第36話 甘く囁く

 魄(たま)をレジに残して、整理中だったブックスタンド設置場所に戻る。


 『ほんと人間ってバカばかり、魄(たま)じゃないけどやってられないわ』


 3人の中では一番年上だから、あんまり文句を言わないようにしているが、本当のところは1番気が短いのが皓(しろ)のようだ。


 自称160cmと言っているが、小顔で超一流モデルのようなプロポーションのせいか、高身長に見える。


 漆黒のストレート長髪を、無造作にかき上げながら、ひとり言を呟く姿は、まるで美しい女神のようだ。


 ブックスタンドの前も、レジ前と同様に赤黒いドロリとした液体が、真っ白な床を汚している。


 細く真っ白な人差し指と中指を立て、柔らかそうな真っ赤に唇に寄せる。バサッと音がしそうな長い睫毛を伏せて目を閉じる。


 ほんの数秒静止のあと、皓(しろ)が甘く囁く。


 『सर्वशक्तिमान् ईश्वरः। एतत् अशुद्धं स्थानं शोधयतु।』

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