第006話 『えっ?この世界でもMODが使えるんだ!?』

 建材の回収――車で走り回って葵ちゃんのインベントリに収納してもらう――作業が終われば、今後の拠点となる場所の選定である。

 ああ、もちろんトラックの荷台に積んでいた荷物も全部インベントリに入れてもらったからね?車が軽いほうが多少は燃料の消費も減るだろうし。


「最初は新しく見て回ったマップの『黒雲が消えたところ(確定領域内)』に洞窟を見つけたから、とりあえずそこを利用しようかと思ってたんだけどなぁ」

「洞窟って……あの『穴が空いてる』洞窟ですよね?そこには虫とか蝙蝠とかその他危険生物が住んでるなんてことはないですか?」

「たぶん住んでるんじゃないかな?それも凶暴そうな方が。『なんかアイコンがスターワールドでは見たことない雰囲気だな?』と思ってタップしてみたら『荒れ地の迷宮(カーの迷宮)・Dランク(爬虫類)』って表示されてるし」

「ハッキリと『迷宮』って書いてるじゃないですか!それって洞窟じゃなくダンジョンですよね!?えっ、私、水玄さんと違って装備品とか一切支給してもらってませんよ?ステイタスさん、ビームサーベルが欲しいとかワガママはいいませんから刀か剣を私にもください!」


 ……葵ちゃんの呼びかけに『ステイタスさん』は何の返事もくれなかったみたいだ。


「てか迷宮か。初めて見るけどアップデートのコンテンツだとでも思っておけば大丈夫なのかな?」

(『迷宮』は、スターワールドシステムのコンテンツではなく別系統のワールドコンテンツです)

「だろうと思った」

「なんですかいきなりの独り言……じゃなくて、もしかしてまたシスティナさんとお話してます?私には聞こえないんですからちゃんと会話内容の説明をしてください!というか、その迷宮って中から何か出てきたりはしないんですか?『爬虫類』って但し書きから考えて、蛇とか蜥蜴、もしかすると蛙とかもいそうですよね?あと『カーの迷宮』の『カー』って何なんでしょう?『ラー』みたいな敬称?それとも『ムー』みたいな地名でしょうか?」


「いや、細かいことは知らんけど……。んー、もしもコンスタントに中から何かが出てきてるなら、これだけ車で走ってるんだから一匹くらいは遭遇してないとオカシイんじゃないかな?もしも地面に潜るタイプの生き物だったら肉眼では見つけられないだろうけど……いや、それでもたぶんマップ画面に表示はされると思うんだ」

「地面に潜航してる生き物まで見つけられるとかそのマップの感度ってどうなってるんです?爬虫類どころか今のところ昆虫ですら見かけてませんもんね……それより貴方、迷宮を目の前にしてどうしてそんなに反応が淡白なんですか?もっとこう、ゲーマーなら血湧き肉躍る感じのパトスとか、マニアとか、パラフォロスとか感じないんですか?」

「いったい何語なんだよそれは……」


 どうやらギリシャ語らしい。

 まぁそんなことはどうでもいいとして、すでに穴が空いてるところを拠点として使えないならば、新しくそれなりの広さの穴を掘らないといけないわけで。


「さすがに迷宮のすぐ近くっていうのも気が進まないしなぁ。どこに穴掘る?」

「スルーしちゃいましたよこの人……。迷宮ですよ!そこそこ大事(おおごと)ですよね?それとも水玄さんの家の庭には現代ダンジョンが開いていて金属系の単細胞生物とか湧いてるから見慣れてるんですか?私もラクしてレベル上げしたいので連れて行ってください!」

「人の家をどんな魔境だと思ってるのかな?この子、勤勉な見た目に反してゲームでは改造コードとか使ってそうなタイプだな……いや、俺も普通にMODとか使うけどさ」

(MODリストを表示しますか?)

「えっ?この世界でもMODが使えるんだ!?」

(研究と同じように、知識の消費によって新たに導入が可能です)

「マジかよ……」


「大丈夫ですか?また私だけ置いてけぼりにされてますよ?あれほど詳しく説明してくださいと……そもそもその『MOD』ってなんなんです?」

「ああ、ごめんごめん、MODは……何だったっけ?確かモディフィケーションだっけ?の略で……んー……公式に認められたチートみたいなモノ?」

「なんです?すでにチートな装備をもらっておいてさらにチートを重ねて自分だけ得しようって魂胆なんですか!?ズルすぎませんか?私にも少しくらいおすそ分けとかないんですか?」

「いや、たぶん葵ちゃんの思ってるようなチート能力ではないと思うけどね?俺が使ってたのは生産能力とか生活環境の向上がメインだったし」

「それって生産チートに電化製品ってことですよね!おおいに結構じゃないですか!……これからもずっとお友達でいてくださいね?」


 何故だろう、葵ちゃんから『利用し尽くしてやるけど心も体も許さないぞ!』という鉄の意志を感じるんだけど……。


「まぁ『知識』のポイントが必要らしいから5ポイントじゃ大したことはできそうにもないけどね?同じ様に知識を使う『研究ツリー』も伸ばしていかないといけないしさ」

「案外不便なところもあるんですね?」

「そりゃ最初からなんでも出来るとか、ゲームとして成り立たないもん。仕方ないことだと思うよ?」

「私的には苦労なく異世界無双が出来ればまったく文句はないんですけどね?」


「その意見には俺も賛成だけどな。でも頑張ればなんとかなる!って思えるだけでも随分と心に余裕が出来るじゃん。『少しの間なら二人で頑張るのもありかな?』って思えるくらいには」

「少しの間じゃなく、ずっと二人で頑張るんですよ!隙あらば私を切り捨てよう切り捨てようとするその心根を入れ替えてもらえませんかね!?」

「三つ子の魂百までだからそれは無理かも?そんなことよりそろそろ時間的な余裕があまりないから拠点の制作を始めたいんだけど……まぁただの横穴掘りなんだけどさ」

「私の命が掛かってるのにそんなことで流さないでくださいよ!そうですね、休めるところ、大切ですもんね。でも、穴を掘るって言っても鶴嘴とかシャベルとかどうするんですか?」

「ああ、そのへんは全部お兄さんに任せておいてくれ!……って言いたいところだけど、あくまでもスターワールドの能力が使えることが前提なんだよなぁ……大丈夫かな?」

(大丈夫です。多少の変更点もありますがスターワールドシステムの技術、全てが使用可能です)


 ならばなんの問題もないな!


「てことでさっそく場所の選定なんだけど。もちろん迷宮の入り口からはそれなりに離れておきたい、でもマップの中心地のほうが侵入者の確認をしやすい……てことで、迷宮から5キロほど離れた岩山、つまり最初に立ってた場所の近くで大丈夫かな?」

「えっと、迷宮の近くは危険かもしれませんので離れることに異論はありませんが、マップの中心地っていうのは何か理由があるんですか?」

「ああ、それはマップの確定範囲内なら『アラート設定が出来る』、簡単に言えばマップ内に侵入者が居れば知らせてくれるからだよ。今は遠距離武器っていうか俺のレーザーライフルしか武器がないからさ。交渉するにしても、逃げるにしても、そのまま戦闘になるにしても……距離を取って相手を発見出来る方が色々と捗るだろ?」

「マップってそんな力もあるんですか!?ちょっと万能すぎじゃないですかね?貴方の言う通りなので文句はありませんけど……私の存在意義って一体なんなんでしょうか……。これでも魔法剣士なのに……たぶん上級職なのに……」


 チラッチラッて感じで、慰めの言葉が欲しそうにこちらを見る葵ちゃんをスルー。

 ちょっと冷たすぎる?だって構うと余計な時間を浪費しちゃいそうじゃないですか?うん、普通に冷たい奴、略して『冷奴』だった。


「えっと、今から『拠点』建設予定地……なんて偉そうなモノでもないな。穴掘り予定地の前に線を……10×10グリッド分くらいでいいかな?……引いちゃうから、その枠の中に、拾ってきた木材と鉄を半分ほど、ついでに石塊を全部出しておいてもらっていいかな?とりあえずの荷物の保管場所、倉庫に指定するからさ」

「もう!どうして貴方はそこで優しい言葉を掛けられないんですか!私からの好感度が上昇するイベントかもしれないのに!あとグリッドと指定?というのががよくわかりませんけど、荷物を出すことは了解しました!」


 ちなみに『グリッド』とは『縦横高さ二メートル、つまり八立方メートルの範囲』のことで、『スターワールドの基本単位』である。

 さて、拾ってきた(初期配置されていた)資材及びその他の量であるが、


木材  :1000(重さ500グラムの薪サイズの丸太)

鉄材  :1000(重さ500グラムの四角い鉄のインゴット)

石塊  : 28(いっぱいあるので適当に拾っただけの、そのへんに転がってる石。重さは10キロくらい?)

保存食 : 50(見た目カ◯リーメイトな携帯用食料)

機械部品: 50(パソコン用のメモリみたいな見た目の何か)


 この中でインベントリから出してもらったのは木材と鉄材が500ずつと石塊全部だな。

 まぁ石塊に関してはその辺にもゴロゴロと転がってるんだけどさ。

 追加でいつの間にかトラックに積まれていたのが、


レーザーライフル:

 宇宙軍(Space Force)海兵隊(Marine Corps)強行偵察(forced reconnaissance)兵が使用する装備品なので頭文字を取って『SMF-04式レーザーライフル』と呼ばれるレーザー銃。

 攻撃力・25 貫通力・150 連射性能・1.0 最大射程・500 命中精度・近65、中55、遠40。

 てか最大射程だけ俺の知ってる性能と全く違うんだけど……。


強化軽装:

 SMF-03式強化軽装。

 こちらも宇宙軍海兵隊強行偵察兵用の装備だな。

 頭、上半身、下半身、腕部、脚部が一揃いになっているオールインワン防具。

 ちなみに宇宙軍海兵隊強行偵察兵が何なのかの説明はゲーム中では一切なかった。見た目は少しスリムになったストー◯トルーパーだな。

 刺突耐性・100 打撃耐性・50 熱線耐性・50 耐熱・-5 耐寒・+5。

 槍とか弓には強いけど斧や棍棒、レーザー兵器や爆発兵器にはそれなり。見た目の通り、熱がこもるので暑いところでは着られたモノじゃない。つまり『ここで装備しようものなら、あっという間に熱中症を起こしてしまう』役立たずな全身鎧である。


医薬品: 30

銀貨 :800

 銀貨に関しては『どこの国の貨幣なんだよ……』と思わなくもないが気にしてはいけない。見た感じは掘り起こされた古代ローマの貨幣って感じかな?

 何にしても鋳造の質はあまりよろしくないと思う。


 最後にしばらくのライフラインになりそうな、配達予定だった(トラックに積まれていた)荷物たち。


米  :20(30キロ袋)

小麦粉:5(25キロ袋)

塩  :10(1キロ袋)

水  :30(2リットルペットボトル)、58(500ミリペットボトル、30本は炭酸水だったりする)

防災袋:1

 まさかの異世界で家業が米屋であったことを感謝する日が来るとは……まぁ調理道具がないから米や小麦粉などの食材をすぐにどうこうはできないんだけどさ。

 防災袋は家の中にあると邪魔なのでずっと積んだままになってただけだったりする。

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