アッパーハーツ

六辺香 文華

アッパーハーツ

「…ここは何処だ」

俺はなんでこんな所にいる。

けれど、何処か懐かし味を感じるのは何故だ。

いつもなら、煌びやかなネオン街に沢山の友人たちと共に身を投じるのに。

まるでそのネオン街が、朽ちてしまったかの様な、色の無い世界。

誰一人もいない。

何かはあるけどその何かがわからない。

唯一、分かることがある。

一歩後ろは、道が無い。

いや、元々はあったのか、ただ原型を留めていない。

「進むしか、無いのか…」

俺は歩いた。重い何かを背負いながら。

その何かに気付いたのは、そう長い時は経たなかった。

全くと言っていいほど同じ風景の中を歩いていると、叫び声が聞こえた。

女だ。

自然と声がした方向へ走った。

「なんだ。これは」

グチュグチュと音を立てながら身体ーいや、最早身体と呼んでもいいものなのかーを変形させている。

まるで、化物ー

次の瞬間、その化物は俺に向かって攻撃してきた。俺は辛うじて避けることができた。何故かさっきまでの重だるさは無く、むしろスーパーマンのように体が動くことができていた。

ギャアアアアアあだずげでーーー!!!

女の声で、化物は言った。

俺は後ずさりした。こんなもの、俺には関係ない。

ところが俺は両手に何かを握りしめていた。

左には、刀を。右には、注射器を。

「…俺に、殺れと?」

不思議とゾクゾクした。アドレナリンが、身体中を巡ってるのが分かるくらい高ぶっていた。

注射器は、捨てた。

俺は両手で刀を持って化物に向かった。

ぎゃああああアア〇〇くんずギィィ!!!

だいずきだよぉぉぉぉお!!!

ーは?なんで俺の名前を知ってんだ。しかも好きって…なんだよ。

頭の中は疑問でいっぱいだったが、それよりも身体がこの化物を殺ることを求めていた。

俺は地面を蹴り上げ、空中で化物に向かって刀を振った。

ぎゃあぁあぃいいだいよぉぉおおあ!!!

血が、噴水の様に飛び散った。叫び声が聴こえなくなるまで、ひたすら、刀を振った。

「はぁっ、はぁっ」

もうこれでいいだろ。身体はだいぶ満足した感触があった。

「…あれ?」

いつの間にか、知っている顔が目の前に映った。

しかし、その顔には笑顔はなかった。その代わり、首に真っ赤な線が描かれていた。

まるで、シタイ…

そして手に持っていた刀はー包丁に変わっていた。

俺はゆっくりと両手を見つめた。

青紫色の血に塗れていたはずだった両手は、新鮮な赤に染まっていた。

あれ?俺は何を殺したんだ。

だって、アレは化物…

「ばけ、モノ…」

あは。あははははははははははははははははは。

不思議と、笑いが止まらなくなった。俺が殺した化物みたいに。

いやー化物ー俺の彼女みたいに。

俺はベランダに出た。

そして柵に手をかけー


ギャハハハハハハハハハ!!!

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アッパーハーツ 六辺香 文華 @Fumika_Rokuhenkou

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