歪つ火 -イビツビ-
三浦晴海
第1話
一
空は薄水色に
時折強く吹く風が景色をゆったりと波打たせていた。
遠くの山々は眺めているうちにも
平日水曜日の朝は晴天でもレジャーに向かう人は少なく、サービスエリア内も
パーカーのポケットからスマートフォンを取り出して目的地までのルートを確認する。二つ先のインターチェンジで高速道路を下りてからは山道をひたすら走ることになるようだ。キャンプグッズ一式を積んだ250ccのバイクでは満足にスピードが出ないかもしれない。とはいえ急ぐ旅でもない。正午あたりの到着を目標にのんびり向かうつもりだった。
画面のお知らせ欄に一件の留守番電話が残っている。登録時刻を見ると運転中に電話が掛かってきたようだ。友美は発信者の名前を見てしばしためらったが、結局は再生ボタンをタップして端末を耳に添える。聞き慣れた中年女性の声が前ぶりもなく聞こえてきた。
《総務の
早口でまくしたてられたあと、プツっと電話の切れる音が聞こえて再生が終了する。友美は端末を耳に押し当てたまま、しばらく目を閉じて深呼吸を繰り返した。わざわざ電話を掛ける必要もないのに、どうしても黙っていられなかったのだろう。見慣れた職場の光景が思い浮かんだが、すぐに頭の隅に追いやり忘れ去った。
あらためて目を開くとオレンジジュースを飲みきってペットボトルをゴミ箱に捨てる。そのまま見晴台を背にするとステップを踏むような足取りで駐車場へ戻った。ネイビーのガソリンタンクが光るクラシカルなバイクが、お
ヘルメットで頭と耳を
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