勇者と魔王の戦争

まんぼ

第1話 勇者と魔王その始まり

 地球から遠く離れた宇宙の果てのような場所にある惑星、その星に草木は生えず、緑はなく、とても生物がすめるような環境ではなかった。しかしそこにただ二匹の知性ある生物が存在していた。


 片方は人型で、毛むくじゃらの体の大きな生き物。手足は長く、太い。体毛は白くどこか神々しさを感じさせるような雰囲気をまとっいる。


 もう一方は4足歩行の獣のような姿をした生き物。黒々としているその皮膚の下はみっちりと筋肉で埋め尽くされていた。二本の長い角を頭に生やし、赤茶色の鬣をその身にまとった、まさしく、威風堂々というべきいでたちをしている。


 双方ともこの地で生まれ育った生き物ではありません。別の惑星から来た生き物たちだ。


「おい黒獅子」

「なんだ毛むくじゃら」

「お前ここに来てから何年になる」

「ここに来てからは…そうだなお前に出会うまでに127年、言語を互いに理解するのに3年、そこから今までざっと…すまない、忘れた」

「3146年だ」


 ずっしりとした体を少し動かし、さも驚いたとでもいうように、目線をやる黒獅子。


「それほどまで時間が経過していたとは知らなかったな」

「そうだ、我々は長い時を共にしてきた、そろそろ退屈になってきてはいないか?」


 腕を組み、威厳のある…その毛だらけの表情からでは表情を読み取るのは難しいがおそらくそんな顔をしているのであろう…表情をした毛むくじゃらは、黒獅子に語り掛ける。

「そうだな、だがしかしこのような枯れた大地では我々にやれることも限られている。何をするというのだ?」


 黒獅子の問いかけに対し、毛むくじゃらは、おもむろに手を差し出した。

 毛むくじゃらが差し出した手の上にはがあった。



「なっっっっ水だと?」


 黒獅子はその細い目をこれでもかと見開き食い入るように毛むくじゃらの手を見つめた。この星に水なんてものが存在するわけがない。つい先刻まではそのはずだったのに。



「そうだ気が付いたらできるようになっていた。今はまだこの程度の水しか出ないが、鍛錬を重ねれば、この枯れた大地を潤すこともできるやもしれぬ」


 いくばくかの希望の光に対し、その毛だらけの顔は笑っているようにも見える。


「なぜこのような技術が使えるようになったのか教えてはくれまいか。俺にもこの大地を再生させるための力が欲しい。」


 必死で懇願する黒獅子に対し、その答えは冷淡なものだった。


「おそらくはこの大地に有するエネルギーがこの星の空間に存在しているのだと思う。今の私にはそれが見えるようにもなっている。そしてこの力、つまりそのエネルギーを操ることができるようになった理由だが、おそらく体がこの星になじんだからではないかと思うのだ。」


「星に?」


「そうだ、私はお前よりも700年ほど早くこの星にたどり着いた。だからこそこの大地にお前よりも体がなじみこの力を使えるようになったのだと思う」



 浮かんでいた水は地に落ち乾いた大地に素早くしみ込んでゆく。それはこの水が大地を救うことができることを示すかのようであった。



「そうか…原理は分かった。確かにこの力があれば、この大地を再生することもできるやもしれぬ。ただ、残念ながら俺が同じ力を使うにはいくばくかの時間が必要なようだな」


 黒獅子は自分ができることはないことを自覚し、大きく肩を落とした。


「そう落ち込むな、私とお前では体のつくりが違う、この力に適応するために必要な時間も私と同じとは限らないではないか。それにお前には私の相談相手としてこの力を解き明かしてほしいのだ。協力してはくれないか」


励まされ気を取り直した黒獅子。


「そうだな、たとえ俺に力がなかったとしても俺にできることがないわけではない。可能な限りこの星のために尽力しよう」


「お前が協力してくれるとなれば心強い。ぜひよろしく頼むよ」


地にしみこむ水を見て、感嘆のため息を漏らす2匹。


「それはそうとこのエネルギーは本当に摩訶不思議だな…さしずめといったところか」


「そうするとこの力はということにでもしておくと都合がよさそうだな」













 彼らが星の再生を誓ってから何年もの時を経たある日のこと、黒獅子はかつてとは打って変わった青々とした平原の中で、隣の白い毛むくじゃらに声をかけた。

「おい毛むくじゃら」

「なんだ黒獅子」

「我々は幾星霜もの時をかけてこの大地を再生することに成功した。あたりは緑であふれ、大小さまざまな生き物が、この星から生まれた」


 黒獅子の言う通りこの大地には彼らが生み出した水、風、炎、それらから生み出された多くの生物が、この星を跳梁跋扈している。


「そうだな、これほどまでに長い間この星のために尽力した買いもあったというものだ」


「我々にできることはない、それほどまでに我々は十分にこの星に尽くした。そうは思わないか?」


「確かにそうかもしれない、だから何だというのだ?黒獅子よ」


「やることがないのだよ。いい加減こうして悠久の時をただひたすらにのんびりと過ごすのにも飽きてきた。だから毛むくじゃらよ、一度ゲームをしてみないか」


 毛むくじゃらは沈黙し、黒獅子に説明を促す。


「まずはルールの説明だ、俺たちはこれからそれぞれ星の反対側に住む。そこを拠点として、互いにそれぞれ軍勢と、リーダーとなるものを用意する。どんな手段を使ってもいい、相手のリーダーを殺したほうの勝ちだ。どうだ?シンプルでいいゲームだと思わないか?」


「それはつまり、この星を破壊するようなことになっても構わないということか?」


「もちろんだとも、俺達にはこの星を再生する手段がある。壊してもまたやり直せばいい」


少し考えるそぶりを見せる毛むくじゃらだったが、首を縦に振った。


「乗った、だがしかし、我々はそのゲームに直接的に介入してはいけないことにしよう。我々が力をふるうと、ゲームが成り立たなくなってしまう」


「了解した。さて、さっそく俺の軍のリーダーを決めるとしよう。そうだな…魔法をだれよりも使いこなし、操る王。と名付けようか。」


「ならば私はどうするか…お前の言うところの魔王を倒すのに、生半可な者では太刀打ちできんだろう。勇敢で勇気ある選択ができるものと名付けよう」


「さて、ここで名前は決まった。後はそれぞれ軍を作ればいいだろう。これから、およそ1000年。その期間を準備期間としてそののち我々の勝負を始めよう。」


「賛成だ。では、しばらくの間別れるとしよう。また1000年後に会おう」


「ああ、ではさらばだ。わが友よ」


瞬きをした間に彼らは消え、そのあとにはまるで最初から何もいなかったかのように、ただ、一陣の風が吹くのみであった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇者と魔王の戦争 まんぼ @haruto0610

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ