scramble

@omochsukey

第1話

ー 表通りー

 ややミニマムな車が横断者専用の歩道に突っ込む。

 通りすがりの市民は声を上げた。始まった喧騒の要因はマフィアだった。

「嬢ちゃん最高にハイってやつだな」

 黒スーツの男が車から声を上げた。そして嬢ちゃんと呼ばれた人物は早くも、バットで数人と殴り合ってる。殴り合うと言っても一方的に殴るのは彼女で、その様は乱暴で当たる攻撃の全てがクリティカル。傍若無人とはまさにこのことで少女は完全に無敵状態だった。

「行ってくる!」

「了解」

 長い髪をなびかせて交差点の近くにあるBARの室内に駆け足で向かって入っていた。


ー BARー

「味しないわ」

 バーの店内。ワイングラスを傾けて男が言った。勢いよくBARの扉を蹴り破った少女はバッドを構えた。複数人で取り囲む黒服を、やっぱり物ともしない。頭上よりくるガラスの瓶も脇腹に重い一撃を入れて無いものとする。巨漢を物ともせずに、最後に座った男のこめかみに銃を突きつけるようにバッドをそっと向けた。「怖いね」と言って男は一旦ワイングラスを置いて、手を上げた。それに対してただ、ニヤリと少女は笑った。

「協力を」


ー 学校ー

「似てるって」

 女の映った写真集とスマホに映った女を見比べて言った。

「例のヒナちゃん?前世一緒とか」

「馬鹿。...髪型だけだろ」

 俺は少しだけ小声で言った。が、否定には声量と材料が足りない。ヒナちゃんはツインテールだが、ツインテールはレアだ。

「下らね。邪魔」「掃除の時間」次に周りのやつはそんな風に喋り出していて、急いで引き出しの中に雑誌を、ポケットにスマホをしまった。

「いけねー。あやうく自分の世界に入っちまうところだった」

「???」

 親友の紫音が顔に疑問の意を浮かべていた。


ー 放課後ー

 学校の友達に理由はいらない。席が隣だった、趣味のゲームが一緒だ、理由は山ほどある中から選べいい。ただ、俺の趣味は他人から見たら良い趣味とは言えないし、そこまで広くない。まあ、クズなこと話してた方がバカみたいに笑える。腹の底から嘘みたいに。それが俺の学校に馴染めない理由の一つでもあった。

家に帰ると酒気帯びた父がいる。いや、言い換えると、赤く腫れた顔したナニカがいるだった。

(やべー同族嫌悪)

 学ランを着替えないまま、玄関で脱いだ靴を履き、家の扉を開けた。外に出る、少し歩いて俯く。

 もう嫌だ全部が。風鈴の吊るされた六月、俺は悲惨な現実を目の当たりにし、

「雷雷軒、行くか...」

 なんて思っていた。


ー 歓楽街ー

 思い付いたことを実行した。なんて言っても、席に座って飯を食う、っていう簡単なものだが。赤い板を加工した食卓、つまりテーブルに一つ、ラーメンが置かれた。

「相席良いっスか」

「あはい、良いっすよ」

 女の店員が声を掛けてきた。俺は運ばれた中華を頬張りながら、了承の言葉を口にする。その後、向かいの席にぐにゅーっとした負荷が加わった。

「リンドー?お前も飯食いに来たのか」

 その声を聞いた時、俺は一瞬で誰か分かった。

「アサクサ!」

「嬉しそうな顔するなよ。...飼い主を見つけた犬だな」

 先輩の浅草、肩まで伸びた長い髪が印象的な女生徒だ。

 まあ、先輩なんて言っても俺は基本タメ口だけど。

「アサクサ。お前何言ってんだ?」

「無自覚かよ、まあ、リンドーらしいわ」

 浅草は店員にラーメンをオーダーして、片肘をテーブルについた。

「家に飯、置いてないの?」

「なにそれ。ムカつくなあ」

「あはは。先輩アピくらいしちゃうよ。私は」

 アサクサに宛てる言葉が思いつかない。心配とか気遣われたくないからだ。

「飯作りに来るとかヤメロ」

「何、想像してんだか」

「そういえば最近、『愚連隊』が暴れ回ってるって」

「『愚連隊』?」

「暴走族みたいなやつ」

 この街に暴走族は無粋だと思った。

 それはそうと、この話題の信憑性はどうなんだろうか、アサクサが好んで提示するあたり、そこまで有名な話じゃないと思うけど。

「なんでも『刀を持った侍』を探してるんだって」

「意味わかんないよね」とアサクサは苦そうに笑った。

「意味わかんねえよ」と俺は返した。

「ま、リンドー君も気をつけなよ」


 熱量を持った肺に冷たい空気が入り込む。外に出ると街は赤かった。正確には真っ赤な提灯で飾り付けがされている。赤と黄が浮かび、混じり合う、その場所をみんなは歓楽街と呼んでいた。俺は帰り道を歩いた。


ー アジトー

 どこからか名盤に載りそうな音楽が流れている。ゆったりとした空間。金髪の女はそこでコーヒーを飲んでいた。赤い馴染みのスタジャンは外していない。

 今朝の二人は大きめのラウンドテーブルに向かい合い座っているのだが、スーツ姿の男の方は爆睡してテーブルに足掛けている。女は怪訝そうに眉間を狭めた。

「起きろ」

「起きろーーーっ!!!」


ー 学校ー

 学校は昨日の話で持ちきりだった。


「なあ。聞いた?」

「なにを?」

「人斬りの話」

「昨日、七人が斬られて死んだって」

「それって愚連隊が追いかけてるっていう」

「斬られたヤツが愚連隊なんだよ」

 なんて話が転がってる。



 昼食の時間。

 とある動画がスマホのエアードロップ機能で流されてきた。

「流血注意...?」

 その動画の内容は仮面をつけた男が刀を持って、複数人を相手取ることが目玉だ。

 日本人ながら素直にかっこいいと思った。

「グロ映像流すなよ食事中に」

「紫合も?」

「イタズラ?...これ」

 イタズラの可能性は高い。その動画の編集はやけに凝ってる、それにクオリティが高い。グロい。

 友人達がざわめき、動画の削除をするなか、俺はその動画を最後まで消しはしなかった。

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