真面目で清楚な委員長は猫をかぶるのをやめた

ウルトラサイダー

第1話 将来の不安

 この世の中は働いている人が偉い。真面目だろうが不真面目だろうが働いている人は褒められ、働かず家に引きこもっているニートは蔑まれる。自分はニートになって社会から蔑まれるのだろうな。

 長野大吾は机に突っ伏しながらそう思った。

いや、自分はニートにもなれないだろう。父はサラリーマン、母は専業主婦。絵に描いたような平凡な家庭だ。平凡だからこそ、真面目さが取り柄なのだ。ニートになることを父と母は絶対に許さない。家なきニートはもはやニートではないのだ。

 今は高校生だからまだいい。何もしなくても、周りはしょうがないわねぇ、まったく......ぐらいで見逃してくれる。しかし、社会に出れば自分は蔑まれ、後ろ指さされて社会の端に追いやられるだろう。そして、ニートにもなれない自分に待っているのは......死!

「はぁ......」大吾は大きなため息をついた。

「おい!長野!話しをきいているのか?」

その時、担任の怒声が飛んできた。自分の将来についてうじうじ、じめじめと考えていた大吾は現実へと引き戻された。

「え?あー、すいません」

「すいませんじゃない!まったく......確認だが、今、何について話してるか分かるか?」

「えっと......」大吾はとっさに黒板に目を向けた。

「あ!ツチノコの生態について......です!」

「バカ!それは来週のテーマだ!」

 教室内にいた全員が笑った。担任も怒りを通り越して、苦笑いしている。

「ほんとにしょうがない奴だな、お前は。今は10月の秋の収穫祭について話し合っているんだ!」

「あ......そうでした......」

「なんだ、その間抜けな返事は。いいか?脳みそ空っぽのお前のために、もう一度!ゆっくりと!丁寧に!分かりやーすく!説明してやる!秋の収穫祭というのはなぁ......その......えっと......秋の食べ物を収穫するんだ!」

「全然説明できてねえじゃん!」生徒の1人がヤジを飛ばした。教室からどっと笑いが起こる。

「うるさーい!」担任は顔をゆでだこのように真っ赤にしながら怒鳴った。その様子を見て、生徒達はまた笑った。

 担任はフゥと一息いれると、さっきとは打って変わって笑顔になった。

「私はね......わざとあいまいな説明をしたんだよ。君達が秋の収穫祭の主旨をちゃんと理解しているかどうか試すためにね」

「ほんとかよ?」さっきまで笑っていた生徒達も、担任のああ言えばこう言う姿勢にげんなりしてきた。

「そうだ!では、委員長の長瀬亜希!説明を頼む」

「はい!」

 クラスの委員長、長瀬亜希は急な指名に動じることなく立ち上がり、説明を始めた。

「秋の収穫祭は、本校の生徒だけでなく、地域の人達と協力して行う大事なイベントです。まず、3つの食材に班を分けます。今年は栗、さつまいも、きのこの3つです。今年はといっても毎回同じかんじですが」亜希の一言に生徒達はクスッと笑った。

「そして、それぞれの生産者のところに行き、2週間、作業を手伝います。収穫祭当日、その食材を使って料理を作り、地域の人達に振舞います。これが秋の収穫祭のざっとした説明です」

パチパチパチ、クラスから拍手が起こった。

「うんうん、さすが長瀬だな。これで収穫祭のことがよく分かっただろ?長瀬!」

「先生!長瀬さんじゃなくて、長野じゃないですか?」

「あ!あぁ、そうだった。名前が似ているから紛らわしい......」

「生徒の名前を覚えてないとか教師失格だろ!」

「うるさい!」

 担任は生徒を怒鳴りつけると、コホンとわざとらしい咳払いをした。

「よし!長野!特別に選ばせてやる。栗、さつまいも、きのこ。どれでも好きなものを選べ」

「......」

「おい!長野!聞いているのか?長野!!」

「え?あ......あぁ」長野は焦った。収穫祭の説明をするだのなんだの言ってたところから、まったく聞いていなかったのだ。

「えーっと......なんでしたっけ?」

「ばっかもーん!!」

担任の今日一番の怒声が教室中に響き渡った。

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