逢魔ヶ刻に猫烏

荒屋 猫音

第1話

逢魔が時に猫烏


猫又

八咫烏(烏)

人間

鵺(ぬえ)

九尾


全キャラクター性別不問

一人称変更可能

軽度なアドリブ、語尾の言い換え○

鵺と九尾は兼役でお願いします

最後九尾役の演者様はNの部分を読んでください

____


夕暮れ時、1匹の猫が、人間に声をかける


猫又「そこな可愛いお嬢さん、猫を見て行かんかね?」


猫又「なぁに、怪しいもんじゃないよ」


猫又「ちょっと珍しい喋る猫、儂は猫又」


猫又「儂の声が聞こえるお嬢さん?」


猫又「ちょっと、寄って行かんかね……?」


____


烏「おい猫野郎!今日こそ決着を着けやがれ!」


猫又「お前さんはどうしてこう喧嘩っ早いかね?決着?とうの昔に着いてるじゃないか」


烏「あれは…あれは……」


猫又「言い逃れも言い訳も出来ないだろう」


猫又「諦めて儂に喧嘩を売るのはやめとくれ」


烏「う、うるせぇ!猫に負けただなんて、八咫烏としてのプライドが許さねぇ!」


猫又「懲りないやつじゃ……」


烏「そうさ!俺は諦めが悪いんだ!」


猫又「はぁ……またその左目に引っ掻き傷が欲しいかい?それとも、今度は右目にくれてやろうか?」


烏「目は辞めろ!見えなくなったら困るだろう!」


猫又「……それならそうだね…」


猫又「おや、丁度いい…」


猫又「おい烏、あの人間を妖通りに引き込めたら勝ちってのはどうだい?」


烏「…人間を?」


猫又「そうさ、お互い気味悪がられるのは確実だからね。」


烏「……妖通りに引き込んで、その後どうするんだよ」


猫又「別に何もしやしないよ。ただ入れるだけ。あとは人間の好きにしたらいい」


猫又「あそこは、人の世とは違う理で成り立っている。出るもよし、残るもよし。好きにさせるさ」


猫又「それに、入れたからって、直ぐに逃げちまえば問題は無いからね」


烏「……へぇ、おもしれぇ…受けて立つ!」


___



猫又「そこな可愛いお嬢さん?猫を見て行かんかね」


人間「……!?猫が喋った!!」


猫又「なぁに、怪しいもんじゃないよ」


猫又「ちょっと珍しい喋る猫…儂は猫又。妖怪さ。」


人間「……妖怪…」


猫又「儂の声が聞こえるお嬢さん?」


猫又「ちょっと、寄って行かんかね?」


人間「……行かない!」


_そのまま走ってどこかへ行ってしまう人間


烏「あっはっはっは!!ざまぁねぇな!逃げられてやんの!」


猫又「まぁこんなもんじゃろ。わかってやった事さ」


烏「くっくっく!にしたって、あれは無ぇ!傑作だ!」


猫又「はぁ…なら、お前さんはどうやってあの人間を誘うんじゃ?」


烏「そりゃ…へっ、見てろ!」


___


烏「なぁそこのお嬢ちゃん、この先に珍しい鳥がいるんだ、ちょっと見ていかないか?」


人間「ひぃ……!!!」


烏「おいおい、喋る烏を見たからって、そんなに驚かなくても......っておい!!」


_人間は話を聞く前に逃げ出す


猫又「…ぷっ」


烏「…笑うな!」


猫又「だってお前さん、誘い文句が儂と同じじゃないか……ぷっくくっっ」


烏「くっそ、これだから人間は……!」


猫又「まぁまぁ、そんなにカッカしなさんな(失笑)」


猫又「しかし困ったねぇ、話しが出来ないんじゃ、誘いようがないね」


烏「ちっ、お前が変な勝負を持ちかけるから…!」


猫又「おや、乗ったのはお前さんだよ?今更勝負を投げ出すのかい?」


烏「…んな事しねぇよ!」


猫又「はっはっは!阿呆は扱いやすくて助かる」


烏「誰が阿呆だ!」


猫又「さて…どうしたもんかねぇ…」


____


人間「はぁ……びっくりした…喋る猫に喋る烏…!なんなのこの街…そこら中に妖怪がいるし、人間だと思って話しかけたら妖怪だし…怖い…」


人間「前住んでた所より妖怪が多い……学校も妖怪だらけ……なんなの…」


猫又「にゃー」


人間「ん?猫…この子は、さっきの猫じゃ…ないよね…」


猫又「にゃーーん」


人間「うん、さっきの猫は真っ黒だったし、この子は三毛だし……違うね…違うよね…」


猫又「にゃぁ」


人間「…どこかの飼い猫かな…」


猫又「…(さぁ、こっちへ来い……)」


人間「……ダメ、この子、さっきの子だ…!」


猫又「……ほぉ」


_先程と毛色を変えていた猫又が元の姿に戻る



人間「ひぃ!!やっぱりぃ!!!」


猫又「なぜ儂が先程の猫だと、猫又だと分かった?」


人間「……め、眼が…」


猫又「眼?」


人間「真っ赤な瞳の猫なんて…見た事ないから、さっきの喋る猫の眼も、真っ赤だったし…同じ子かなって…」


猫又「あぁ、それで…お前さん、その目のせいで随分苦労しているようだね。」


人間「ずっと怖いものばっかり見てきたから…」


人間「この街は、特に多い…」


猫又「街?そりゃそうさ、この街は妖怪と人間が等しく暮らす街、儂らにとっては都合のいい住み良い街だ」


人間「……猫さんも、妖怪なんだよね…」


猫又「あぁ、儂は猫又、長らく人に飼われていた猫の成れの果てさ」


人間「猫さんは、悪さ……しないの?」


猫又「悪さ……今お前さんを妖通りに誘い込もうとしてるのは、悪さに入るかい?」


人間「十分悪さに入るよ!!」


猫又「はっはっは!元気なお嬢さんだ!」


人間「……」


烏「おい猫野郎!ちんたら喋ってないでさっさとその人間をこっちに寄越せ!」


人間「ひぃ!さっきの喋る烏!」


烏「今と言いさっきと言い……失礼な人間だな」


烏「その目がなけりゃ、ちっとは静かになるか?」


猫又「およし、バカ烏」


烏「……けっ」


猫又「すまないね、お嬢さん、コイツは喧嘩を売るのが得意なんだ」


烏「なんだと!?」


人間「あ、あの!」


猫又「…なんだい?」


人間「良い妖怪と悪い妖怪の見分け方って、あるんですか…?」


猫又「…」


烏「…」


人間「私、妖怪ってだけで今までずっと逃げてきたから……でも、あなた達が良い妖怪なのか悪い妖怪なのかわからないから…」


人間「話しをしてる限りでは、食べようとか、してくる訳じゃないし…」


猫又「良い妖怪は、そもそも人間で遊ぼうなんて考えないよ」


烏「そうさ、俺らは楽しいことが大好きだ。」


人間「…」


猫又「まぁ、今回儂はたまたまこの烏の挑発に乗ってやっただけで、別にお前さんをどうこうしようとは思ってないよ」


烏「てめぇ!妖通りに引き込むって言ってたじゃねぇか!」


猫又「入れるだけであとは好きにさせると言っただろう」


人間「あの、その妖通りって…」


猫又「…人と妖の世界の境じゃよ」


烏「一歩踏み入れたら、ここにはいない妖共がわんさかいる場所さ」


猫又「存外、人の世と違って楽しい所ではあるが、人が足を踏み入れても、食べ物を口にさえしなければいつでも帰れる場所でもある」


人間「食べ物…?」


烏「妖通りの食いもんは、人間を妖の姿に変えて、戻れなくするんだ」


猫又「知らずに口にしたら最後、もう人の世には戻れない」


人間「…」


烏「食いもんさえ食わなきゃいいんだ。簡単だろう」


猫又「入ってしまったとしても、食べ物を口にしないか、すぐに立ち去れば良いだけだしの」


人間「……でも、そんな怖いところがあるなら、なんで人間が、行けないようにしないの?」


猫又「そりゃお前さん…妖通りは1つじゃないからねぇ」


烏「人間がどれだけ道を塞ごうが、俺たちには関係ないのさ。すぐに別の道と繋げちまうからな」


人間「……」


猫又「まぁ、今日のところはこれで退散しようかね…儂らより面倒な妖怪が出てくる時間じゃ」


人間「面倒…?」


烏「鵺(ぬえ)だよ」


人間「鵺?」


猫又「サルの顔、タヌキの胴体、トラの手足を持ち、尾はヘビの妖怪さ、聞いた事ないかい?」


人間「…あるような、ないような…」


烏「あいつは目に付いた人間を端から攫っちまうんだ」


猫又「やつが狙うのは夜に1人で出歩いている人間。そこに歳は関係ない」


猫又「うっかり1人で出歩いたら最後。奴は狙った獲物は決して逃がさない…」


人間「……(生唾を飲む)」


人間「その鵺は、今から出るの?」


猫又「そうさ、ちょうど今頃がアイツの出る時間…」


_遠くでヒョーヒョーという鳴き声がする


烏「…あれが、あいつの鳴き声だ」


人間「…あれが、鵺の声…」


猫又「今日は儂が家まで送ってやろう。」


人間「で、でも、私1人…」


猫又「安心せい、言ったじゃろ?【1人で出歩いている人間】と。儂が着いていれば、やつはお前さんを狙わない」


烏「猫野郎の獲物だと思って、手を出さないってこった」


人間「…わ、わかった…」


猫又「決まりじゃな。さ、いこう」


烏「じゃあな、猫野郎!それとお嬢ちゃん!」


___


猫又「お嬢さん、名はなんと言う?」


人間「……妖怪に名前を教えたら、攫われちゃうっておじいちゃんが言ってた…」


猫又「賢いじい様じゃ」


人間「…猫さんは、名前はあったの?」


猫又「あった時もあるが、とうの昔に忘れたよ」


人間「…じゃあ、猫さんの本当の姿は?」


猫又「……?」


人間「だって今、私が怖くないように、普通の猫の姿をしてくれてるでしょ…?」


猫又「……儂の姿なぞ、見ても気持ちの良いものでは無いよ…」


猫又「名も忘れた、しかし、確かにそこにいた猫」


猫又「それが儂じゃ」


人間「あの烏は?」


猫又「奴はただの腐れ縁じゃ、昔喧嘩を吹っかけられてからと言うもの、叩きのめしてやったと言うのにまだ懲りないようでな。今回のように何かと勝負したがるんじゃよ。やつの事は気にせんで良い」


人間「大変だね…」


猫又「まぁ、おかげで退屈せんがな」


人間「…あ、ありがとう猫さん、私の家ここなの」


猫又「ふむ…。ん?」


人間「どうしたの?」


猫又「いや、なんでもない」


猫又「鵺は1人を狙う。決して夜に1人で出歩くでないぞ」


人間「わかった、ありがとう」


____後日


人間「うわぁ…!すっかり遅くなっちゃった!急いで帰らなきゃ」


_この時、人間は猫又に言われたことをすっかり忘れ、夜の街を1人で駆けていた…すると


鵺「ヒョーヒョー…」


人間「…あの声……あっ!」


_しかし、気付いた時にはもう遅い


鵺「夜の帳の静かな事よ…そうは思わぬか?人間…」


人間「…ひっ」


鵺「さぁ、私と一緒に来てもらおう…」


_鵺の手が伸びる、すると…


猫又「お嬢さん!」


人間「…猫さん!」


鵺「猫又か。貴様、私の邪魔をすると言うのか…」


猫又「バカをお言いでないよ鵺、この子は元々儂の獲物じゃ」


鵺「抜かせ、この娘は、私が貰う…」


猫又「やってみろ混ざりもの風情が…儂の爪から逃れられるものならな」


人間「ね…猫さん…」


猫又「お嬢さん、心配いらないよ。直に烏が来る、そしたら一緒に逃げな」


猫又「でも…」


猫又「老いぼれの言うことは聞くもんだ」


烏「…猫又!嬢ちゃん!」


猫又「ほれ来た」


烏「嬢ちゃん、早く逃げるぞ!ここは猫野郎に任せとけ!」


人間「…うん」


猫又「聞き分けが良いね。烏!しっかり送り届けな!」


烏「言われなくても…!」


鵺「貴様ら…私の獲物を横取る気か…」


猫又「聞こえなんだか?あれは儂らの獲物じゃ…!」


_瞬間、猫又が青白い光を帯び、姿を変える。


猫又「…さぁ、混ざりもの風情、捕れるものなら捕ってみよ!」


____


人間「猫さん、大丈夫かな…」


烏「大丈夫大丈夫、あいつはあれでも大妖怪猫又様だ」


人間「烏さんは、なんの妖怪なの?」


烏「俺ぁ八咫烏、これでも神として崇められる存在だ」


人間「神様…」


烏「導きの神。なんて呼ばれてるな、人間が勝手に言い出した事だが、まぁ気に入ってるぜ!」


人間「ただのカラスだと思ってた…」


烏「…お前なぁ……」


人間「あ、私の家、ここだよ」


烏「おう、鵺も猫野郎が足止めし…っ……!?」


人間「…烏さん?」


烏「嬢ちゃん、この家…何がいるんだ……」


猫又「……ほぉ、気づいたか烏」


人間「(同時に)猫さん!」


烏「(同時に)猫野郎!」


人間「よかった、無事だったんだね!」


猫又「あんな混ざり物、ささっと追っ払ってやったよ。だが…」


烏「…あぁ、今後鵺(アイツ)は、嬢ちゃんを狙い続ける…」


人間「どうして…」


猫又「奴は狙った獲物は逃がさない…例え他で人を攫おうとも、隙があればお嬢さんを狙ってくる」


烏「やつの執着は異常だ…今回追っ払ってたって、またやって来るさ…」


人間「そんな…ごめんなさい…私、ちゃんと教えて貰ってたのに…」


猫又「気にする事はない。今後、儂らがお嬢さんの護衛をすればいいだけじゃよ」


烏「そうそう…って俺もか!?」


猫又「当たり前じゃよ。知らなければただ攫われて終わりだったが、知ってしまったからには教えた責任がある。」


猫又「それに、お嬢さんの家にいるものが気になる…」


烏「…あぁ、俺はそっちの方が気になって仕方ねぇや、何だこの気配…」


人間「えっと…」


猫又「お嬢さん、この家にいて、何も怖い事は起こらないかい?」


人間「怖い事…?得に起こってないけど…」


烏「害を成す奴じゃなさそうだな…」


猫又「だが、存在が大きい…お嬢さん?」


人間「なに?」


猫又「済まないが、今日はお嬢さんの家に寝泊まりさせてもらうよ」


人間「え?」


猫又「幸い、儂らの姿は人においそれ見えるものでは無い。」


猫又「見えたところで、普通の猫のふりしてれば問題ないしの」


烏「俺も今はこの姿だし、別に問題ない」


烏「ただの烏として振る舞うさ」


人間「あ…うん、わかった」


猫又「…素直でよろしい」


_少しの間


猫又「さて…」


人間「…」


烏「……?」


猫又「烏、お前さんは日夜でお嬢さんの護衛をしな」


烏「はぁ!?なんで俺が!」


猫又「お前さんの方が都合がいい。飛べるからの」


猫又「多少遠くに奴がいても、お前さんなら直ぐにお嬢さんの所に行ける」


烏「…わかったよ。」


人間「あ、ありがとう」


烏「事が済んだら供物捧げに来いよ。じゃないと祟るからな」


人間「えぇ…」


猫又「儂はこの後、この家に住まうものを探す…どうも気になる…」


人間「あの…本当にこの家に来てから、怖い事って何も起きてないよ?」


猫又「ふむ…この家、随分古いようじゃが、いつから建っておるんじゃ」


人間「…わからない。でも、おじいちゃんが子供の頃にはもう建ってたみたい」


猫又「ざっと100年…何が住んでいてもおかしくないのぉ…」


人間「…」


猫又「ともあれ、儂らがついておれば、鵺(やつ)は手を出さない。頼んだぞ、烏」


烏「はいよ」


____深夜、家の中



猫又「……妙な気配だ。」


猫又「いるのが分かっておるのに、姿が見えん…まるで……」


九尾「狐に化かされているようであろう?」


猫又「!?」


九尾「珍しい客だ。歓迎はしないが、まぁ良かろう」


猫又「驚いた、まさかお主、白面金毛九尾(はくめんこんもうきゅうび)か…」


猫又「如何にも」


猫又「大妖怪様がこんな所で何をしておる…」


九尾「何…とは、不思議な問いを投げるでないぞ猫。ここは、私の家だ」


九尾「契約により代々の守りを約束し、家に住む者に降りかかる一切の禍(まが)を払うもの。それが私。」


猫又「では……あの娘に着いた鵺の禍、払って頂きたい…」


鵺「…断る」


猫又「…!?何故じゃ!」


九尾「よその妖物が着けた禍なんぞ私は知らん。」


猫又「……」


九尾「責任を押し付けるな猫。あれはお前たちで払え」


猫又「…確かに…そうじゃな」


九尾「……まぁ、私としても可愛い娘子にあんなものの臭いが着いたとあれば、黙ってはおれん…少し力を貸してやろう」


猫又「…感謝する…」


九尾「……この管を預ける」


猫又「管…管狐か」


九尾「さよう…事が済んたら返してもらうがな」


猫又「わかった」


九尾「あの娘は私の大切な子…傷一つでもつけたらタダでは済まさんぞ」


猫又「……」


_人間が眠りにつき、九尾のことを話す猫又


猫又「…という事だ」


烏「…まさか、九尾が居たとは…」


猫又「儂も驚いた…しかも、あの大妖怪…この家を守護しとるとは…」


烏「まぁ、九尾から借りたこいつがいれば、アイツもそう簡単に手を出してこないだろ」


猫又「だと良いがな…やつの執着は異常…管狐を預かったところで、これに何ができるやら……」


烏「俺とお前管狐で、人間を守れってか…?」


猫又「傷一つでもつけたら消されるかもな…」


烏「……」


猫又「……」


(2体同時にため息)


____


猫又M

それからというもの、鵺による人攫いがピタリと止んだ。

人間たちは何事も無かったかのように生活をする…

見えないものに恐怖する心を、

人間達はすっかり無くしてしまったようだ…


____


猫又「気味が悪い」


烏「…俺を見て言うな」


猫又「あぁ、すまんな」


烏「わざとだな…」


猫又「鵺の動向が全くわからん、人攫いも辞めた、なのにお嬢さんを狙う様子は無い…」


烏「俺らが見てるからじゃねぇか?」


猫又「だとしても、人攫いまで辞める理由はなんだ」


烏「…さぁ?腹が減ってないとか?」


猫又「……」


猫又「いずれにせよ、お嬢さんが狙われていることは確かだ」


烏「だな」


九尾「悠長な事だな猫」


猫又「九尾……」


烏「げっ!ほんとにいたよ……」


九尾「私を目の前にしてそんな口が聞けるのはお前くらいだなぁ八咫烏。焼き鳥にして食ってやろうか?」


烏「冗談じゃない!」


猫又「九尾、何用だ……」


九尾「何故鵺が出てこないか、分からんか?」


猫又「……」


烏「もしかして……満月か?」


猫又「…そうか、月の力が強い日を狙って…、まて、次の満月は……!」


九尾「そう、明日だ」


猫又「…明日叩かなければ、あのお嬢さんは永遠奴に狙われ続ける…」


九尾「そういう事だ。お前達、決してあの娘に傷一つ付けてはならんぞ」


__翌日__


猫又「お嬢さん、今日は決して家から出てはならん」


人間「えっと……あの鵺って妖怪が出てくるから、だよね」


猫又「そうじゃ、そして今宵は満月。月の力が一番強い日…儂ら妖にとっては力を得るのに打って付けの日じゃ。」


猫又「そんな日じゃからこそ、家で大人しくしておいて欲しい」


烏「お嬢ちゃんは俺がしっかり見ててやる。安心しな。それに、何が出来るか分からんこいつもいる」


_九尾から預かった管狐が任せろと言わんばかりに動き回る


人間「ふふっ可愛い」


猫又「お嬢さんに傷のひとつでも付けたら、あの大妖怪が黙っておらんしの…」


人間「…わかった、猫さん、気をつけてね」


______


_夜、満月が照らす闇に対峙する妖_


猫又「…」


猫又「来たか……」


鵺「今宵は良い日だ、なのに、なぜ娘の気配がしない……応えろ猫!!!!」


_言い切るより早く鵺が猫又に襲いかかる



猫又「さぁて、知らんな?儂らが食ってしもうたかもしれぬぞ?」


_鵺の攻撃をかわし、そして猫又も鵺に襲いかかる。


猫又「(気配がない?あの管狐、まさか結界を張っておるのか…!)」


鵺「なぜだ!あの娘は稀に見る血の持ち主……!あれを食ったなど、許さん!!」


猫又「黙れ!混ざりもの風情が!」


猫又「儂らが狙うより先に目を付けなんだ己の失態!」


猫又「しかし、残念じゃがあのお嬢さんには、儂らなぞ比べ物にならん程の大妖物が目をつけておる!」


猫又「貴様なぞ、到底敵わん!」


鵺「ぬかせ!だからこそこの日を待っておったのだ…!」


鵺「それが……気配の欠片すら感じぬだと!?有り得ん!!」


_鵺の爪が猫又に迫る、しかし猫又はまたもそれをひらりと躱す


猫又「図体ばかりでかいと苦労するのぉ鵺!爪は、こうして使うのじゃ!!」


鵺「…がぁぁぁ!!」


_猫又の鋭い爪が鵺の目を捉え、大きな傷をつけた


猫又「月の力を得てその程度か」


鵺「小癪な……」


猫又「まだ足りぬか」


鵺「……!!」


猫又「自惚れるなよ、混ざりもの風情……あの時はあれでも手加減してやったのじゃ。」


猫又「じゃが、今日はそうはいかん。」


猫又「消えてもらう」


鵺「……猫風情がぁ!!!」


_傷を負いながらも鵺が猫又に迫る。だが、猫又はいとも容易く攻撃をかわし、次の傷を付ける


鵺「がぁっ!」


猫又「そのまま動かなければ、楽にしてやろう」


鵺「ふざけるな……あれは私の獲物!!決して逃さん!!」


猫又「そうか……残念じゃ」


猫又「では、消えてもらう」


_猫又は静かに鵺に近付き、そして喉元に深く噛み付いた


鵺「ぎゃぁぁあああああああ!!!!!」


鵺「!!!!」


_鵺の絶叫が響き渡る


_それでも猫又は、容赦なくその肉を引きちぎり、更に爪で身体中を抉っていく


鵺「……おのれ、猫風情…覚えておれ……私はまた戻ってくる……必ず、あの娘を食ろうてやる……!!」


猫又「出来るものならやってみろ混ざりもの風情」


猫又「じゃが、次あの娘を狙う時は、相手が儂らではないこと、努々(ゆめゆめ)忘れるな」


_鵺の息が事切れ、その姿は灰になって消えていった


猫又「ふぅ……さて、帰るか…」


_鵺の脅威は去った。あの人間に、平穏が訪れる……


____


人間「猫さん!!」


猫又「おぉ、お嬢さん。

大人しく待っていろと言ったのに、聞かん娘じゃのぉ」


人間「……終わったの?」


猫又「終わったよ。」


人間「良かったぁ……」


烏「猫野郎、おめぇ怪我してるじゃねぇか」


人間「え!?大変!」


猫又「躱したつもりだったんじゃが…なに、大したことは無い。擦り傷じゃ」


猫又「それより、なぜ終わったと分かったんじゃ」


烏「九尾から借りた管狐が消えたんだ」


人間「ずっと何かに怒ってるみたいな感じだったのに、パタッと大人しくなって、そのまま消えちゃったの」


猫又「あぁ、結界を張る必要が無くなったからじゃな」


人間「結界?」


烏「あの管狐が?そんなことしてるようには見えなかったぞ……」


猫又「現に鵺はお嬢さんの気配に気付かなかった。あの管狐が結界を張っていた以外に理由が思いつかん」


烏「あいつ、そんなことしてたのか……」


人間「妖怪って、凄いんだね」


猫又「まぁ、無駄に人より長生きしとるからの」


猫又「さぁ、帰ろう」


人間 「うん!」


___家の中


九尾「存外早く終わったのぉ、猫」


人間「うわ!!でっかいキツネ!!!」


烏「九尾様にうわって……」


猫又「お前さんもやったじゃろうに」


九尾「管は確かに返してもらった。そして、娘に傷一つ付けなんだ事、褒めて使わそう」


猫又「かすり傷でもつけたら殺されかねん。大人しく家にいてもらったが、管狐の結界のおかげでやりやすかったよ」


九尾「それはそれは…」


猫又「と言うか九尾殿、一応家で大人しくさせてたんじゃから、お前様が結界張ってくれても良かったんじゃないか…?」


九尾「何を言う、私が出張れば鵺が気づくだろう」


人間「あ……あの!キツネさん!!」


九尾「…なんだ?」


人間「…………その尻尾触らせてください!!!」


烏「……は?」


九尾「嫁の頼みなら仕方ない……」


人間「やったぁ!!」


人間「……って、嫁!?」


猫又「やはり、そのお嬢さんは狐の嫁子か……」


烏「……待て待て待て、どう言うこった!」


猫又「九尾がお嬢さんに傷を付けさせなかったのは、このお嬢さんが九尾の嫁だからじゃよ」


猫又「それに、妖物が人間を大切にする理由なんぞ、嫁にする以外考えられん」


九尾「烏は頭が悪くて困る……猫の言う通り、この娘は私の嫁。ただそれだけの事だ」


人間「嫁?私がキツネさんの嫁?」


九尾「私はお前が産まれてくるのを待っていた。」


人間「待ってた……って、なんで……」


九尾「古い契約だ。代々に降りかかる禍を払う代わりに、1000年後に産まれる娘子を嫁に差し出すと言うな」


九尾「この家の者はもう覚えてすらいない、カビの生えた古臭い契約……だが、私はずっと、お前を待っていた」


九尾「娘子を嫁に貰う事で、この家からの縛りも終わる」


烏「なんつー娘に手を出そうとしてたんだ俺たちは……」


猫又「全くじゃ。うっかり妖通りに引き入れていたら、鵺どころの騒ぎではなかったな」


人間「待ってよ!キツネさんのお嫁さんになったら、私はどうなるの!?」


九尾「お前さんが居た。という記憶の一切は消える。」


猫又「妖通りだけで止まるならまだしも、完全に妖の世界に行った者は、人間の世界の理から外れ記憶から消えるんじゃよ」


人間「……私は、覚えているのに……?」


九尾「そうだ。だが、あそこは人の理と違う」


烏「まぁ、あっちは諍(いさか)いはあっても争いは無いからな」


九尾「覚えている事は悪いことでは無い。それに…私の嫁になったからと言って、人の世に出て来れない訳では無いからな」


人間「え、行きっぱなしじゃないってこと?」


九尾「私は狐だぞ、変化なぞ容易いものだ。変化をかける事だって造作もない」


人間「……そっか…」


猫又「……お嬢さん、やけに聞き分けが良いな」


人間「うーん……なんて言うか…」


人間「私、この街に来てから、怖いことだらけで……何か面白いことが起こらないかなぁってずっと思ってて……そしたら、猫さんと烏さんに会って、鵺に襲われて、キツネさんが現れて、まさか嫁だ!なんて言われて」


人間「妖怪は怖いし、今まで嫌な思いもしたけど、猫さんたちがいたから……私、他にも仲良くなれる妖怪がいたら友達になりたい…」


人間「びっくりはしたけど、でも、ずっと、ワクワクしてた」


人間「怖がって逃げて、見えない振りしてたけど、怖い妖怪だけじゃないって知れた……」


人間「だからキツネさん、私を連れて行って!」


九尾「……珍しいのは血だけにしてもらいたいものだな」


猫又「こう言う人間もいるという事じゃ」


烏「なんつーか……良かったな」


九尾「嫁入りに異は無く、永劫私と共にあると誓うか?」


人間「誓います!」


猫又「やれやれ……ともあれ、これで一件落着じゃな」


烏「だな……なんだか疲れた…」


猫又「儂もじゃ………ん、雨……?」


烏「あぁ、九尾が嫁を貰ったから……」


猫又「嫁入りしたのは人の子だが……まぁ、別に良いか…」


九尾「さらばだ猫、そして烏」


九尾「妖の世でまた会おう」


人間「猫さん!烏さん!ありがとう!」




_九尾と人間は雨の空に消えていった


_そしてその後、残された猫と烏は…



烏「おい!猫野郎!今日こそ決着を着けやがれ!」


猫又「お前さんまた来たのかい、飽きないねぇ」


烏「仕方ねぇだろ!この前の嬢ちゃんは九尾が嫁に貰っちまったし、勝負どころじゃなかったんだからよ!」


猫又「もう儂が活躍したから儂の勝ちで良いじゃろ」


烏「納得できるか!いいから勝負だ!」


猫又「懲りないやつじゃ……」


猫又「……そうさな…どうしたもんか……」


猫又「お。あの人間から食い物を貰うのはどうじゃ」


烏「……いいねぇ、受けて立つ!!!」



九尾役N

_猫又と烏は相変わらず勝負事をしているようだ


_いつまでもこうして仲良くしていてもらいたいものである。


_しかし忘れては行けない。


_この世界の至る場所には、妖通りへの道が続いている


_逢魔ヶ刻、猫が鳴く道、烏の多い道にはご用心


_それは、妖通りへ誘う合図……


_逢魔ヶ刻には、ご用心



猫又「にゃーーん」




______,


r5.10.31 加筆修正

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逢魔ヶ刻に猫烏 荒屋 猫音 @Araya_Neo

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