でする人は大体強盗だから」と返し、父を置いていった。

〈4〉「涙は乗車券にならないね」

〈5〉森ヴォルテル 『第9回言涼賞』


【78】『マスマス・フィクション』

〈1〉有名な映画監督が指揮する映画に、エキストラとして出ることになる。

〈2〉現場で監督の姿を見つけるが、椅子に座ったまま何も指示しない。

〈3〉映画の監督は無名の新人にやらせて、有名な映画監督は名前を貸しているだけだった。

〈4〉「あのバーグバババーガー監督の682作目!!!最新作!!!」

〈5〉林瑠草 『第0回弱者文学賞』


【79】『あくまでも、思い出を共有しただけ』

〈1〉「ある人」という都市伝説を知る。「ある人」の話をした友人が失踪する。

〈2〉友人を探すため調査するも、何も成果が得られない。友人を探して一年経った日に探すことを諦める。

〈3〉次の日、「ある人」が目の前に現れた。その正体はかつての友人だった。

〈4〉「お前がッ! 俺の個人情報を流すから……」

〈5〉山本鑑字 『第2回出図担新人賞』


【80】『曖昧美地雷!!』

〈1〉今まで興味が無かった化粧にハマる。

〈2〉化粧で変えきれない自分の肌が気になり始める。

〈3〉肌の次は目、その次は鼻と整形を繰り返すが満足できない。最終的に、元々の自分の顔に戻す。

〈4〉「自分のためにやってんの」

〈5〉横本慧 『第4回大椀・純混濁絶文学賞』


【81】『不審人物出没中』

〈1〉やたら職務質問される。「怪盗がいる」とのこと。

〈2〉いくら説明しても、言葉遣いや歩き方で疑われてしまう。

〈3〉嫌になりその場で全裸になる。並々ならぬ気迫から信頼してもらえる。

〈4〉「すべての怪盗は嘘つきである……。次の質問には必ず正しく答えるように。……君は怪盗だよね?」

〈5〉ジャイ・モンターギュ・ホイットル 『第4回真夏の夜のアレ賞』


【82】『そこに居なければないですね』

〈1〉各地に伝わる昔話がまとめられている本を見つける。

〈2〉現地の人に話を聞いてみるも、話を知っている人はいない。さらに調べても何も見つからない。

〈3〉すべて著者の作り話だった。

〈4〉「この地では記憶を食べる生き物がいます」

〈5〉一ノ瀬魔軸 『第9回咲夢瞬社文学賞』


【83】『紫情物語』

〈1〉外見に無頓着な友人を買い物に連れ立つ。

〈2〉友人に色々勧めるうちに、友人も自身の外見に興味を持ち始める。一人で買い物や、情報を調べる。

〈3〉それを別の友人から聞いた。おしゃれになった友人と距離を置いた。

〈4〉「『もうおしゃれなんかしない』って言ってよ……」

〈5〉閻宏美 『第7回陸道社文学賞』


【84】『火の終点』

〈1〉病気の家族の治癒を求め、天から垂れる白い糸を登る。

〈2〉登り切るとそこは楽園だった。もてなされるうちに、元の世界に戻りたくないと思う。年月が経ち、楽園で病気の家族と会う。

〈3〉楽園から突き落とされ、命を落とす。その後、肉体を捨てた姿でまた楽園へ登っていくのだった。

〈4〉「タダンカは二度死ぬ」

〈5〉鈴木罵破 『捨てられた世代が選ぶ文学賞』


【85】『カイさんは解説したい!』

〈1〉何でも解説したがるカイさんと出会う。

〈2〉毎話、カイさんが様々な事柄を解説しながら、主人公たちと日常を送る。

〈3〉最終話となった第カイ話では、子供にカイさんとの出会いを話し出す場面で終わる。

〈4〉「知っているのカイさん!?」

〈5〉七色戦車 『第7回十千十社文学賞』


【86】『ビジネスモンキー』

〈1〉窓際に追いやられる。仕事はハンコを押すだけになる。

〈2〉あるとき、肩書を利用したい新入社員がかけよってくる。新入社員と会社を乗っ取る作戦を練る。

〈3〉新入社員は会社を乗っ取ることができた。新しい会社でも、ハンコを押すだけの仕事は変わらなかった。

〈4〉「どうせロクに読まないんですから、ハンコお願いします」

〈5〉クリスティーヌ・ド・バロー 『第2回鍵延洲文学賞』


【87】『昇華の羽衣』

〈1〉新しい調理方法「羽衣」が流行る。熱した料理を冷水につけてから食べると、旨味と栄養が増すという。

〈2〉研究が進み、旨味と栄養は大して増していないことがわかる。

〈3〉「羽衣」は一般的な調理法として定着した。

〈4〉「今日はカレーライスの羽衣」

〈5〉ローラ・スミス・キャノン 『第1回比率亜賞』


【88】『サボテンでもわかる「本質について」』

〈1〉『本質について』という本をサボテンにもわかるようにしたもの。

〈2〉『本質について』の原文は難解かつ長い。そのため、わかりやすく編集した本が数多く出ている。

〈3〉わかりやすく編集した本でも、難解かつ長いため、二重三重に編集したものが現在出ている。

〈4〉「マンガでわかる小説でわかるアニメでわかる1分でわかる……」

〈5〉連尚行 『第7回匙荒婿文学賞』


【89】『猫を生かすか蛇を出すか』

〈1〉破格の家賃で借りた部屋は、実はマンションの管理室だった。「絶対に押してはならないボタン」がある。うっかり押してしまう。

〈2〉何も起きない。

〈3〉翌日、管理人によって部屋を追い出される。

〈4〉「期待外れです。色んな意味で」

〈5〉北瀬みどり 『第2回ベスト無料小説賞』


【90】『試した人全員が人生変わっちゃった「人生自動化マニュアル」』

〈1〉人生自動化サービスを頼む。手始めに仕事を任せる。働かずに収入を得る。

〈2〉生活を次々と自動化していくうちに、なぜ生きているのかわからなくなる。

〈3〉自動化から抜け出す方法を自動化サービスに頼む。自動化サービスの会社で働くことになる。

〈4〉「代わりに映画楽しんどいて」

〈5〉守川貴文 『第5回命健連合社文学賞』


【91】『復讐クラブにようこそ』

〈1〉学校で冴えない者たちが集まり、嫌いな者に対してどう復讐するか話し合う。

〈2〉日に日に話は盛り上がり、ついに復讐をする決戦の日が決まる。しかし当日、自分以外の誰も集まらない。

〈3〉呼び出した嫌いな者たちと仲良くなり、復讐クラブを卒業した。

〈4〉「復讐するは我らにあり(我ではない)」

〈5〉井上包 『第4回n0v31賞』


【92】『陸への一歩』

〈1〉幼い頃から意識がぼんやりとしていた。水中にいるときは意識がはっきりとしている。

〈2〉進化の過程で失われた感覚「水覚」を知る。水覚を使いこなせるようになる。海洋の調査隊に入る。

〈3〉客船の事故で救助活動を行う。力尽き、海底へ沈んでいく。

〈4〉「だれかがかぷかぷわらっている」

〈5〉小林居鞘 『第1回乗馬文芸賞』


【93】『前世で会った人だろ』

〈1〉インターネット上で炎上し、公開した作品を削除する。

〈2〉数年前に公開した最初の作品に、最近書かれた応援コメントがあった。コメントだけ保存し、作品をすべて削除する。

〈3〉数年後、炎上を乗り越え、再び作品を公開することができる。

〈4〉「ありがとう。また君と、別人として会ってみせる」

〈5〉鳥原愛美 『第8回迅速映画賞』


【94】『サクチメ』

〈1〉「サクチメ」という自分のフェチについての話を、友人に話す。

〈2〉あるときその友人と口論になり、「サクチメ」のことを馬鹿にされる。

〈3〉友人と絶縁する。数年後、友人が「サクチメ」により逮捕されたことを知る。

〈4〉「わけわからんことごちゃごちゃ言うな!」

〈5〉日和純一 『第9回照主等文学賞』


【95】『廻業』

〈1〉友人がとある儀式のための生贄を募集していた。

〈2〉生贄になろうと応募するも、栄養不足により断られる。

〈3〉他の応募者も断られる。自主的な生贄は栄養不足らしい。不本意な生贄を探すことになる。

〈4〉「かわいそうに。お疲れなんですね」

〈5〉ヨム・ボラム 『第3回幕都成堂文学賞』


【96】『フィネガンの結婚』

〈1〉現代の都市を舞台に「OJEWTTLDDSSR2V」の人たちの交流を描く群像劇。

〈2〉文章や画像はめまいがしそうな色がつけられている。支離滅裂な内容。

〈3〉付随している7枚のプラスチックのシートをかざすことで、各登場人物の視点での物語を楽しめる仕掛けになっている。

〈4〉「今ぬや落つとくたえに空は下で」

〈5〉エツィオ・ユージニー 『第9回詠買文学賞』


【97】『霧夜の空に』

〈1〉冤罪で終身刑。刑務所へ。

〈2〉過去に自分と同じような境遇の人物が脱獄したことを知る。脱獄を計画する。

〈3〉計画が周囲に発覚し脱獄を諦める。脱獄の計画を所内に隠し、他の者の脱獄を願う。

〈4〉「自由死すとも希望は死せず」

〈5〉ミシェル・ル・デュヴォシェル 『第1回情網振楠社文学賞』


【98】『グッパオン・キチ』

〈1〉すべての人類が読めるように開発された言語で書かれた本。

〈2〉読み取れた情報の量や意味は人によって様々だったが、多くの者が共通して得た情報があった。

〈3〉表紙に描かれたリンゴは腐っていることだった。

〈4〉「:)『!?』」

〈5〉高橋帰去 『第1回壁市文学賞』


【99】『’99』

〈1〉忙者は数多の物語の知識を得た。

〈2〉しかし、その物語を味わうことはできなかった。

〈3〉忙者は未来の者たちへ、物語を書いた。

〈4〉「いつか君に届くといいな。まだ見ぬ僕らの未来たちに」

〈5〉作者不明 『第1回木村駆韻賞』


【00】『忙者のための物語100』

 存在しない物語が並んでいる。

 物語が並んでいる。

 物語がいる。


 この作品はフィクションです。

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小説なんて時間の無駄だ ※「忙者のための物語100」を改題 されどなお @saredonao

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