第4話 花を贈りたくなる女性
生まれて初めて 花を送った女性は事務のマドンナ、まりさんだった。まりさんは学生のアルバイトとして 事務室でパソコンのデータの入力をしていてくれた。まりさんはグラビアのアイドルがそのまま抜け出してきたような美しい人で、大学の方でもミス 何々とかいうものにものに選ばれていたはずだった。まりさんの周りにはいつもある種の 秩序というか犯してはならない一線が自然に引かれている感じだった。まりさんはバドミントン部のキャプテンで疲労骨折をしてしまうぐらい何事にも熱心な子だった。とても真面目で一途で、高校の頃からもう3年も付き合っていた彼がいたので付き合うことができないだろうなとは思っていたが、僕は彼女の誕生日にバラの花束を送った。叶わぬ 恋だというのは分かっていたけれど まりさんが素敵だったし どうしても一矢報いたいという気持ちが抑えられなかった。僕は花束と一緒に短い手紙を送った。あなたには付き合っている彼がいるし、 今更 付き合っていただけないのは分かっているけれども、素敵なあなたに朝どれの美しい薔薇を見つけたので、誕生日を祝って送らせていただきます。
まりさんはとても感激してくれた。その気持ちはおそらく 何年かは消えないでいるだろう。素敵な美しい人が、美しい心持ちでいてくれるのはとても幸せなことだ。僕は十分満足していた。本当にいいバラっていうのは1本で何百円もするんだね、僕はその時知った。僕はその時、その店に今ある限りのバラを全部くれと言って注文した。随分お金はかかったけれども今でも後悔はしていない。
数年前 僕はまりさんと近所のボーリング場で偶然あったことがあった。まりさんは社会人になって銀行で働いていたけれど 全く変わっていなかった。まりさんは 何か言いたそうな顔をしていたけれど 僕はそろそろ結婚するのかな と思った。おそらく結婚の報告 なんだろうと思った。相手は当然 学生時代から付き合っていた彼 なんだろう まりさんはそういう人だ。確かめてはいないけど。
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