天の川を見るために
学生初心者@NIT所属
第1話
あの時はとても昔のことだった。
ある七夕の夜。
幼馴染の彼とある山と夜空を見に来た。
彼は指をさして
「あれが天の川かな?」
「そうだね。」
「じゃあ、あの左側にあるのが彦星?」
「そのはず。」
その時の僕はあまりにも冷めてた。それが最後の思い出となる日だったのに。
でも、離れるのが嫌だった。
「そんなに静かなの変なの。」
「そうだね。」
「何かあったの? 教えてよ!」
「えーとね。俺、引っ越すことになったんだ。」
「えっ?! 噓でしょ。冗談だよね。」
「ううん。ホント。」
そう言われた彼は泣き始めてしまった。
それに釣られて俺も泣いてしまった。割り切ったはずだったのに。
そうして、数日たち、引っ越し当日となった。
「やっちゃん!」
最後に会いに来てくれた幼馴染は急いできてくれたのか汗を掻いていた。
「よっちゃん!」
「今日が、最後って、聞いたから、急いで、来たんだよ。」
「そうだね。一旦、いったん休もう。」
そうやって、だいぶ物が無くなった家に迎え入れた。
「もう、こんなに何もないんだ。」
「もう業者の人に荷物を運んでもらってるからね。飲み物ありそうだったら持ってくるよ。」
そういって、一度自分の部屋から去った。もう、会えないかもしれない幼馴染。彼との最後の時間という事実を少しでも背けたかった気持ちを持ちながら。
~~
庸介とは覚えてもいないくらい幼い時から仲良くしていた。
なぜそんなことが分かるかなんて、理由は一つしかない。親が撮っていた写真を見て、その事実を知っているとしか言いようがない。
そんな彼とは、幼稚園、小学校ともに同じ場所で過ごし、放課後だってほとんど毎日遊んだ。
遊んだ場所は色々あったし、その中にお互いの部屋もある。
だからこそ、物が無くなってしまった彼の部屋がとても悲しく感じる。
思い出がどこかへ行ってしまうような気がしてしまって。
こんな事実を受け入れたくなくて。
そんなことを考えている内に彼は戻ってきた。
「ペットボトルしかなかったから、紙コップに入れて飲んでくれ。」
彼は普段通りに接している。
その事実が僕をより焦らせる。
彼は悲しくないのか。寂しくないのか。と。
~~
普段通りに振る舞う。それだけで何かが変わるわけではない。
それは分かっていても、今まで通りの時間というのを失いたくない。
それでも、最後の時間は来てしまうもので。
「庸介、もうそろそろよ。靖樹君もありがとね。」
「いえ。」
そうして片付け始める。
最後の時が来る。
やっぱり、その事実はよく分からないな。
そう思いながら、一歩一歩踏み出し、玄関に着こうとしたとき。
「よっちゃん!!」
そう、大きな声で呼びかけてきた。
そのときには、いつの間に出来たのか分からない距離があった。
「また会おうね! また遊ぼうね! あそこで天の川見ようね!」
「もちろんだ!」
そうして、僕は彼に抱き着いた。
そのとき、彼は泣いていた。
「一生の別れじゃないんだよ。泣くんじゃねえよ。」
そういった、僕も泣きそうだった。
「そうだよね。絶対、また会おう。」
そうして、別れた。
車に乗り、この町から離れていく僕からは一粒の涙が流れていた。
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