怖い話『鏡のこと』

寝る犬

Aさんの話『合わせ鏡』

 子どものころ 『合わせ鏡』にハマった時期があってさ。

 合わせ鏡に自分の顔を映すとさ、自分の顔、後頭部、自分の顔、後頭部……って無限に続くだろ?

 あれが面白くてさ、暇さえあれば母親の三面鏡で自分の顔を見てたんだ。

 けど、毎日のようにやってたのに、ある日を境にぱったりやらなくなった。

 まぁ子供なんてそんなもんだろ?

 それでさ、この間帰省した時、十何年ぶりにやってみたんだ、合わせ鏡。

 そしたらさ、思い出したわけ。

 合わせ鏡をやらなくなった理由。

 無限に続く自分の顔と後頭部のずっと奥のほうでさ、後頭部が一つ、クルっとこっちを向いたんだ。

 思わず「えっ?」って思った。

 でも頭の中の深いところでは「あ、まただ」って思ってたんだよ。

 そのまま奥のほうをじっと見てたら、次の後頭部がクルっ。

 しばらくすると、また次の後頭部がクルっ。

 だんだん近づいてくる。

 怖くなってすぐに三面鏡を閉じたよ。

 子どものころもさ、これに気づいて見るのやめたんだ。

 どうして忘れてたのかわからない。

 こんなに怖い記憶なのにさ。

 ただ子供のころの記憶と違うところにも気づいた。

 あのクルっとこっち向いた顔、子供のころよりずいぶん近づいてたんだよ。

 あれが最後まで全部こっち向いたら、何が起こるんだろうな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る