俺の隣には、いつの間にか君がいて。 ~happy moments with her☆彡~
Mimiru☆
相愛 -√SATONE KAGUYA
Action.1 杓璃祭 前編
パンパン、と花火が散る。
杓璃祭、とかかれた看板が青空の下に立つ。
すれ違う人はみな、楽しそうでその中をかきわけるように足を進める。
時計の針が、十一時を指す。
俺が文化祭を回りたいと思った相手はー
何人もの人が、ドアを行ったり来たりする。
そんな中、俺はふうっと一息吐く。
ゆっくりふうっと一息つき、まっすぐ彼女の元へー
「いらっしゃいませ。何名様で……」
「よぉ、来たぞ」
一つに縛られた金色の髪が、ゆらりと揺れる。
瑠璃色の瞳が、ぎょっとしたように丸くなった。
「……上杉、君?」
「なんだよその顔。時間ぴったりだろ?」
「そ、そうだけど……本当に来てくれるなんて、思ってなかったから……来るならちゃんと連絡しなさい。そのための携帯でしょ?」
髪をくるくるさせながら、ふてくされたように言う。
彼女は
金髪碧眼と長身という持って生まれた美貌から読者モデルもやっており、大学ではかなりの有名人だ。
一見おしとやかそうに見えて、何故か偉そうでいつでも上から&命令口調。
正直、喧嘩することの方が多かった奴……でもあるんだが……
「……何? 人のことじろじろみて。何かついてる?」
「あ、悪い。相変わらず様になってるなぁと思ってさ……結構いいじゃん、それ」
白いフリルの付いたカチューシャ、襟と袖以外は黒いワンピースに、フリル付いた白いエプロンを組み合わされたドレス……
これは俗に言う、メイド服と言われるものであろう。
よくよくみると周囲の女子も、同じ物を着て接客している。その中でも一際彼女は目立っていた。
そりゃ読者モデルでもお馴染みの輝夜聡寧だ。
入ってくる人、すでにいたお客さん、誰もが一度は振り向いてしまうほどで……
「……それだけ? 国語専攻なのだから、まともな感想くらい言ったらどうかしら」
人が褒めたにも関わらず、こいつはいつも不機嫌そうに言葉を返す。
せっかく綺麗で可愛い格好も、怒ったような表情が台無しだ。
相変わらずの調子に、俺もいつも通りの言葉を返してしまって……
「失礼な言い方だな。褒め言葉なんて、何度も言われ慣れてるだろ?」
「私は周囲の人間からよりも、あなたの口から聞けた方が何倍も嬉しいけど」
こいつは何を言っているんだろう、と改めて顔を見る。
けれど彼女の顔は真顔そのもので、ビー玉のような瑠璃色の瞳が真っ直ぐこちらを向いていた。
思えば、こいつの顔をじっと見たのなんていつ以来だろう。
吸い込まれるほど綺麗な瞳に俺は、直視ができなくて……
「あ、あーなんかお腹すいてきたなぁ。せっかく来たことだし、中入らせてくれよ」
ここで正直にきれいだ、かわいいな、なんて言えたもんじゃない。
こいつに何を言ったところで、満足しないのは目に見えている。
それに、だ。その言葉を口にしてしまえば、認めざるをおえないじゃないか。
自分がなぜ、彼女を選んだのかをー
流れるように視線を逸らす俺に、彼女ははあっとため息をついた。
「本当あなたってだらしないのね。まあ、分かっていたことだけど」
「うるせぇ、ほっとけ」
「まあいいわ。せっかくきてくれたんだもの。今からこの私が、直々にあなたをもてなしてあげる」
そういうと彼女は、俺の腕をとる。
こともあろう他、彼女は自分の腕をからませてたくらんだように笑う。
その笑みに不気味ささえも感じた俺だったが、からまれた腕のぬくもりがどうしようもなく照れくさくて、そんなことさえ気にならなかった。
室内は、かなりおしゃれだった。
用意された机にはテーブルクロスが敷かれ、壁やホワイトボードにはかわいらしい装飾がほどこされている。
今年のカフェのコンセプトは、『SNS映え間違いなし! 女子による女子のための、イマドキカフェ』らしく、周りは女子ばかりで男がいたと思っても大体がカップルだった。
その中で俺は男一人、むなしく座らされるという……なんという公開処刑……
居心地が悪いったらねぇ。早く食って、ここから立ち去りたいくらい……
「おまたせ」
聞き慣れた声がする。
やっときたか、と思って顔を上げると、彼女の手に料理があることに気付く。
オムライス、だろうか。
こほんとわざとらしく咳払いをした彼女は、そっと皿を机に置き……
「これ、よかったら食べて」
「え、まだ俺頼んでもないんだが……」
「いいから黙って食べて」
こういうところはやはり輝夜だ、なんて思ってしまう。
こっちの意見なんて、求めてもないとでもいうように腕を組みながら俺を見下ろす。
普通のオムライスかと思いきや、卵が中心に向かって渦を巻いておりまるでドレスのようになっていた。
中心にはトマトが刺さっており、周りにデミグラスソースがかけられている。
出されたものは仕方ない、とスプーンを手に取り、一口食べてみると……
「……ん、うまっ。見た目に特化してる割には味結構いけるじゃん」
「……本当? お世辞じゃないでしょうね?」
「お世辞じゃねぇって。普通にうまいよ、見た目も綺麗だったし。さすが調理師を目指している生徒だな~作ったやつの顔が見てみたいぜ」
「見てみたいって……ここにいるじゃない」
ん??
「それ、私が作ったのだけど」
そういいながら、彼女はそっぽを向く。
思わぬ言葉に俺はつい、オムライスと彼女を二度見した。
こいつー輝夜は調理師・パティシエコースに所属していながら、料理が不得意だ。
練習に何度か付き合わされた俺にとっては、にわかに信じがたい。
あんなに不器用で。見るにも堪えなかったあの輝夜が?? これを???
「プロの料理人に代理をお願いした、の間違いでは?」
「あなた、失礼にもほどがあるわよ」
「わ、悪い……この間まで卵の割り方までぎこちなかったから、つい……」
「練習したの。文化祭でカフェをやるって決まった時から。……と言っても、作れるようになったのはこれだけ、だけど……」
一体、どれだけの時間を費やしたのだろう。
よくよく見ると、彼女の指にはいくつか絆創膏が張られていた。
きっと何度も、何度も練習したのだろう。
そういえばこの前ケーキを作っていた時も、あったような気がする。
彼女の不器用さを知っているからこそ、その姿になんだか感慨深くさえなってしまい……
「それでも、すげー進歩だろ。クラスのためとはいえ、そこまでしなくても……」
「……クラスのためじゃないわ。食べてほしかったんだもの、あなたに。私の作った料理」
そういうと、彼女はおかれたスプーンを手にする。
輝く卵とケチャップライスをのせたスプーンが、目の前に運ばれー
「はい、あー……ん」
それが俺に向けられていると把握するのに、時間がかかった。
普通に見える彼女の頬は赤らんでいて、唇が少し震えている。
これは……食べろってこと……だよな……
「あ……ん」
「……どう?」
「……さっきも言ったろ、うまいって……」
「そう……当然でしょ」
安心したように、彼女が優しく微笑む。
その笑顔は見たことのないくらい綺麗で、優しげなものだった。
見ているこっちが、引き込まれるくらいにー
「シフト、もうすぐ終わるの。それまで、待っててくれる?」
「嫌っつっても、待たされるんだろ」
「当たり前じゃない。あなたと行きたいところ、たくさんあるんだから」
澄ました笑顔で去っていく彼女の足取りは軽く、どこか嬉しそうに見える。
楽しそうにクラスメイトに談笑している姿は、初めて見る「輝夜聡寧」の姿だった。
その後も彼女は、忙しい時間帯にも拘らず幾多の客をさばいていく。
誰もが彼女の存在に一度は声を上げ、写真やサインを求められては作った笑顔を向け……
「……俺には嘘でも笑わねーくせに、他の奴には向けるんだな……」
その笑顔が偽りでも、彼女がはる虚勢だとわかっていても。
どこか胸がもやもやして、なぜその感情を彼女に感じてしまうのか認めたくなくて。
そんな彼女を見ないようにと俺は、携帯へと視線を移したのだった。
(つづく!!)
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