第2話
Dear.真人
Dear.なんて単語を使うのは中学生ぶりだから、思わず本棚に眠っていた英和辞典を引っ張り出して来て意味を確認しながら書いてはみたものの、日本語で親愛なる真人って書いているんだと思うと恥ずかしくてちょっと顔が火照っています。
本物の真人に会っている時に照れることなんてなかったんだけど(これはこれで失礼か)、手紙って実は不思議な力があるのかも。
先月はお姉ちゃんの七回忌に来てくれてありがとう。お姉ちゃんと真人は仲が良かったから、お姉ちゃんもきっと喜んでいると思います。
改まって手紙というと、私も真人から最初受け取って戸惑ってしまったけれど、SNSが発達している今だからこそ乙というか何というか……意外と風流で雅な気がして、私も今こうして筆を取っています。
そうそう、私の気の強さ(?)がわかるエピソードを書いてくれてありがとう。忘れていたわけではないけれど、あの時を思い出して私も懐かしい気分になれました。あなたのように笑えはしなかったけれど。だって、あなたが病院に運ばれた時は「もう二度と会えないかもしれない」と思ったから。
あの日に限って、真人は何も言わないで出掛けて行って、「連絡が取れないなぁ、おかしいなぁ」と思っていた矢先、達也くんと恭一くんが血相を抱えて私の家まで来て「真人が溺れた! 今、救急隊員の人に助けられて病院に向かってる!」って。
あの時の私の心境は多分、というか絶対に真人にはわからないと思う。むしろどれだけ私が心配したかわかって欲しいから、今からでもあの沢で溺れてもいいくらいに恨んでいます(ちょっと怖いか)病院でも真人は起きたらピンピンしてるし、憎らしいことこの上ないと思ったらビンタの一つも食らわせたくなるでしょう?
何だかここまで書いてみたら「気の強い女」ではなくて、「とても気の強い女なお且つ性格の悪い女」に思えてきました。おかしいな、本当の私を知っている真人なら愛情深い私の一面だって理解してくれるよね?
ところで、真人はあの沢での事故をどう思っていますか? これはあくまで私の勘だから根拠はありません。でも、水に慣れ親しんで来た真人があの程度の沢で足を滑らせて溺れるなんておかしいな、とずっと違和感を感じていました。もし、本当にただ単純に足を滑らせただけならいいの。弥生は心配性だなぁ、とそう言われてしまえば、笑いごとで済むのだけれど……私にはもっと別の何かがある様な気がしてなりません。真人のことだからたいしたことではなくても、きちんと私に話してくれると信じてもいいかな? だって、お互い遠距離恋愛の関係になってしまったし、それに何かあったとしても、もう時効にしてしまってもいいと思うの。
何だかここまで書いてみたら暗い内容ばかりになっちゃったね、ごめんなさい。本当は聞きたいことが山のようにあった筈なのに。東京での暮らしはどうですか? 家具は揃いましたか? カーテンは真人の好きな緑色のものにしたの? 会社はどうですか? 他の社員はどんな人達? まだまだ書き足りないことばかりで質問するだけで便せん一枚は使ってしまいそう! 東京にはやっぱり私も憧れています。どこの田舎でもみんな若者が憧れて都会に出ていくという話を聞くし。私も行きたくない訳ではないけれど、観光に行くくらいで十分かな? と、思ってしまう。だって、雑音や人や誘惑が多過ぎてきっと私は立ち尽くしてしまうもの。だから、もし私が東京に行くことがあったら真人が案内してね。真人はきっと田舎者丸出しの私に苦笑しながら、買い物に付き合ってくれるんだろうなぁ。
私がこの春から就職した工場は、社員はおじさんばかりだけど、事務のパートさんは女性で何やかんやでうまくやっています。真人の本質はきっと変わらないとは思うけど、どうかここでの暮らしを忘れないでね。
弥生より
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