第2話 召喚獣リリア

探偵だけでは食ってはいけない。


今日は単発のバイトを入れ日銭を稼いだ。


結城「……」


疲れた…。


新しいオフィスの事務所設営は体力勝負だ。


ビルの入り口から台車でエレベーターまで梱包された机や棚を運び指定の階へ、その後は各部屋へ振り分ける。


それが終わったら途方も無い開梱作業、組み立て、ゴミ捨て。


筋肉疲労より腰へのダメージが深刻だ。


若い男「先輩おつかれっす」


結城「おう、タケもお疲れ」


現場は若い奴から年配まで幅広く集まる。


タケは日中の解体の仕事が終わった後、夜勤でこの単発バイトもしている。


基本野良集合(誰と組むかわからない)だがよく現場が被るので顔なじみになった。


俺みたいに腰をやってる良い年のおっさんからすると眩しくてしょうがない。


結城「ふぅ……」


持ち込んだリットルの清涼飲料水を飲み干し駅へ向かう。


始発までまだ時間がある、少し歩くか。





ん?


何かが落ちている。


周りを見ながら一度通り過ぎ、人がいない事を確認してそれを拾った。


結城「カード…?」


!!!


手に鋭い痛みが走った。


結城「……!!」


瞬間、銀色に光るカードが俺の手の平を貫いている。


結城「ざ…けんな」


カードを引き抜き地面に叩きつけ、怒りに任せて足で踏みつぶそうとした。


???「待ってください!!」


声…?


結城「誰だ、どこにいる」


辺りを見渡すが誰もいない。


???「ここです」


声を追い、視線を下に落とすとそこには。


美少女が居た。





結城「で、お前は何者だ」


???「召喚獣…です」


結城「そうか」


まあ世の中には不思議な事は沢山あるものだ。


その一つがこの召喚獣に過ぎない。


結城「じゃあな」


召喚獣を名乗る全裸の女、関わるとろくな事にならない。


召喚獣「ま、待って」


結城「無理だ」


結城「服を着ていれば連れても歩けるが、全裸の女もはや事件でしか無い」


しかも右手も負傷している、はっきり言って疲れた。


召喚獣「私の事はあなたにしか見えません…!」


結城「ほう…」


言っておくが俺は正義の味方でも、ハードボイルドなヒーローでも無い。


そんな綺麗事を纏う奴はこの世には存在しない。


結城「で、お前は何者だ」


召喚獣「あ、あなたにお仕えする召喚獣…リリアです」


お仕えする召喚獣だと?


どうでも良いが他人に見えないなら連れて帰るか。


結城「俺の家に来る気はあるのか?」


リリア「は…はいっ」


俺はリリアを抱き寄せた。


リリア「あ……っ」


リリアはそれ以上何も言わなかった。





と言う夢を見た。


駅の近くのベンチで寝ていたみたいだな。


結城「……はぁ」


目が覚めると始発はもう動いていた、腕時計を見ると丁度ラッシュとぶつかる時間だ。


??


右手から血が出ている…。


結城「これは…」


地面には。


あの時のカードが落ちていた。


駅から離れた雑居ビルに移動し、監視カメラが無い事を確認した俺は夢の様にカードを地面に投げつけた。


閃光。


そして女。


結城「……リリア、か」


リリア「ご主人様…また私を召喚して下さったのですね」


どうやら夢では無かったらしい。


リリア「あ…っ」


俺はリリアを抱きしめた。


リリア「だ、駄目ですご主人様」


結城「一目惚れだ」


本当に俺はどうしようもない。


だがそんなもんだ。


リリア「違うんですぅ…っ」


抱きしめているリリアの体がどんどん薄くなり、光と共にカードになってしまった。


結城「……!!」


何だ…この疲労感は。


まずい、このままではここで寝てしまいそうだ。


俺はカードを拾い上げタクシーで事務所近くの駅まで向かった。


日雇いの給料はこれでチャラだ。


結城「………何だってんだ」


何とか事務所にたどり着きソファに腰掛ける。


散々じゃねぇか。


カードを電気に透かしながらインスタントコーヒーで喉を潤す。


結城「召喚カード、か」


俺は床にカードを投げつけた。


閃光。


そして女。


リリア「ご、ご主人様っ!」


結城「リリア…」


リリア「あー!!ダメですよぉ!!私に触れると私はカードになってしまいます…」


結城「カードを投げつけると召喚、召喚獣に触るとリターン。て事か」


リリア「そ…そうなんです。だから…」


結城「お前から抱き着いたらどうなるんだ?」


リリア「えいっ!」


リリアが俺に向かってジャンプして来たがそのまま後ろに通り過ぎた。


結城「成程、召喚獣からは主人に干渉出来ないと」


リリア「そうなのですぅ…」


リリア「折角一目惚れして頂いたのですが…あの…その…」


結局夢じゃ無かったって事か。


だが触る事は一瞬しか出来ない、こんなに刺激的な雰囲気を振りまいているのに、だ。


結城「おい」


リリア「は…はい」


結城「拳を突き出せ」


リリア「???」


リリアは黙ってグーにした拳を突き出した。


俺はその拳に同じく拳で触れた。


結城「リターンの時はこれで行く、わかったな」


リリア「はっ…はい!」


その瞬間、光と共にリリアは消えた。


―続く

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